ドラマ「僕の姉ちゃん」その7/#浮気を許すタイプ  | 日々是本日

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bookudakoji の本ブログ

テレビ東京 ドラマ「僕の姉ちゃん」

毎週水曜 深夜1時&Amazon Prime Videoにて独占配信中

次回(第8話)は9月14日(水)深夜1時!

 

 今回こそ、このドラマの記事はもう書かなくていいかと思っていたのに、この劇的なオープニングはなんだ~!

 

 という感じだったので、第6話の記事に引き続きドラマ「僕の姉ちゃん」の話である。

 

 ドラマの情報については公式サイトのイントロダクションのみ再掲して、第7話の感想に進む。

 

 その他の情報および感想等については過去の記事を参照されたい。

 

▼ドラマ「僕の姉ちゃん」公式サイト:イントロダクション

※主演の黒木華と杉野遥亮、原作者のコメントあり

ユーモラスで辛辣な姉・白井ちはる(黒木華)と、姉に翻弄されるが素直に話を聞いてくれる弟・白井順平(杉野遥亮)は、両親不在のつかの間、二人暮らしをしている。
仕事を終え帰宅した部屋で、お酒を飲み、それぞれ好きなものを食べながら、恋・仕事・趣味・人生にまつわる会話を繰り広げる。姉弟だからこそのぶっちゃけトークで炸裂する“姉ちゃんの本音“は、一見ひねくれていて意地悪なように聞こえるが、実はしごく真っ当で、順平は妙に納得してしまう。

 

▼このシリーズの過去の記事

 

 

---以下、ネタばれあり注意---

 

 

▼第7話 自分の売り

 冒頭の二人の会話シーンである。

 夕食後の夜の時間だろう、テーブルで過ごしている二人。

 ノートパソコンの画面を見ていた弟・順平(杉野遥亮)が言った。

「姉ちゃんてさぁ、浮気とか絶対に許さないタイプだよ。」

 少し憮然とした表情で、姉・ちはる(黒木華)が訊き返した。

「あ~ら……、ちなみに許すタイプの女子の定義って何かしら?」

 ノートパソコンの画面ばかり見ている順平。

「定義って……」

そう言って、ようやくちはるの顔を見た順平は、ちはるの冷やかな眼差しに気づいた。

 どぎまぎした様子で、

「寛大ってことなんじゃない。」

と答える順平。

「浮気を許す女が寛大……」

「寛大ってことは心が広いってことでしょ。」

「思いやりがあるってことでしょ。」

と、ちはるの追求は続く。

「意味合いとしては……」

と自信なさそうに答える順平。

「心が広くて思いやりがある女の子。」

「なのに友達になりたくないのはなんでだ?」

 こう言ったちはるの表情は厳しかった。

 

 この場面はここで終わるのだが、冒頭からガツーンときた感じであった。

 まぁまず、浮気を許すタイプの女子がいるとかいないということを安易に姉ちゃんに訊いている時点で、「順平くん、大丈夫?」という感じである。

 とは言え、今回は順平が自分の正直さを自分の売りにしていく話なので、伏線としては悪くはない。

 一方、「浮気を許すタイプの女などいない」と直接は言わないちはるの返し方は実に問答法的だ。

 ちはるの言わんとするところは、浮気を好き好んで許すよなう女子はおらず現実には浮気を許さざるを得ないという結果があるだけだということであると思われた。

 これを、浮気を許すと言っているような表向きを取り繕っている女子とは友達になれないという言い方で伝えようとしている。

 これは仲の良い姉弟でもなかなか見られない会話のスタイルである。

 会話劇だねぇ

 

 さて、本題はここからである。

 今回は弟・順平(杉野遥亮)の仕事の話がメインである。

 職場でバリバリと仕事を進める順平、そこに上司がやってきて営業先のことで注意を受ける。

 意気消沈する順平。

 場面はいきなり、食べかけのコンピニ弁当に切り替わる。

 絵の作り方が上手いなぁ。

 夕食のコンピニ弁当を家のテーブルでボソボソと食べている順平。

 昼間の出来事を引きずっている順平の心境がよく伝わってきた。

 そこに姉ちゃんが帰ってくるなり、

「あ~~~っ、イライラ限界!」

と言いながら食卓に入ってくる。

 食べかけの弁当に蓋をして、

「風呂入る。」

そう言って立ち去ろうとする順平に、ちはるは、

「ちょっとぐらい話ききなよ。」

と言うが順平は、

「いい、俺マジで今日いい。」

と言って風呂へ行った。

 

 順平が風呂から出て居間でビールを飲んでいると、ちはるがシュークリームを買って帰ってきた。

 シュークリームを食べながら、職場での昼間の出来事を話す順平。

 ちはるが言う。

 「商談まとめる風だけど、安易な口約束して後は部下が尻ぬぐいとか。」

 「それ、俺の上司。」

と返す順平。

 そして、

 「アンタの上司でもあり、アタシの上司でもある。」

 「そういうパターンの人たちなのよ。」

 「だから、アタシがイライラしながら帰宅するわけ。」

とちはるが言うと、順平は笑った。

 以前の回で、客先と安易な口約束をしていたのは上司じゃなくて順平くんだったよねぇ……と思って見ていたら、ちはるが意外なことを言い始めた。

「あたし、しみじみ思うんだけどさぁ。」

 ここで“姉ちゃんの本音“が炸裂する。

「自分の弟が平凡で良かったよ。」

「平凡中の平凡、平凡の中でも特別な平凡。」

 

