速さを考えるシリーズ、とりあえずの最終回です。
前回までは、向上したい目的となる「速さ」を定義することの重要性について、そしてスポーツにおける「速さ」を規定する要素として相手の「認識」と自分の動きの間にギャップを作るという戦略についてお話してきました。
詳しくはこちらの記事をご参照下さい。
・速さにはどんな種類があるのか
・相手の認識力にギャップを生み出せ
ちなみに自然界にもこの戦略は生き残るための重要なものとして採用されています。
例えば蚊。
部屋の中で蚊を見つけて、叩こうとしながら目で追っている最中、突如蚊が消えたようになって見失うというような経験がありますでしょうか。
決して急速に動いた訳ではないのに消える…あれも認識のギャップを利用して相手(人間)を出し抜くものですね。
それらを踏まえた上で、今回はそれを実現する具体的な運動様式の一部についてご紹介します。
みなさんは、速く動き出す、加速するとき、どうやって加速しますか?
例えば盗塁するときのように、右に急激に走り出したいとき。
通常というか常識では左足で思いっきり地面を蹴って身体全体を右に動かそうとしますね。
その際に必要な筋力としてハムストリングスなどを強化する(※大腿四頭筋の強化は間違っていますので要注意)、というのが一般的ではないでしょうか。
このような運動様式では、「地面を蹴る強さ」が動き出しの速さを規定します。
「蹴る動作以降の速さ」を考えると、これは正解かも知れません。
あくまで蹴る動作「以降」です。
ちなみにこのとき左脚に強大な負荷がかかることは障害予防の観点から忘れてはいけません。
ここでは本題ではないので、詳しくは触れませんが。
本題に話を戻すと、ここで落とし穴というか盲点となっているのが、「蹴る動作以前の動き」です。
「地面を強く蹴る」より前の動きのお話です。
地面を蹴る前、地面を蹴るために身体はどのような動きが要求されているでしょうか?
ぜひ実際に試していただきたいのですが、実はこのとき「動き出したい方向とは真逆に動く」ことになります。
地面を強く蹴るためには、絶対に体重をかける必要があるからです。
強く蹴ろうとすればするほど(そう感じようとすればするほど)、身体は大きく反対方向に動くことになります。
これをJARTAでは「準備動作」と呼んでいます。
競技レベルが上がれば上がるほど、そう望んでレベルアップするほど、レベルアップした先のステージでは「大きな準備動作」では通用しなくなります。
準備動作によって相手にこちらの動きを「認識」(察知)されることになるからです。
前回でもお話した通り、多くの競技場面では相手にこちらの動きを早くに察知されるということは、非常に大きな弱点となるのです。
単に最高速度が速いというだけでは、通用しない競技の方が多いのです。
地面を蹴る力が強い、強く蹴れている、これらは「科学的には」確かに速度を規定する要素となります。
物理的に強く反発を生み出せることが出来れば物体はそれだけ速く加速します。
しかしそれは、「蹴った後」のお話であり、スポーツで必要な速さの向上を考えるためには、「蹴る前の速さ」にもっと重点を置くべきです。
スポーツでは目的を実現するための、全ての動きや局面を構成する要素の「関係性」を十分に捉えて考慮する必要があるのです。
では、具体的な戦略のお話です。
・地面を蹴らずに加速する。
・速く動き出すために、準備動作を極限までなくす。
これがこれまでシリーズでお話ししてきた、早度の向上、相手に察知されないという要素を実現させる鍵です。
相手と異なる運動様式を獲得し、仮に最高速度で劣る相手に対しても出し抜く(トータルの速さとして勝つ)ための要素です。
これらの動きを獲得すればよいわけです。
ではどうすればよいか。
それはまさに上記表現そのまま、地面を蹴らなければ良いのです。
我々が存在している空間、地球上での運動において大前提となる「重力」を利用すればよいのです。
非常に簡単な例としては、両足を開いて立った状態で重心を中央に置き、右に行きたいなら右足の踏ん張りを急激に抜いてみて下さい。
身体は右側の支えを失い、急激に右に傾くことになります。
もっと言うと、右下方へと「落下」します。
とても端的に表現すると、これを加速のきっかけにするのです。
実際に試していただくとよくわかるのですが、この様式だと、地面を蹴るために反対側に荷重するという準備動作はまったく必要がなくなります。
