卵子活性化/カルシウムイオノフォアとは
今回は人為的卵子活性化(AOA)の一つ、カルシウムイオノフォアについて説明したいと思います。
最初に、卵子活性化について説明させていただきます。
1.卵子活性化
卵子活性化は受精するために必要不可欠な過程です。メカニズムは以下の様になります。
① 精子の頭部が卵子の細胞膜と融合します
② 精子の頭部の中からPLCζという物質が卵子の中に入ります
③ PLCζはIP3を生産し、IP3にて小胞体の中に蓄積したCa²⁺が放出されます
④ Ca²⁺濃度の上昇により卵子活性化が起こります
卵子活性化が起こらない事は受精障害の原因の一つになります。
受精障害には大きく二つのパターンがあります。
① 精子が卵子に入らない
② 精子が卵子の中に入ったけど、受精しない
顕微授精は必ず精子が卵子の中に入りますので、卵子活性化が必要と考えられるのは②のパターンになります。
(※顕微授精とは精子を卵子の細胞質の中に直接注入する方法です。上のメカニズムとは違って細胞膜融合は省略されますが、本来卵子活性化は起こります)
顕微授精をしても受精出来なかった場合や受精率が低い場合、人為的に卵子活性化をする事で改善が期待できます。
次に当院で行っている人為的卵子活性化について説明します。人為的卵子活性化の種類は色々ありますが、一番スタンダードな方法と考えられているカルシウムイオノフォアを使った方法です。
.カルシウムイオノフォア
カルシウムはヒトに必要な物質として体内の骨、歯、神経伝達、等で使われます。
また、受精時の卵子活性化にも必要不可欠な因子であります。
カルシウムイオノフォアとは細胞膜のカルシウムイオンの透過性を増加させる薬剤です。
顕微授精した卵子をこの薬剤に浸して卵子内のCa²⁺濃度を上げて卵子活性化を促す事が出来ます。
上は14の研究をメタ分析した結果のグラフです。
カルシウムイオノフォア使用群の受精率がカルシウムイオノフォア使用無し群より有意に高いことがわかります。(カルシウムイオノフォア群:59.2%、n=4901 & なし群:47.4%、n=4679)
論文では「特にICSIによる受精率が低い夫婦にカルシウムイオノフォアが心強く有望なものである」と結論されています。【 Fertil Steril. 2017 Sep;108(3):468-482.e3.より引用】
顕微授精を行って、期待される受精率より大きく下回った場合カルシウムイオノフォアによる活性化を考慮します。保険が適応され費用は約3.000円となります。