デビューアルバム『あおぞら』に入っている、ある意味で最も印象に残るナンバーである。そう、宏美さんのオリジナルではかなりレアな、長尺のセリフ部分が含まれているのである。皆さんよくご存知だとは思うが、一応引用しておこう。

 

 今日いえなかったことを

 今いってもいいですか

 毎日毎日 思いながら

 あなたと顔を合わせると

 どうしても

 いい出せなかったことなんです

 いいます きいて下さい

 愛してます 好きなんです とっても

 

 私は、若い頃はこのセリフ部分をまともに聴けなかった。しゃべっている宏美さん自身が照れてしまっているのが分かるので、聴いている方も恥ずかしくなってしまうのである。だいぶ大人になってからは、「恥ずかしがっているのが微笑ましいな」と余裕を持って聴けるようなったのだが。

 

 

 作詞は阿久先生、作編曲が穂口雄右さん。この歌は、不思議なことにリリース後1年経過してから、2年目の秋のリサイタルで披露されている。ライブ盤の客席の熱狂ぶりからもそれと察せられるが、ファンの間でも人気の高い曲だったことは間違いないだろう。だが、紙ジャケ復刻の折りのセルフライナーノーツを読むと、ライブのこの曲を選んだのはご自身とは考えにくい。以下、ちょっと面白いので、少々長いが「ささやき」に関する部分を全て引用しよう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 このアルバムの中の「ささやき」は、私の歌でも特に珍しく長いセリフ入りですね。これは、当時のディレクターで元・ヴィレッジ・シンガーズの笹井一臣さんから、最初の録音では「そんなにそそくさと喋るんじゃない!」って怒られました(笑)。なかなか間(ま)が分からなくて恥ずかしくて…。私は一所懸命に言ってるのに、その後レコードを聞いた同期の井上純一くんから「宏美ちゃん、あのセリフを言った後に笑ってたでしょ?」と言われてショックでした(笑)。今から思えば、素の自分はまだまだ子どもだったんでしょうね。

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ここに井上さんに関する記述が出てくるのが興味深い。宏美さんはコンサートのMCなどで、時折りデビュー当時のテレビ番組や、同期の仲間の思い出などについて語ることがある。

 

左上から細川たかし、井上純一

森昌子、チャダ

 

 花の中3トリオは、デビューは先輩だが、同い年である。昌子さんは堀越学園の同級生ということもあり、よく話題になる。修学旅行の夜、部屋で昌子さんが「ぼくタコの赤ちゃん」というSONYトリニトロンカラーのCMのモノマネをした話とか。🥰

 

 

 細川さんは、同期でもあり、現役で活躍中なので当然よく名が挙がる。「ロマンス」VS「心のこり」の新人賞レースを演じた二人。それのみならず、82、83年にはそれぞれ「聖母たちのララバイ」「家路」VS「北酒場」「矢切の渡し」で大賞をも争った好敵手である。だが、最近は「今も残っている同期は、細川たかしさん」と宏美さんが仰ると、なぜか会場から笑いが起こることが多い。🤣

 

 インド出身の演歌歌手、チャダも同期だ。芸能人運動会の番組で、チャダは走るのが信じられないくらい遅く、リレーで宏美さんのチームが負けてしまった話は、よくネタにしていらっしゃる。😜

 

 井上純一さんは、同期でしかも同い年らしい。彼の話題は、私は聞いた覚えがない。このアルバムのライナーノーツで名前が出てきて、久々に彼を思い出し、懐かしく思った次第である。

 

 思えば、同じ頃に活躍していた人で、いつの間にか華やかな舞台から遠ざかってしまった方も数知れない。スーちゃんや美奈子.さん、秀樹さんのように天に召されてしまった方もいる。まさに「未完の肖像」「虹〜Singer〜」の歌詞の通りだ。

 

 宏美さんは「まだ旅の途中」。是非是非「未完のままで書きつづけ」て行っていただきたい。

 

(1975.9.5 アルバム『あおぞら』収録)