メディカルパークベイフロント横浜のブログ

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横浜駅東口より徒歩2分、婦人科・不妊治療のクリニック「メディカルパークベイフロント横浜」のスタッフブログです。

 

当院で行っている採卵の刺激方法についてご説明させていただきます

 

 

丸ブルー卵巣刺激の目的、期待できる効果丸ブルー

 

目的:

卵巣刺激とは体外受精を目的として採卵を行う際に多くの卵子を得る目的で行います。本来1回の排卵につき1個の卵子が体外へ排出されます。ですが、刺激を行うことで卵胞と呼ばれる卵子が入っている袋を複数個育てることにより、多くの卵子を得ることができます。

 

期待できる効果:

複数個の卵子を得ることで、胚盤胞と呼ばれる移植する状態まで成長した卵子をより多く得られる可能性を高めることができ、その結果1度に多くの卵子を培養することにより採卵回数を減らすことができます。

 

 

丸ブルーOHSS:卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syndrome)丸ブルー

卵巣刺激にはOHSSと呼ばれる副作用があります。卵巣刺激で使用する薬により、卵巣の中にある卵胞が腫大して様々な症状を引き起こされます。主な症状として以下のものが挙げられます。

 

 

さらに重症化すると血液濃縮が進み、肺水腫や血栓症を起こす可能性があります。予防法、治療法が確立されつつありますが注意が必要な合併症です。

当院では、以下の予防を行っています。

1.卵子成熟のトリガーとして、OHSSを引き起こす可能性があるオビドレル(hCG)とスプレキュア(GnRHアゴニスト)の併用ではなくスプレキュアのみ使用する

2.カバサールの内服

 

 

刺激方法には様々な方法があり、これらは患者様のご希望やご年齢、AMH(抗ミュラー管ホルモン:卵巣予備能を示す数値)、過去の治療成績などを考慮して決定します。

今回はPPOS、Antagonist、Short法をご紹介します。後半では、CC(クロミッド)、AI(レトロゾール)、自然周期法、Long法、についてご紹介させていただきます。

 

~高刺激~

 

丸ブルーPPOS(Progestin-primed Ovarian Stimulation)丸ブルー

方法:FSH又はhMG注射とプロゲステロン製剤(排卵抑制)を内服、採卵2日前に卵子成熟のためスプレキュア(又はオビドレル)を投与

 

丸ブルーAntagonist法丸ブルー

方法:FSH又はHMGの注射を連日行い、卵胞の発育を確認してアンタゴニスト注射(排卵抑制)を併用、採卵2日前に卵子成熟のためスプレキュア (又はオビドレル)を投与

 

丸ブルーShort法丸ブルー

方法:スプレキュアを連日使用、d4からFSH又はHMGの注射を連日行い、採卵2日前に卵子成熟のためhCGを投与

 

以下、当院で行った各卵巣刺激法のd5胚盤胞到達率と当院で行った各卵巣刺激法の件数の割合を示しました。

各刺激法の胚盤胞到達率は中央値70.1%、学会報告中央値は62.7%でした。また、刺激法別で見ると有意差があるデータが示されましたが、これはShort法を行う方は症例に偏りがある可能性が影響していると考えられます。刺激法はクロミッド服用、PPOSを多く行っている結果となりました。

 

 

 

 

 

 

 

CASA(精子運動分析装置)の導入が決定いたしました

CASAとは、AIが精子濃度や運動率を自動解析する機器の事を言います。

これまでの精液検査はWHO検査項目(精液量、精子濃度、運動率、正常形態率)のみの、培養士が計算盤を用いる検査でしたが、CASAの導入により平均速度・直進速度・直進性・頭部振幅といった「人では測定する事が困難な精子機能」を評価する事が可能になります

 

〇平均速度・・・精子進行方向性速度の平均値

〇直進速度・・・真っすぐに引いた直線に沿って精子頭部が始めに通過した点と最後に通過した点の間の平均速度

〇直進性・・・直進速度/平均速度

〇頭部振幅・・・精子頭部の平均進路に対する横方向へのずれの大きさ

 

ただ、機械が自動で測定するとなるとどれくらい信用していいものなのか疑問に思いますよね。CASAには以下の報告があります。

 

