クルンテープの裏庭で 2

クルンテープの裏庭で 2

バンコクやパタヤの裏庭で遊び歩いて考えたことを自分勝手に…

過去10年で50余回のタイ渡航で感じたことを、ゲイの裏読みで書き綴るつもりです。

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アメリカ兵の保養地として開発された小さな漁村は

人々の欲望を飲み込んで

世界でも有数の猥雑な歓楽街になった


そんな街のネオンの中で出会い
手をつないでいたシンデレラボーイの笑顔が見たくて
やさしさと取り違えた欺瞞をお金に換えて
夜の宴が露のように明ける頃

ボクは19歳のキミとシーツの海を泳ぐ


深い寝息が聞こえるのかと耳を澄ますけど

少し震えだした肩を見て

脳裏に浮かぶ田舎の風景と
抱えるモノの重たさに押しつぶされそうになり
そっと枕を濡らすキミの傍らで
寝返りをうたれてボクの裸の胸が
キミの涙で濡らされる前に
シーツから抜け出してしまう臆病な偽善者


閉められたカーテンから

まばゆい光がこぼれ洩れないように
そっとベランダへ逃げ出し

まだ朝だというのに、すでに暑い外気にまとわりつかれながら
見えるはずの海を探し
紫煙をくゆらせる


突然開いたガラス戸の隙間から
ミネラルウォーターの入ったグラスを突き出し
日に焼けるとつぶやくキミの手を引っぱり
半身になって突き出された頬にキスをする


もう一度、貴方を感じたい

同じ海を見つめながら

娼婦のように囁くキミと

再びシーツの海で泳ぎだす



6



眠ることを知らないかのように喧騒に包まれた通りを折れ
小路の突きあたりにあるゲイ向けのカフェバーに入る

すでに、時計の針は1日の終わりを告げていて
店の中には8人組のグループとゲイのカップルなどで
ほぼ席が埋まっていた
ダーツやビリヤードをしているグループもいて

それぞれが週末の裏庭を満喫しているのかもしれない


「ここでいいよね」
ノックは、角の空いていたボックスにオレをいざなう
オレを窓側に押し込め、隣に座ってウエイターを目で探す
「そっちに座れよ。」

とボクはノックに前の席を指す
「ナツの横がいい」
オレの左腕に自分の腕を絡める


「ナツは、この店に来たことある?」
「ああ、前に1度ね」
「いつ頃?」
「ん~、覚えてないけど1年前かなぁ」
「僕は、先月まで3ヶ月間、アルバイトしてたんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
ノックは顔見知りのウエイターを見つけて
手を振りながら声をかける

あまりに大きなノックの声に
苦笑いの混じった顔をしながら
テーブルに近づいてくる
「サワディーカップ」
ウエイターは、オレにワイをしながら微笑む

かわいい

注文したものができるまで
あそことあそこに座っているのは日本人だとか
あのウエイターは、シンガポール人が恋人だとか他愛無い話しを
して時間をつぶしていた

そのうちに、ハイネケンとアイスティ
トムヤムクンと豚肉をからからに揚げた炒め物が
テーブルに並ぶ

「ここの料理人のおばさんの腕はいいんだよ、おいしいでしょ」
ノックが満足げに微笑む

ノックが、フォークで揚げた豚肉を刺して
オレの口に運ぶ
その向こう側に

こちらが気になるのか
ちらちらと視線を送ってくる中華系の青年が見えた

ノックがハイネケンを飲むタイミングで
彼が話しかけてきた
「キミ達は、友達なの?」
友達って・・・、恋人同士なのかとは聞かない
微妙な表現だ
オレが反応する前に
ノックは恋人同士だと宣言する
おいおい・・・