フットサル元日本代表の吉田輝選手は、小柄ながらイタリアフットサルでセリエAまで上り詰めた素晴らしい選手。彼もJARTAトレーニングのもと、地面を蹴らない運動様式を取り入れている。|吉田輝:フットサル|イタリアフットサルチャレンジ2014にて。
速いと言われる選手は、多かれ少なかれ必ずこの「落下」による加速を利用しています。
これは非常に大まかな動きで、実際更にハイレベルになってくると、足裏の中でこの「支持点を急激に取り去る」ことによる加速様式を行います。
しかもあらゆる方向にです。
ここに当然重心操作など複数の要素が加わってくるのですが、文章での表現は困難ですので、この先は不本意ながら割愛します。
ここまでいくと、地面を蹴る加速という運動様式を採用している選手にとっては、「認識できない動き」となります。
最後に、この運動様式を相手と自分の両者が獲得していた場合どうなるのかという疑問が当然出てくると思いますが、
当然別の戦略が存在します。
この辺りは、またいずれ。
もしくは今後新たに展開されていく講習会にて。
次回以降は、
・説得力
・学習能力
・超一流アスリートの思考シリーズ
・見栄えが良い身体
・アスリートとの対談シリーズ
について掲載していく予定です(あくまで予定です)。
JARTA
中野 崇
速さを考えるシリーズの前回は、向上を目的とする「速さ」についてしっかり定義する重要性についてお話しました。
今回は、前回登場した「早度」を向上することによるもう一つのメリットをお話します。
早度とは、動き出しの速さという意味です。
早度が向上することによって、最高速度が決して速くない選手であっても勝てる可能性があることに言及しました。
そこで今度は「動き出しが速いというのはどういうことか」という点について考える必要が出てきます。
一つは当然、時間的な速さのことです。
Aという状態からBという状態になるまでの速さのことですね。
具体的には静止状態から動いている(機能的に動ける)状態までの速さです。
今回ここで僕がお話したいのは、もう一つの観点です。
これは特に相手がいる競技で重要になってきます。
相手がいる競技の大半の場面においては最高速度そのものよりも、相手を抜く、かわす、相手より速く飛び出すなどの要素が結果に影響しています。
サッカーのドリブルで相手DFをかわしてゴールを決めるなどが代表的な例ですね。
では、なぜそのように相手を抜いたりかわしたり出来るのでしょうか。
そこに関わる要素はどのようなものがあるのでしょうか。
当然様々な要因がありますが、相手との関係性という観点から考えると、それは「認識力」です。
相手の、こちらの対する認識力にギャップを作ってしまえということです。
つまり、こちらの動きを認識されなければ相手を出し抜ける訳です。
人間は認識できない動きにはついていけません。
JARTAで推奨している立甲(高岡英夫氏提唱)も相手との認識力のギャップを生む要因として関係しています。|志村智久選手、サッカー(GK):JARTAサポート
ごく稀に「消えた」と言われるような評価を受ける選手がいます。
また、「いつのまにか」倒されていたと相手に言わせるような選手もいます。
この「消えた」とか「いつのまにか」と相手に言わせるような動きが鍵になります。
人間は自分が認識できない動きにはついていけないどころか、感覚としても捉えられないことがあるのです。
感覚として捉えられなければ、その相手がどんなに素晴らしい速さや筋力を持っていても、出し抜けます。
こういった有利なギャップはどのようにして作り出せるのでしょうか。
パフォーマンスにおけるこの要因の一つとして考えられるのは「運動様式の違い」です。(他にもありますが、それはまたいずれ)
体幹部をゆるめ、機能的に使えるところを増やすトレーニングも、もちろん相手の認識力にギャップを生み出す戦略に深く関与します。|志村智久選手、サッカー(GK):JARTAサポート
人間は自分と同じ運動様式は、速さでは劣っていてもその動きそのものは認識できます。
つまり「速いな」とはなっても「消えた」「どうなったかわからなかった」とはなりにくいのです。
相当の速さの違いがなければ毎回出し抜けるという訳にはいかなくなったりします。
ですので、要するに相手が採用している運動様式とは異なる運動様式でこちらが動けばよいということです。
