フーリガン通信 -14ページ目

マンCに見る道楽と娯楽

売上高129億円に対し、当期純利益が▲137億の赤字。

こんなにメチャクチャな経営状態でも、この“企業”が潰れない理由は何だろう?答えは簡単。“キャッシュ”があるのだ。経営に大事なのは最後はキャッシュ。いくら黒字を計上しても当座のキャッシュがなければ倒産することがあるし、逆にいくら赤字を計上してもキャッシュがあれば企業は存続できる。


冒頭の決算数値は、イングランド・プレミアリーグのマンチェスター・シティ(以下マンC)が先日発表した、昨季2008-09シーズンの収支。つまり、このクラブにはイングランド・サッカー史上最大の赤字を計上しても、存続するだけの体力(キャッシュ)があるということだ。


半端なキャッシュではない。なぜなら、マンCはこの赤字を計上した直後、今季2009-10シーズンの最初には8人もの大幅補強を行った。ギャレス・バリー、カルロス・テベス、エマヌエル・アデバヨール、ロケ・サンタクルス、コロ・トゥーレ、ジョレオン・レスコット、シウビーニョの獲得に掛かった総額は何と約173億円!


そんなマンCの派手な金使いは止らない。昨年末にはその時点でたった2敗しかしていなかった(7勝8分2敗)のマーク・ヒューズ監督に満足できず解任し、後任に元インテルのセリエA優勝監督・ロベルト・マンチーニを雇う。そして早速1月の移籍市場では南米最優秀選手であるエストゥディアンテスのMFファン・セバスチャン・ベロン、リバプールのスペイン代表FWフェルナンド・トーレスにも大金を積んでせっせと声を掛け、まずは1月9日にはインテルの元フランス代表パトリック・ヴィエラの獲得を発表した。


これだけ金を使って今季の売上がどこまで増加するかは分からないが、やはり入場料・放映料が主な収入源となるクラブ経営において、その売上がそう簡単に増えるものではない。すでにこれだけ莫大な支出が発生している以上、当然今季もその収支は大きな赤字を計上するだろう。


そんなマンCの“キャッシュ”の源泉は、クラブのオーナーであるシャイフ・マンスール・アル・ナーヤン。アラブ首長国連邦のアブダビ王族で、その推定資産は150億ポンド(約2兆1200億円)と言われ、あのチェルシーのオーナーロマン・アブラモビッチの資産の2倍以上。ダントツの金持ちなのである。


昨年夏にはマドリードの白いクラブの「巨人買い」に各方面から非難の声があがったように、近年の莫大な資本力で選手を買い漁る傾向には警鐘が鳴らされている。しかし、資金のないクラブにとっては“経営”であっても、金持ちにとっては“道楽”なのである。そしてたとえ“道楽”であっても、実際に金が流れ、誰かがその金を受け取って利益を得ている以上、それは立派な経済活動である。資本主義においてはその行動は非難されるべきものではないのだ。


金の価値というものは、自身がどれだけの金を持っているかによって変わるのである。私はやったことがないのでわからないが、マンスール氏にとってはマンCの経営は、自分で好きなチームを作ることができるゲーム「サカつく」のようなものなのであろう。金があるから、バーチャルの世界で架空のチームを作るのでなく、リアルの世界で実際の選手を集めてプレーをさせているのだ。そう、マンCはマンスール氏にとっての“娯楽”なのである。人様の“娯楽”に口を出すのも野暮な話。金持ちもここまで来ると、「どうぞ、勝手にしてください」という気になる。我々金のない凡人は、その“娯楽”に便乗して大いに楽しめばいい。マンスールの“道楽”が、人々の“娯楽”でありさえすれば、私は何も言わない。


しかし、ただ一つ言える事はクラブはバーチャルではない。戦う選手にも、支えるサポーターにも“魂”がある。その“魂”をないがしろにされては誰も楽しくないだろう。


マンスール氏にとっては、200億円でフェルナンド・トーレスを手に入れることは、庶民がユニクロで1990円のフリースを購入するようなものかも知れない。しかし、トーレスをユニクロのフリースのように1年で捨てられては、トーレスを愛する人には許せない。


“魂”は金では買えない。マンCは今後もお買い物を続けるだろうが、せめてそこだけは外さないで欲しい。


魂のフーリガン

「イエメン世代」の複雑な位置づけ

アジア杯予選の日本代表、劇的な逆転勝利で一躍脚光を浴びることになったが、彼らは複雑な立場にいる。


フル代表でピッチに立ったことがあるのは西川、金崎、乾、山田の4名のみのチームは平均年齢は20.9歳は、フル代表をA代表と呼ぶなら、B代表という名前が相応しい。


このメンバーが呼ばれた背景はAFCによるゲームの日程変更にある。一旦は1月20日過ぎに変更になる予定のゲームが、急遽当初予定の1月6日に引き戻された。岡田監督も前日の会見で「当初の予定通り20日過ぎになっていたらフル代表(A代表)でやるつもりでした。」と語っている。