「友達だよ」
とオレ
誰がどう見たって
ゴーゴーボーイとエロ親父の関係だろう
こんな親父風情といまどきの少年から
青年になりかけの 組み合わせなんだから・・・

顔を彼に向けたまま
ノックがオレの膝をぎゅっとつねる
オレのほうを向き、恋人だもん
とすねる
あぁ、つかのまのね
恋人ゴッコ

どこから来たのかとノックが彼に聞く
香港からだという
ノックが何やら広東語で話し掛ける
彼が肩を竦めて苦笑いする
二言ぐらいのやり取りで

彼はグループの会話に戻っていった


「ノックは、広東語しゃべれるの?」
「おじいちゃんが中国人だから、すこしだけ広東語が話せる」
二人の間では、たどたどしい英語が共通語だ

夜の闇を泳いでいくうちに、身につけることは多い
「さっき、彼になんて聞いたの?」
「内緒だよ、そんなことより、はい、あ~んして」


トムヤムクンをアイスティで流した


5



その店は、男性が男の子を買うバーが集まるエリアから

少し離れたビルの2階にあった

ビルの入り口に3~4人がたむろしている
スツールに座っていたドアマンが、オレに気づいて2階を指差す
軽くうなづき階段を上がる

横にいた男がブザーのボタンを押すのが見えた
まわりの男たちが、挨拶の言葉をオレに投げかける
この階段を上がるのは何度目だろう
何度来ても、どこの店に入るのも複雑な感情が湧く


階段を登りきると同時に、厚いドアが開く
ドアから開放された大音響のダンスミュージックが、オレの耳を直撃する
ドアを開けたマネージャーは

さっと営業スマイルを満面に浮かべ招き入れる


「いらっしゃい。元気だった?こっちよ」

数人いるマネージャーの中でも、比較的若い男だ
薄暗い店内は、ほどほどに客が入っていた

このバーは、オーナーがファランなので客層も欧米人が多い
ステージ前の席に案内されたが

後ろから見られるのは嫌なので奥の席を希望した

「ショーがよく見えて、ここが特等席なのよ。まあ、いいいわ」

気を使ってることをアピールしたいのか、拗ねたそぶりをみせながら
オレを案内した


注文したシンハービアを2本持って、マネージャーが戻ってくる
「それ、なんだよ」
「私のよ」
「誰がおごると言ったんだよ」

「大丈夫。あっちのファランのおごりだから」
オレの横に座りこんだマネージャーは
テーブルに置いたタバコを1本取り上げ、オレに差し出す
オレが首を振ると、貰っていいかと聞く
やれやれと思いながら、うなづく

このマネージャーにはそれなりに融通を聞かせてもらってるので

少しのわがままは許している


「ティムは店をやめたのよ、あなた知ってた?」
「ああ、知ってるよ」
「呼びたいなら、彼の友達がいるから連絡とってあげるけど?」
「必要ない」

「そう。じゃ、新しい子、選んでね」

一緒に居たいならこんな店には来ていないさ


「席をはずすけど、番号決まったら呼んでね」
マネージャーは席を立ち、カウンターの方に戻っていった

ステージに並んだ10人ほどのボーイが
音楽に合わせて踊っている
タイミングで数人が入れ替わって
ステージに上がる
マネージャーは
今日は40人ほどが出勤していると言っていた
前の席に座る体の大きいファランが
二人のボーイを侍らせていた

さっきのマネージャーが戻ってきた


「ねえ、あなたとお話ししたいって言う子がいるんだけど、どう?」
「何番の子さ?」
「21番。あそこに座ってるわ」
彼が指差す方を見る
カウンターのスツールに座る中華系の子だ

「暗くて顔がわかんないよ」
オレがそう言うと、マネージャーが手で合図する
ステージにいる数人のボーイが
オレたちのやり取りを見ているのがわかる

「どう?かわいいでしょ
まだ、入って3週間よ
エブリスィング、OKよ」
「会話だけだよ、今日は、誰もオフする気はないから」
マネージャーは親指を立て
笑みを浮かべてカレの座るスペースを作る

「名前はなんていうの?」
「ノックです。あなたは?」

「ナツだよ。歳は幾つ?」
「20歳です。あなたは?」
「34歳。どこ出身なの?」
「チェンライです。あなたは?」
「日本。」

「日本のどこ?」
「札幌。」
「・・・、知らない。」


バックから指差し会話集を取り出し
簡単な地図の載ったページを見せる
「ここが、大阪、東京、そして札幌。」
「東京からどのくらい?」
「飛行機で1時間半」
「バスだと?」
「バスでは行けないよ」
「汽車は?」
「17時間くらいかな」
「遠いね」


他愛もない会話が続く

マネージャーは、カレにコーラを持ってくると、
一仕事終えたという感じて、
テーブルからテーブルへと愛想を振り撒きに行った


ふたりだけの乾杯をした

「前にあなたを見た」
「どこで?」
「この店で」
「だって、マネージャーは、キミはまだ入って3週間だと言ったよ」
「それは、彼のミステーク」

よくある話しだ
何が本当かなんて必要ない

「3ヶ月も前だよ」
「そう、知ってる」
「ティムと一緒だったでしょ」
「よく憶えてるね」
「あなたは、ボクのタイプだから・・・」
「嘘でも、嬉しいよ」
「ホントだよ、ほら、これ見て」