 冒頭の会話からすると恐らく、「そういうパターンの人たちなのよ。」という言い方には暗に、「友達になりたいとは思わない人たち」という意味が込められていたように思われた。

 

 そして順平が、

「俺だけができることって何かないのかな?」

と言うとちはるは即答した。

「ない」

 そしてこう続けた。

「でも、絶対やらないことを一つ決めることならできるんじゃない?」

「たとえば、お世辞は言わない、とか。」

「長い時間をかけて自分の売りにしていくわけさ。」

 

 翌日、上司と得意先回りから帰ってきた順平は、上司に正直さを自分の売りにしようと思うと伝えた。

「まぁ、やってみたらいいんじゃない。変化球は後から覚えればいいよ。」

と、上司からは好意的な言葉が返ってきた。

 

 その晩、件の上司と焼肉屋に行ってきた順平は、家に帰るとソファーに寝て顔面パックをしていたちはるにその上司の話をした。

 その上司が、男前の女の上司でうんたらかんたらとちはると話をしているうちに、ちはるは、

「姉ちゃん、その人と一杯やりたいよ。そして、二人してアンタをいじめる。」

と言うのだった。

 

 とは言え、客先と安易な口約束をしていたのはその上司ではなく順平だったことを、姉ちゃんは見抜いていたわけではないだろうなぁ、それともこの時に気づいたのだろうか。

 いずれにせよこのセリフには、こういう裏表のない人は「友達になりたいと思う人たち」であるという意味が込められていたように思われた。

 

 そして後日、ちはるがテーブルで寛いでいるところに順平が会社から帰ってくる。

 帰ってくるなり、

「あ~~~っ、最悪だよホント」

と言いながら食卓に入ってくる順平。

 ちはるは驚いた様子で、

「なにが?」

と言って話を聞き始めた。

 部長がOKを出していた案件なのに、予算の都合で直前で変更になって、今日は業者さんに頭を下げ通しだったという。

「僕はいいと思うんですけど、部長がダメなんでって?」

と、ちはるは訊いた。

「そんなこと言ってもしょうがないじゃん。謝る時は会社の一員として謝んないとカッコ悪いじゃん。」

 ちはるは、順平のその答えにニッコリと頷きながら、

「いいぞ、順平!」

と言った。

 そして、

「ワインとビールどっちがいい?」

と訊いた。

 順平がボソッと、

「ビール」

と答えたところでエンディングとなった。

 

 「いいぞ、順平」と言った姉ちゃんに、まったくの同感だった。

 もしかしたら、ここがこのドラマで今まで一番好きなシーンかもしれない。

 ちはるが「部長がダメなんでって?」と聴いたところで、ちはるの言いたいことは伝わってきた。

 会社の代表として客先に行っている以上は、会社の一員として頭を下げて一人前なのである。

 ちはるは、姉ちゃんとしてそれを確認したかったのだ。

 自分の会社都合での変更などは、仕事をしていれば普通にあることで、ちはるは別にそんなことを気にしていたわけではないのだ。

 弟が一回り成長したのを見て取った姉ちゃんは、優しくワインがいいかビールがいいかを訊くのだった。

 姉弟だねぇ。

 姉弟だからできる会話の良さではなく、姉弟そのものとしての良さがホントに出ていたシーンだと思った。

 

 そして、このドラマはやっぱりこれだけではないと思うのである。

 これだけなら順平の答えは、

「謝る時は会社の一員として謝るべきじゃん。」

でも良かったはずである。

 しかし実際には、

「謝る時は会社の一員として謝んないとカッコ悪いじゃん。」

というセリフにしている。

 このカッコ悪いという理由の追加は、一つの見方としては、まだ子どもっぽいところがある順平の表現と考えることができる。

 仕事のことをカッコ良い悪いで判断しているうちはまだ子どもだという訳である。

 もう一つの見方としては、そうあるべきだからそうしたのではなく、自分自身の価値基準に照らしてそうしたということの表現であると考えることができる。

 どちらも、そうあるべきだからそうしたということではないという点は共通していて、どちらにも解釈できるが、個人的には後者の解釈でドラマを観た。

 その理由は、前の部分でちはるが、

「でも、絶対やらないことを一つ決めることならでるんじゃない?」

と言った場面で、自分だったら何に決めるか考えてみた答えが「人のせいにしない」だったところにある気がした。

 仕事のことをカッコ良い悪いで判断しているうちはまだ子どもだというのは、仕事上では時に正しいとは思うが、これが人生ならどうだろうか。

 こうあるべきということよりも、自分なりの価値基準で判断したいと私は思う。

 カッコ良いか悪いかというのは、自分がどうありたいかということについての美意識である。

 だから私には順平が、急な変更を部長のせいにしないで会社の一員として謝った理由が「カッコ悪い」からであったのは、それが会社員として一人前のあり方だと学んだからだという理由よりも、好ましいものに思われた。

 姉ちゃんは順平を一回り成長したがまだ子どもだと思っていたのか、自分なりの価値基準で判断する真っ直ぐさを無くさないでいて欲しいと思っていたのか、はたまた……

 

 このドラマは毎回、一話としてまとめている内容がホントによく練られていると思う。

 そして、原作者やドラマの脚本家の意図はあるにせよ、観る側に考えさせる広がりがある。

 

 会話劇、凄いねぇ。

 

 

次回(第8話)は9月14日(水)深夜1時!

 

▼Amazon Prime(全話独占配信)

 

▼益田ミリの原作マンガ「僕の姉ちゃん」マガジンハウス2011

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