反訳の素浪人 まきゃべさんの事件簿
「猫の鳴き声の謎」
まきゃべは、自分の職業を説明するたびに必ず二度目の質問を受ける男だった。
「反訳士です」と言うと、まず「はんやく?翻訳家ですか?」と聞き返される。
「いえ、『反訳』です。音声を聞いて文字に起こす仕事です」と説明すると、決まって「ああ、テープ起こしのことですね」という返事が返ってくる。
そう、まきゃべは反訳士——音声を文字に変換する仕事人だった。AIが発達した現代でも、訛りの強い方言や特殊な専門用語、あるいは複数人の会話が入り混じった音声など、人間の耳と経験が必要な領域はまだ存在していた。そのニッチな世界で、まきゃべは腕利きの「素浪人」として生きていた。
事務所という事務所はなく、自宅の一室にパソコンとヘッドフォン、そして高級な集音マイクを並べただけの簡素な環境。しかし、その作業環境と10年の経験から生まれる反訳は一級品だった。
「ふぅ…今日も地味な一日が始まるか」
まきゃべは伸びをしながらパソコンの電源を入れた。メールを確認すると、新しい依頼が一件入っていた。
「猫の鳴き声?」
差出人は山田ペット探偵事務所。添付ファイルには「至急お願いします」という件名と共に、音声ファイルが一つ。
「なんだ、迷子の猫を探すのに鳴き声の特徴でも調べるのかな」
軽い気持ちでヘッドフォンをつけ、再生ボタンを押す。
最初に聞こえてきたのは確かに猫の鳴き声だった。しかし次の瞬間、まきゃべは眉をひそめた。
「ミャオ…ミャア…ミャミャミャオ…」
それは明らかに人間が猫の鳴き声を真似ているものだった。しかも、その「猫語」には何かリズムがある。まるで…暗号のように。
「これは…反訳じゃなくて解読か?」
興味をそそられたまきゃべは、音声をスローにして何度も聞き直した。すると、その「猫語」には一定のパターンがあることに気づいた。三種類の鳴き方があり、それぞれが短い・中くらい・長いという長さの違いを持っていた。
「まさか…モールス信号?」
ピンときたまきゃべは、猫の鳴き声をモールス信号に置き換えて書き出してみた。短い鳴き声を「・」、中くらいを「-」、長いものを区切りとして…
「会いたい…北公園…明日…午後2時…持ち物…赤い…傘」
暗号を解読すると、そんなメッセージが浮かび上がった。
「なるほど、これは密会の約束だな。でも、なぜ猫の鳴き声で?」
依頼主の山田探偵事務所に電話をかけると、意外な事実が判明した。これは、ある御曹司の婚約者が浮気をしているという疑惑を調査中に発見された音声だという。婚約者は猫カフェのオーナーで、SNSでは猫の鳴き声を日々投稿していた。その中に暗号が紛れ込んでいたのだ。
「面白い…」
まきゃべは解読結果を山田探偵に伝えた。すると探偵は喜びの声を上げた。
「さすがまきゃべさん!これで証拠が揃いました。実は御曹司の家族は猫アレルギーで、婚約者は結婚後に猫カフェを畳まなければならない状況だったんです。しかし婚約者は猫と一緒に暮らせる恋人と密会を重ねていたようで…」
事件は解決し、まきゃべの報酬は通常の3倍になった。
「まさか猫の鳴き声がモールス信号だったとは…」
次の日、まきゃべが新たな依頼メールを開くと、今度は「風の音」と題された音声ファイルだった。聞いてみると、確かに風が吹く音…だけではなく、微かに口笛のような音が紛れている。
「また変わった依頼か…」
まきゃべは不思議な口笛に耳を澄ませた。地味な反訳の仕事が、いつの間にか小さな謎解きの連続になっていることに、彼は密かな喜びを感じていた。
翌週、猫カフェを訪れたまきゃべは、カウンターに座り静かにコーヒーを飲んでいた。周りでは猫たちが自由に歩き回っている。店内を見渡すと、隅の席で一人の青年が赤い傘を持って落ち着かない様子でスマホを見ていた。時計は午後1時55分を指していた。
「やはり…」
まきゃべはコーヒーを一口飲み、静かに微笑んだ。彼の仕事は文字を起こすだけ。その先に何があるかは関係ない…はずだった。しかし、彼の耳と頭は、音の向こう側にある人間ドラマを感じ取らずにはいられなかった。
そして午後2時ちょうど、カフェのドアが開き、一人の女性が入ってきた。彼女はまっすぐに青年の元へ向かい、二人は小さな声で話し始めた。まきゃべは聞こえてくる言葉を無意識のうちに頭の中で文字に変換していた。
「決心したの…私、猫たちと一緒に生きる道を選ぶわ」
女性の声は震えていた。青年は彼女の手を取り、優しく微笑む。まきゃべはそっとカフェを後にした。
反訳という地味な仕事。しかし、音声の向こう側には常に人間の物語がある。文字に起こすというシンプルな行為を通じて、まきゃべは無数の人生の断片に触れていた。
彼の仕事は地味かもしれない。しかし、音声の海から真実を拾い上げる——それは時に探偵よりも鋭い洞察を必要とする仕事だった。
帰り道、まきゃべは空を見上げた。次はどんな不思議な音声が彼を待っているのだろう。彼は少し楽しみに思いながら、軽やかな足取りで帰路についた。
耳を澄ませば、世界は物語であふれている。
反訳の委託はこちら
- 前ページ
- 次ページ
「推しの子」で、原作者である鮫島アビ子と脚本家であるGOAがオンラインで直接、舞台用の脚本を話し合って作っていくところがあって、モノづくりの観点からは、これが素晴らしいよなと思います。