この部分の原点は、武道・武術にあります。
具体的なところはまた次回、お話したいと思います。
JARTA
中野 崇

調理されている方のお話も聞けましたが、さすがプロって感じました。
※許可をいただいて掲載しています。

臨場感重視で撮影しました。
なかなか上手くとれないと何度もやり直していたら、、
北海道のスタッフにその様子を撮られました笑
早く食べるべし、との指摘いただきました笑
この後、そのまま二人のスタッフを連れて居酒屋さんに入り、いろいろと語り合いました。
なかなか遠方のスタッフとはそういった時間がとれなかったので、とても楽しい時間でした。
中野 崇
スポーツにおける非常に重要なパフォーマンスの一つとして「速度」があります。
競技によっては、最重視されている場合も多いと思います。
ですので、日々多くのアスリートや指導者の方が「どうすれば速度(スピード)が向上するのか」という「方法」の追求に躍起になっています。
イタリア研修時に視察したセリエA|ACミランvsパルマ
しかし実は「方法」を考える前に考えるべきことがあります。
それは「スポーツにおける速度」って何なのかということです。
自分たちが求める要素を「定義」しておく必要があるのです。
ここでは速度を定義する必要があるということです。
速度を定義しないと、当然ですがそれを向上させるベクトル(方法)は良いものが定められないはずです。
つまり漠然とした場所しか分かっていないゴールに向かう適切なルートはプランニングできないってことです。
プランニングできないってことは、非効率ってことです。
とにかく大まかにゴールはあっちらへんにあるはずだから、とにかくがむしゃらに突き進もうよ、って感じです。
このプランニングでは競技生活に限りがあるアスリートにとってはちょっときついですよね。
そして非効率だけで済めばいいですが、先の例であれば、場合によっては迷子になったり、もしそこが環境的にシビアな場所(例えば砂漠とか)だったら死に直結する場合だってあるわけです。
スポーツに話を戻すと、これらはの例えはトレーニングしても「その競技で必要とされる」速度は向上しなかった、場合によってはケガの要因になってしまった、と言い換えることができます。
これらの理由から、僕はトレーニングにおいて向上させたい対象(ここでは速度)を必ず「定義」する必要があると考えています。
速度の定義において、簡単な考えた方から示すと、速度は大きく二つに分けられます。
・最高速度
・動きだしの速度
どちらも目標に対して到達するまでの時間的な速さを構成する要素です。
最高速度は、一般的に考えられている速さと概ね合致します。
ここに対するトレーニングは、効率の善し悪しを問わなければたくさん存在していると思います。
対して動き出しの速度。
これは、静止した状態から動き出しに至までの時間的な速さのことです。
運動科学者の高岡英夫氏はこれを「早度」という名称を使って表現されています。
スポーツの多くの場面において、この早度が重要になってくる場面は非常に多いと言えます。
逆に言うと、早度が低いと、いくら最高速度が速くても通用しないことが多いということです。
動き出しを早くしようと試みるトレーニングもありますが…。
イタリア研修|ヴィーゴルの視察:イタリアサッカーユースチーム
例えばサッカーだと、最高速度が速くても通用しないドリブラーはたくさんいます。
(ここではスキルの側面は除外して考えて下さい)
逆に、スキルが同程度で最高速度が遅いにも関わらず、やたら相手を抜くのが上手い、マークしているDFを振り切るのが上手いという選手もいます。
局面にもよりますが、サッカーだと相手より一歩早く動き出せるだけで、相手を抜いたりパスを出したり(受けたり)、シュートコースを確保できる機会を作り出せることができるようになるのです。
早度はフットワークやアジリティーにも大きく関与します。
当然ハイパフォーマンスの実現には最高速度と早度の両方が必要ですが、早度を向上させることで、「鈍足」選手が活躍できる可能性が出てきます。
そして、早度で勝つことができれば、世界で勝てる可能性が見えてくるわけです。
シリーズ次回は、早度を高めるもう一つのメリットについて書きたいと思います。
その次は、早度を高める方法について予定しています。
JARTA
中野 崇