現在EVの急速充電器は下図の4方式が世界標準を目指し覇権を争っています。
日本のCHAdeMO規格と中国のGB/T規格のコネクターはDCの急速充電のみで、ACの普通充電が別々のコネクターとなっているのに対し、欧米のCombined Charging Systemは一つのコネクターでACとDCを兼ねるのが特徴です。
※この他に、テスラ社はテスラ・スーパーチャージャーという方式で独自に展開しています。
車両と充電器間の通信で大別すると日本と中国はCAN通信、欧米はHPGPです。
但し、日・中はにCAN通信といっても、コネクターだけでなく通信プロトコルが違うので互換性はありません。
- 下上図の日・中のCAN通信は充電のコントロールのみを行っています。
- 下々図の欧米のHPGPは充電器と電力会社との通信もしており、充電に対する課金や電力平準化の役割も兼ねています。
欧米の方式は充電器とグリッド/電力会社間の通信も行っています。
最初は日本のCHAdeMOが先行していましたが、米欧がおめおめと日本の規格を国際標準化するわけがなく、コンボ規格(Combined Charging System)を開発し、CHAdeMOは苦戦する事となりました。
しかし幸いな事に日本はCHAdeMOをオープンソース化し、中国にも技術支援をしておりました。
中国は日本と似た規格のCB/T規格を開発し採用していましたが、 今回、 日本発の自動車向け急速充電規格「CHAdeMO(チャデモ)」の普及を担うチャデモ協議会と中国の規格「GB/T」を推進する「中国電力企業連合会」 は出力500キロワット超まで対応する技術の規格を共同でつくることに合意し、28日に覚書を結びました。
規格作りは中国側が主導してとりまとめ、日本側は充電器の技術やノウハウを提供します。
2020年に新規格を策定し、中国側は対応した充電器を同年に設置したい考えで、準備ができ次第日本にも導入される予定です。
というような経過を読むと日本万歳の人達は日本が中国を助けると思うでしょうが、充電規格に関していえば助けられるのは日本です。
現在世界の急速充電器87%は中国のGB/ Tです。
これに日本のチャデモの7%が続いていますが、このまま独自規格で進んでも米欧や中国を相手に世界標準化は無理だと思います。
ところが中国と組めば、そのシェアは94%となり、実質的に世界標準となります。
さらに現在世界最大の自働車市場は中国ですが、EVの販売台数は中国が他を圧倒しています。
下図はEV(PHEVを含む)の保有台数ですが、2016年に米中が逆転しています。
※下々図のBEVはバッテリーEV、PHEVはプラグインハイブリッドです。.
出典:Electric Vehicle Outlook 2018
下は年ごとの販売台数ですが、これにはPHVも含みます。
バッテリーEVだけで見ると中国はさらに他国を圧倒しています。
出典:Electric Vehicle Outlook 2018
バッテリーEVの販売台数に限ると昨年世界で75万台が販売されましたが、そのうち約47万台が中国と、世界の62%以上が中国です。
米国はわずか10万4千台と、中国の約1/4.5ですが、さらにテスラは上海にギガファクトリ―を建設しますので、この差はさらにさらに開きます。
出典:Electric Vehicle Outlook 2018
しかもトランプにより保護主義に走る米国に対し、中国は市場開放の方向に向かっています。
さらにトランプはアメリカのZEV規制を撤廃しようとしており、そうなると欧州勢は米国にEVを輸出するメリットが無くなります。
その上中国はすでのNEV規制が始っており、一定割合以上のEVを製造もしくは輸入して販売しないとNEVクレジットを購入するか罰金を払わねばならず、日欧のEVの販売は中国に向かいます。
となれば中国でEVを売りたい欧州が、米国に歩調を合わせてCombined Charging Systemを採用するメリットは無く、米国は孤立するでしょう。
しかし、中国のEVの国内市場の大きさと、世界の87%というGB/T充電器の普及台数を考えれば、何も無理して世界標準化をしなくても良いと思いませんか?
それがなぜ日本と組んで世界標準化を目指すかを考えると、EVの輸出をするためとしか考えられません。
すでに白物家電、黒物家電、ソーラーパネルはじめ、多くの工業製品が中国企業に席巻されています。
自動車も日欧のレベルに近づいており、キャッチアップされるのは時間の問題だと言われていますが、EVに関してはむしろ日本を凌ぐといわれます。
またEVに必須のリチウムイオンバッテリーに関しては生産量世界一で、テスラ(パナソニック)と中国勢の一騎打ちとなっています。
EVの生産台数にしても中国のBAIC ECシリーズがテスラモデルS を抜き世界首位となり、世界のトップ20の半数近くは中国勢です。
出典:EV大国へ国家あげてひた走る中国——世界の4割保有、上位占める中国ブランド
(中国EVの試乗記については「謎の中国EV、7台まとめて小沢が試乗! 前編」をお読みください)
自動車に限ればトランプの保護主義政策は世界市場で競争力を失わせ、結果的に裏目に出ると思います。
しかし日本にとって中国製EVが手ごわい競争相手になる事は間違いなく、CHAdeMO の国際標準化で喜んでばかりもいられません。