”手動で行う方法に比べて、遥かに客観的に正確に再現性のある測定が可能となる”

                                  Menkveld et al,1990

”自動化された方法による評価の正確性及び再現性の誤差は7%以内である”

                              Garrett & Baker , 1995

 

女性側に原因が無く精液所見にも異常が見られなくても、妊娠に繋がらず長く険しい不妊治療の道のりを歩んでいらっしゃるご夫婦もいらっしゃいます。その為、精子機能をより詳しく評価する必要があります。

これまでメーカーと打ち合わせも兼ねて準備に長い時間をかけておりましたが6月より運用開始予定です。

 

自費診療5,000円となります。過去に当院で検査された方も他院で一度検査された方も、再検査できますので是非ご検討してみてください

 

 

 

新卒の方が入職されました

 4月より培養室に新しいスタッフが増えました。先日大学を卒業したばかり、新卒のスタッフとなります。同大学は培養士も多数輩出されている業界では有名な大学の1つです。獣医学部を卒業ということで、動物の卵や精子を扱う研究室に在籍し培養技術の基礎には触れてきたようです。

 ただ、ヒトの卵を取り扱うにはまだまだ時間がかかると思いますが、周りの先輩方の仕事をみて、質問して、コツコツやっていくしかありません。

 自分が新卒の時は20年近くも前...記憶も朧気です。天真爛漫な姿勢、その若い力に負けないようにしなければ...と感じます。社会人がスタートして約半月、これからも沢山の事に触れ、考え、経験し、そしてどこへ行っても通用する培養士になってほしいと思います。

 

顕微授精を行う際の紡錘体観察について

当院では、顕微授精を行う際に紡錘体の観察をしています。

 

紡錘体とは?

卵子の中には紡錘体と呼ばれる細胞小器官が存在していて、紡錘体の中には染色体が含まれています。そして、紡錘体は細胞分裂の際に娘細胞に染色体を分配していて細胞が分裂する際、非常に重要な役割を持っています。

 

なぜ紡錘体を観察する必要があるのか?

紡錘体の観察を行うことには以下の2つ目的があります。

①    紡錘体を誤って傷つけないようにする。

②    最適なタイミングで顕微授精を行う。

 

①    紡錘体を誤って傷つけないようにする。

卵子は未熟な状態(MⅠ期:第一減数分裂中期)から成熟した卵子(MⅡ期:第二減数分裂中期)になる時に第一極体と呼ばれるものを細胞質の外に放出します。

紡錘体は目視することはできないのですが、通常では第一極体の直下の細胞質内に存在するため顕微授精を行う際はそこに紡錘体があると仮定して精子を注入します。

しかし、この紡錘体は必ず第一極体付近に存在するとは限りません。一部の卵子では紡錘体の位置がずれていることがあり、そのまま顕微授精を行うと誤って紡錘体を傷つけてしまう可能性があります。

 

 

②    最適なタイミングで顕微授精を行う。

従来は第一極体を放出していることで成熟した卵子(MⅡ期:第二減数分裂中期)とみなしていましたが、実際は第一極体を放出していても成熟していない未熟な卵子である可能性がわかっています。

そこで、顕微授精を行う際に紡錘体を細胞質内に確認することで最適なタイミングで顕微授精を行うことができます。

 

 

 

 

どうやって観察するのか?

紡錘体を観察するには2枚の偏光板の取り付けた特殊な顕微鏡で観察します。この顕微鏡では、複屈折性のある物質を明暗や色のコントラストに置き換えることができ、それを観察することを偏光観察と言います。紡錘体は複屈折性を持つため偏光観察で非侵襲的かつ容易に可視化し観察することができます。

 

 

 

まとめ

今回は、顕微授精を行う際に紡錘体を観察することの重要性を説明させて頂きました。

紡錘体の位置をしっかりと確認して顕微授精を行うことで誤って紡錘体を傷つけることなく、また正しいタイミングで顕微授精を行うことで受精率や胚発生の向上に影響があると期待されています。

 

 

培養室に新しいスタッフが増えました

 経験者として培養士が1名入職されました。都内の大型ラボにて技術の研鑽を積まれ、この度ご縁もあり当院での勤務となりました。妥協せず淡々と業務にあたる姿勢は、the医療技術者といった印象を受けます。

