その店は、男性が男の子を買うバーが集まるエリアから
少し離れたビルの2階にあった
ビルの入り口に3~4人がたむろしている
スツールに座っていたドアマンが、オレに気づいて2階を指差す
軽くうなづき階段を上がる
横にいた男がブザーのボタンを押すのが見えた
まわりの男たちが、挨拶の言葉をオレに投げかける
この階段を上がるのは何度目だろう
何度来ても、どこの店に入るのも複雑な感情が湧く
階段を登りきると同時に、厚いドアが開く
ドアから開放された大音響のダンスミュージックが、オレの耳を直撃する
ドアを開けたマネージャーは
さっと営業スマイルを満面に浮かべ招き入れる
「いらっしゃい。元気だった?こっちよ」
数人いるマネージャーの中でも、比較的若い男だ
薄暗い店内は、ほどほどに客が入っていた
このバーは、オーナーがファランなので客層も欧米人が多い
ステージ前の席に案内されたが
後ろから見られるのは嫌なので奥の席を希望した
「ショーがよく見えて、ここが特等席なのよ。まあ、いいいわ」
気を使ってることをアピールしたいのか、拗ねたそぶりをみせながら
オレを案内した
注文したシンハービアを2本持って、マネージャーが戻ってくる
「それ、なんだよ」
「私のよ」
「誰がおごると言ったんだよ」
「大丈夫。あっちのファランのおごりだから」
オレの横に座りこんだマネージャーは
テーブルに置いたタバコを1本取り上げ、オレに差し出す
オレが首を振ると、貰っていいかと聞く
やれやれと思いながら、うなづく
このマネージャーにはそれなりに融通を聞かせてもらってるので
少しのわがままは許している
「ティムは店をやめたのよ、あなた知ってた?」
「ああ、知ってるよ」
「呼びたいなら、彼の友達がいるから連絡とってあげるけど?」
「必要ない」
「そう。じゃ、新しい子、選んでね」
一緒に居たいならこんな店には来ていないさ
「席をはずすけど、番号決まったら呼んでね」
マネージャーは席を立ち、カウンターの方に戻っていった
ステージに並んだ10人ほどのボーイが
音楽に合わせて踊っている
タイミングで数人が入れ替わって
ステージに上がる
マネージャーは
今日は40人ほどが出勤していると言っていた
前の席に座る体の大きいファランが
二人のボーイを侍らせていた
さっきのマネージャーが戻ってきた
「ねえ、あなたとお話ししたいって言う子がいるんだけど、どう?」
「何番の子さ?」
「21番。あそこに座ってるわ」
彼が指差す方を見る
カウンターのスツールに座る中華系の子だ
「暗くて顔がわかんないよ」
オレがそう言うと、マネージャーが手で合図する
ステージにいる数人のボーイが
オレたちのやり取りを見ているのがわかる
「どう?かわいいでしょ
まだ、入って3週間よ
エブリスィング、OKよ」
「会話だけだよ、今日は、誰もオフする気はないから」
マネージャーは親指を立て
笑みを浮かべてカレの座るスペースを作る
「名前はなんていうの?」
「ノックです。あなたは?」
「ナツだよ。歳は幾つ?」
「20歳です。あなたは?」
「34歳。どこ出身なの?」
「チェンライです。あなたは?」
「日本。」
「日本のどこ?」
「札幌。」
「・・・、知らない。」
バックから指差し会話集を取り出し
簡単な地図の載ったページを見せる
「ここが、大阪、東京、そして札幌。」
「東京からどのくらい?」
「飛行機で1時間半」
「バスだと?」
「バスでは行けないよ」
「汽車は?」
「17時間くらいかな」
「遠いね」
他愛もない会話が続く
マネージャーは、カレにコーラを持ってくると、
一仕事終えたという感じて、
テーブルからテーブルへと愛想を振り撒きに行った
ふたりだけの乾杯をした
「前にあなたを見た」
「どこで?」
「この店で」
「だって、マネージャーは、キミはまだ入って3週間だと言ったよ」
「それは、彼のミステーク」
よくある話しだ
何が本当かなんて必要ない
「3ヶ月も前だよ」
「そう、知ってる」
「ティムと一緒だったでしょ」
「よく憶えてるね」
「あなたは、ボクのタイプだから・・・」
「嘘でも、嬉しいよ」
「ホントだよ、ほら、これ見て」
腰に巻いた簡単な布切れを持ち上げて、
ノックのディックがエレクトしていた
「あなたと一緒にいるだけで、こんなになっちゃった」
オレは、苦笑いを浮かべるしかなかった
「ティムには言わないでね」
「ティムのことはいいよ、終わったんだから」
「カレは、あなたを待ってたよ」
「ただの客とボーイさ、よくある話しだろ?」
「キミは、いつもそんな感じで客を誘うのかい?」
野暮な質問だと自分でも思った
「初めてだよ、そんなに淫乱じゃない」
「あなただけ・・・、それに、・・・今日は満月だから」
その夜、オレは、小鳥ではなく狼少年に出会った