腰に巻いた簡単な布切れを持ち上げて、
ノックのディックがエレクトしていた

「あなたと一緒にいるだけで、こんなになっちゃった」
オレは、苦笑いを浮かべるしかなかった
「ティムには言わないでね」
「ティムのことはいいよ、終わったんだから」
「カレは、あなたを待ってたよ」
「ただの客とボーイさ、よくある話しだろ?」


「キミは、いつもそんな感じで客を誘うのかい?」

野暮な質問だと自分でも思った
「初めてだよ、そんなに淫乱じゃない」
「あなただけ・・・、それに、・・・今日は満月だから」


その夜、オレは、小鳥ではなく狼少年に出会った


4



もう朝とは言えない時間になっていた


今日は、ボクを連れて行きたいところがある

とノックが言うので

タクシーに乗って移動することにした

シーロム通りからトールウエイにのって郊外に向かう


しばらくして目的地に着いた

「チケット売り場では、しゃべっちゃダメだよ
僕がチケットを買うから」
ノックは100バーツをよこせと言い
チケットを買いに行った

「ナツは、タイ人に似ているから大丈夫さ」
ノックはニヤニヤと首を竦め、オレの手を引く

わざわざ外人料金で入ることもないか
チケットもぎりのおばさんと、二言三言話してから
オレに笑いかけて、前を進んでいく


「あれに乗ろうよ」

池のボート乗り場に連れて行かれた
ノックは、とにかく元気だ
どうして、そんなにはしゃぐことができるのか
もう20歳なのに、とても子供っぽい

しかも、こんなとこに来て白鳥さんかい
男二人で・・・
暑さの中、さんざん歩き回りぐったりしたオレは
能動的に何かをするという状態ではなかった


「オレだけにペダルを漕がせるなよ」
「ナツは大人でしょ」
「オレは、疲れてるんだよ」
「スマイル、スマイル」

オレの足を揉むしぐさをしながら、ノックが笑う


「もっと奥に行くとステージもあるんだ」

ぼくは、そのステージで歌ってたんだよ」
「へぇ~。本当?」
「歌手になりたかったんだ

だから大学に行かなかった
でも、給料安くって・・・
だから、あのバーで働き始めたんだ」

「家に帰れば良かったじゃないか
金持ちなんだろ

大学に行けるだろ」
「親とケンカして家出した」
「謝れば、今からでもいいだろ」

「父さんは、ぼくがゲイなのが嫌なんだ
だから、ケンカした」


知らなければ、知らないでいいこともある
何もできないなら、知らない方がいいのかもしれない



3



ダウンライトの暗い店内で

ステージだけが浮かび上がる

ステージの前には幾つものテーブルが並べられ
様々な人種の男や女がイスに座る
ウエイターが客の注文を受けて歩き回り
テーブルの上に置かれたキャンドルの炎がゆれる


大きな口を開けて笑っている客
ステージを凝視している客
隣に座るボーイとキスをしている客
所在なげにグラスの中に指を入れて
氷を指で転がしている客
伝票を掴んでウエイターが気づくのを待つ客


奥のカウンターではふたりのバーテンが
次々に舞い込むオーダーをこなし
キャッシャーでは
ウエイターと金のやり取りをしている
マネージャーが
動きの悪いボーイに注意をして
ボーイは立ち位置をひとつづつずらしていく


ステージの上からだと
なんでも見える
隣のボーイがちょっかいをかけてくるが
無視を決め込む
だって、オカマは嫌いなんだ


白いブリーフと白いソックス

ソックスのゴムで挟んだモバイルが気になる

店のドアが開き
それに気づいたウエイターが
新たな客を招きいれる


ステージの上に立つボーイの半数がそれに気づき
ドアの方に視線を投げる
客と目があった
愛想笑いのひとつでも送っておこうか・・・



どちらが優位ということもないんだろうけど
客がボーイを選んでいるつもりでも
意識していないところで
ボーイに客が選ばされているといえるかもしれない
ボーイが客を選んでいるともいえるかもしれない
ボーイを品定めしていると思っているけど
ボーイに品定めされているのかもしれない


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