 開院当初は男性ばかりのラボでしたが少しずつ女性が増えてきております。培養士外来等でも女性培養士とお話する機会が増えてくるかもしれません。引き続きベイフロント院の培養室を宜しくお願いします。

 

卵子活性化/カルシウムイオノフォアとは

今回は人為的卵子活性化(AOA)の一つ、カルシウムイオノフォアについて説明したいと思います。

 

最初に、卵子活性化について説明させていただきます。

 

1.卵子活性化

卵子活性化は受精するために必要不可欠な過程です。メカニズムは以下の様になります。

①    精子の頭部が卵子の細胞膜と融合します

②    精子の頭部の中からPLCζという物質が卵子の中に入ります

③    PLCζはIP3を生産し、IP3にて小胞体の中に蓄積したCa²⁺が放出されます

④    Ca²⁺濃度の上昇により卵子活性化が起こります

 

卵子活性化が起こらない事は受精障害の原因の一つになります。

 

受精障害には大きく二つのパターンがあります。

①    精子が卵子に入らない

②    精子が卵子の中に入ったけど、受精しない

顕微授精は必ず精子が卵子の中に入りますので、卵子活性化が必要と考えられるのは②のパターンになります。

(※顕微授精とは精子を卵子の細胞質の中に直接注入する方法です。上のメカニズムとは違って細胞膜融合は省略されますが、本来卵子活性化は起こります)

 

顕微授精をしても受精出来なかった場合や受精率が低い場合、人為的に卵子活性化をする事で改善が期待できます。

 

次に当院で行っている人為的卵子活性化について説明します。人為的卵子活性化の種類は色々ありますが、一番スタンダードな方法と考えられているカルシウムイオノフォアを使った方法です。

 

.カルシウムイオノフォア

カルシウムはヒトに必要な物質として体内の骨、歯、神経伝達、等で使われます。

また、受精時の卵子活性化にも必要不可欠な因子であります。

カルシウムイオノフォアとは細胞膜のカルシウムイオンの透過性を増加させる薬剤です。

顕微授精した卵子をこの薬剤に浸して卵子内のCa²⁺濃度を上げて卵子活性化を促す事が出来ます。

 

上は14の研究をメタ分析した結果のグラフです。

 

カルシウムイオノフォア使用群の受精率がカルシウムイオノフォア使用無し群より有意に高いことがわかります。(カルシウムイオノフォア群:59.2%、n=4901 & なし群:47.4%、n=4679)

論文では「特にICSIによる受精率が低い夫婦にカルシウムイオノフォアが心強く有望なものである」と結論されています。【 Fertil Steril. 2017 Sep;108(3):468-482.e3.より引用】

 

顕微授精を行って、期待される受精率より大きく下回った場合カルシウムイオノフォアによる活性化を考慮します。保険が適応され費用は約3.000円となります。

 

昨年の治療実績の更新となります

 新しい年がスタートしました。昨年までの治療実績が集計できましたので、こちらでご報告致します。治療中の方や、転院等検討される方の参考となれば幸いです。

 

 

 今回は日本産科婦人科学会が公表している体外受精(ART)データの方も合わせてご説明させていただきます。2021年のものにはなりますが、日本の体外受精の状況を少しご理解頂ければ幸いです。

 

 

 

  2021年の総出生数は約81万人なので11.6人に1人が体外受精で出産された計算になります。それくらい私たちの身近な医療行為であると言えるでしょう。体外受精が保険適用となり今後公表される数は変化する事が予想されますが、年齢と妊娠成績の関係や、体外受精出生児の現状についてはしっかりと理解する必要があると考えます。こちらのブログが何かの参考となれば幸いです。

 

 本年も引き続きどうぞよろしくお願い致します。

 

 今回はAH(Assisted hatching)という技術についてご紹介させていただきます。AHは孵化補助法とも呼ばれます。

胚は透明帯と呼ばれる糖タンパク質でできた殻に包まれています。胚は着床する直前に、この透明帯から胚自身が飛び出す「孵化」と呼ばれる現象が起きます。この孵化が起こった胚が子宮内膜に着床することで妊娠が成立いたします。しかし、透明帯が厚い場合や、加齢や胚凍結の影響で硬化してしまった場合、孵化が妨げられて着床することができないことが考えられます。