もちろん、メディアミックスの商業的な視点からすれば、もちょっと違ったものがいいのかもしれないが、まあでも、よっぽど原作者がお金儲けや知名度向上狙いに特化していれば別ですが、作品の純度を低下させない意味では、この方法は理にかなっていて、かつ、平和だなあと。
ずーっと愛される息の長い舞台になるような気がする、しらんけど。
何が言いたかったかと言うと、当社の翻訳の話で、
小説の翻訳 依頼のケース
舞台の脚本と小説の翻訳だとフィールドは全然違うけど、当社の場合、作者さんと直接やりとりをしているため、と言うか、作者さんから直接依頼があったものであるため、いろいろすり合わせができるので、作者さんの求めるところに近づいて行ける手段があるという期待感と安堵感があります。
当社はモノづくりの会社であるので、やっぱり、ゼロイチ(無から有を生み出す)の行為に崇高さを感じていて、たとえば翻訳であれば、ゼロイチのものに対してそれを他言語にするわけで、やっぱり元の文章に対するリスペクトがありきで、当社は黒子に徹するのが正解だと思っています。
有馬かなの「Full moon…!」いい曲だなあ。
以下をアップしました。
プロペラシャフト 強度計算
プロペラシャフトと、ドライブシャフトの強度計算について、エクセルでの作成のご依頼をいただきました。
その関係で、強度計算の式が確定できましたので、参考資料として掲載しています。
という内容です。
お客様のご要望は、強度計算ができるファイルを作って欲しいというもので、それ自体はかなり便利なものをおつくりすることができました。
難しかったのは、お客様が強度計算の仕方をご存じでなかったという点です。
いろいろ、計算式と思しき資料を送っていただくのですが、それらを用いると、なぜか計算が間違えているとのこと。
また、お送りいただく計算式の一部が欠損しているなど、少し、混乱していらっしゃるようでした。
最終的には、結局、最初に確認していた式で正しかったことが分かり、無事に計算式を把握することができました。
めでたしめでたし。
以下をアップしました。
アフタ-コーディングに必要な能力
なかなか難しいんですよ、というお話です。
自分でできないことを、頑張ってやろうとしてめちゃくちゃ時間がかかったり、結局、満足にできなかったりなど、やれやれな状態になるのであれば、できる人に頼んだほうがいいと思います。もちろん、知り合いならお礼が要りますし、外注なら料金が必要ですが、たぶん、自分でやることの時間コストと金銭コストを考えれば、明らかにその方が賢い、言い換えれば、生産性が高く、費用対効果が高いです。
(このお話は生産性という文脈です。できないことをできるように努力すること自体はとても素晴らしいです)
で、AIに手伝ってもらいながら、とお思いになるかもしれませんが、AIは手助けにはなりますが、勝手に作ってくれませんので、もごもごとプロンプトを入れて画面とにらめっこしている間にできる人の頼んだほう圧倒的に速いです。
とここまで書いたところ、費用対効果を考慮してアウトソースするのはアフターコーディングに限ったことではなくて、どんなことでも当てはまりますね。
ちょっとあんた、仕事の帰り、あれ買ってきて。(朝7時の妻から夫への言葉 笑)とても平和な買い物のアウトソース★
アンケートの自由記述は書くのが骨が折れるから適当に答えることが多いのでは?という記事を見かけた。
いや、どうだろう?たしかになあと思わなくもないけど、しかし、多いかな?
前提条件で結果はかなり異なる気がする。
前提条件とは、回答者がどのような意図(仲間内の協力、好意、見返り目的、見返りも義理もないけど答えないといけないなど)でアンケートを引き受けたか。
(嫌々じゃなくて)ちゃんと引き受けてくれた方なら、自由記述式も選択式もちゃんと回答してくれるだろうし、嫌々引き受けたのであれば、自由記述式でも選択式でも、適当さはあるのかなと思う。
選択式は特定の選択肢から選ぶだけなので、適当とかないんじゃない?と思うかもしれない。
たしかに記述式に比べて負担は軽減されているけど、でも、負担が軽いから、とても大真面目に選ぶかと言えばそうでもないような気がする。
むしろ私は反対のことを思っていて、書くのは骨が折れるからこそ、選択式よりも真剣に向き合ってくれるのではないかなと。(書くのだからちゃんとやらねば、と)
もちろん、自由記述式のアンケートをちゃんと引き受けてくれた方という前提がつくけれど。
つまり、回答者のモチベーションですな。
事前に回答者のモチベーションを上げておけば(そういう仕組みを作っていれば)、そのアンケートの有用性が増すのかもしれない。
アンケート 自由記述のコード化(コーディング)
ちょっと小耳にはさみましたが、世の中には、AIで文章化したものを人の手で仕上げていくというテープ起こしサービスがあるそうな。
それは、AIによるテープ起こしという括りのようなのですが。。。
節子、それは普通のテープ起こしサービスや。
こっちとそっちがごっちゃになってますね。
ちゃんちゃん。
ケバ取り テープ起こし