 

 そこで、移植当日に融解した胚に対してAHを行うことにより、着床しやすい胚の状態にすることを目的として行います。

胚はグレード(G)3以上で凍結を行い、以下のように成長していきます。G5は孵化が起こり、胚自身が透明帯から脱出し始めた状態で、G6は透明帯から完全に脱出して子宮内膜に着床する状態です。

 

 

 

AHには主に3つの方法があります。

Ⅰ.レーザーAH

・胚と透明帯の隙間にレーザーを当てることで、透明帯の1/3-1/4を開口する

・レーザーが胚に当たるリスクが低く、手技が簡便で短時間での処理が可能

・現在主流の方法

Ⅱ.PZD(Partial zona dissection)

・胚盤胞を保持するホールディングピペットと透明帯を穿刺するニードルピペットを用いる

・右図のように2つのピペットを擦りつけることで透明帯にT字切開をつくる

・難易度が高く技術習得に熟練を要する

Ⅲ.酸性タイロード

・透明帯を酸性溶液や蛋白分解酵素で溶解して薄くする

・薬剤による胚へのダメージがあるため、現在はほとんど行われない

(当院では行っておりません)

 

 

 当院では、短時間でより安全に行うことができるレーザーAHを第一選択として行っています。融解後、胚と透明帯の間にレーザーを当てる隙間がなかった場合に限り、PZDを行っています。着床率は、レーザーAHは65.4%、PZDは64.5%でした(対象:昨年の284例)胚の状態によりレーザーAH又はPZDを選択していますが、着床への影響はなく最も主流で安全なレーザーAHと同水準のAHを提供しています。

現在、生殖医療ガイドラインでは推奨レベルに応じてA-Cに分類されていますが、AHは推奨度B(実施を推奨する)に当たります。

 

 AHのリスクとして一卵性双生児の発生が挙げられますが、発生は稀です。また、先天性疾患のリスクはありません。

AH施行により、妊娠率が向上することは多くのデータにより示されていますが、現在もどのような年齢や胚盤胞のグレードに有効であるのか等、様々な検討がされています。当院培養士もそれらの情報を得て常に技術の研鑽に努めることで、患者さまの力になれるよう励んで参ります。

 

原田院長の誕生日でした

 本日出勤スタッフでの一コマ、みんないい笑顔です。お誕生日おめでとうございます!

 

 

タイムラプスインキュベーターに関するフォーラムへ参加しました

 都内で行われたタイムラプスインキュベーターに関するフォーラムに参加してきました。フォーラムという言葉は集会・公開討論の様な意味で使用されます。今回は当院で使用しているインキュベーターに関する情報のアップデートを目的としました。

 

 当院での診察にて、タイムラプスという言葉を聞いた方もいらっしゃると思います。保険診療に組み合わせることができる技術に「タイムラプス培養」というものがあります。お預かりした受精卵をカメラ撮影しながら培養する事ができる技術です。当院ではエンブリオスコープ(ES)と呼ばれる最新の培養器を導入しており、この技術に対応する事ができます。

 

 このカメラ撮影ですが、10分間隔で行われております。時代も進化し、そこから得られる膨大な情報を元にAIによるスコアリングを行う事が可能となってきました。AIによるスコアリングとは「胚(受精卵)評価ツール」を指します。

 

 体外受精の原則として、妊娠の可能性が高い胚を選び移植するというものがあります。そこで大切なのが「妊娠の可能性を評価する」という点です。通常は、胚評価を培養士の目で行います。培養士が顕微鏡で見て、良い悪いを判断します。「グレード」や「ABCランク」といった事を聞いた方もいらっしゃるかもしれません。培養士の目で判断しますから、当然主観が入りますし、施設によって判断基準もばらけてしまいます。

 

 AIスコアリングではビッグデータを元に、妊娠の可能性に対し客観性の高い評価ができます。当院では、移植される胚の選択基準として「培養士の目による評価+AIスコアリング評価」を組み合わせております。

 

 この様に、我々の臨床の場に利用されるようになってきたAIですが、当院も年末にヴァージョンアップする事になりました。より精度があがるとの事で、臨床成績に繋がる事を期待しています。今回のフォーラムで得た情報を参考に、AIスコアリング評価を活用していきたいと思います。