同時に、このチームについては「意識のレベル、プレーという部分でフル代表とかなり差があると感じている。」、「今の時点で“追い抜いているな”というのはいませんね。」とまで彼らに対する自身の見方をあからさまに伝えた。


ゲーム前のコメントでもあるから、「なにくそ!」という選手の奮起を期待するため、意識的にそのような言い方をしたのかも知れないが、いくら期待に応えたとは言っても、彼らが現在のフル代表メンバーを蹴落として割って入るかというと、そうは世の中甘くない。実際に岡田監督自身ゲーム後の会見では「3点取ったことは、もの凄く評価すべきこと。それが即、フル代表に入って来れるかということはまた別」とはっきり語った。


では岡田監督はこのゲームをどう位置づけたのであろうか。目標は3つある。


①南アフリカ大会でのジョーカー探し


現在はフル代表の中でメンバーが固定化しているが、本大会で戦うにはまだまだ足りないピースがある。それは今のフル代表にない「個性」である。

ゲームの戦術を変えたい時に投入するスパイス。今回のチームでは高さ・ポストプレー・決定力・運動量を見せた平山は◎、後半にゲームを変えたドリブラー乾も、石川というジョーカーを怪我で使えない岡田監督は取っておきたいカードかもしれない。


②南アフリカ大会でのバックアッパー探し


現在の不動のフル代表メンバーに万一何かのトラブルが生じた場合に代わりにないうる控え選手である。

その万が一の事態にならない限り、彼らが戦うピッチは代表の紅白試合がメインとなる。

しかし、今のフル代表にはすべてのポジションで、すでにバックアッパーがセットされているので、このカテゴリーに入る選手は少ないだろう。まあ、南アまで行ってもゲームに出られないなら、選手の方でもこだわるカテゴリーではない。

強いて言えば中澤、闘莉王のバックアッパーを探したかったところだが、イエメン相手に2失点では難しい。


③南アフリカ大会以降のフル代表候補探し


今回のフル代表の中心選手はかなりの人数が大会後にチームを去るだろう。その後を担う選手達を同世代相手ではなく、フル代表の公式試合の中で見極める目的があったはずだ。今回の主力にはならないが、次回の主力になる選手。過去の例を見れば1998年フランス大会にカズと北澤を落としてもメンバーに入れた小野、最終メンバーからは落ちたがチームに同行した市川のようなケースである。

目的がW杯の雰囲気を味あわせるようなものだから、この席は殆ど用意されていない。しかし、前述の小野と市川をフランスに連れて行ったのは他ならぬ岡田監督である。私は一人は「ある」と信じている。

この候補としては金崎、山田のいずれか。個人的には柏木は好きだが、フル代表の中盤は今でも人口過密状態だから、かなり難しいだろう。それこそ後のメンバーは大会後まで、青いユニフォームは我慢しなければならない。


フル代表のメンバーがかなり固定化している現在、今回のような特殊な事情がなければフル代表相手の公式戦でこのような実験の場は得られなかった。相手が手ごろなイエメンというのも日本にとって実にありがたかった。岡田監督にとっても日本サッカー協会にとっても良かったし、一度は観たかったこのメンバーのゲームが観れた我々サポーターも、融通の利かないAFC(W杯の前にアジア杯予選を入れたことは理不尽極まりないが)に感謝すべきなのかも知れない。


おっと待った。せっかく「一度は観たかった」メンバーで戦ったイエメン戦、そういえば「観たくても観れない」ゲームだった。


新年早々、実に情けないお年玉だった。


魂のフーリガン

イエメン戦-“速報観戦”の楽しみ方

1月6日、アジア杯予選のイエメン-日本戦を“観戦”した。TV放映のなかったこのゲーム、私の場合はネット上での“速報観戦”である。


普段でもテレビの前で観戦できない状態にある時は携帯でこのメディアを良く利用するが、耳障りでもある一本調子のエンドレス・チャントや、かのM木Y太郎氏の低脳素人解説を聞かされなくて済み、ゲームの流れを伝える次の一行を待つ緊張感もあって意外と面白い。


想像は自由。ほんの一行の経過情報から選手達のプレーを想像するのは楽しいものである。そして後で真実と照らし合わせて自身の想像を検証する。「1粒で2度おいしい」楽しみ方なのである。


たかが“経過速報”と思って馬鹿にしてはいけない。数十行の更新情報と前後半の数行の総括には、実に多くの真実が読み取れる。個人名が出てくるということは、その選手が重要な局面に顔を出しているということ。だからこの速報を見ているだけで、単なる得点経過だけではなく、誰がそんな活躍をしているか、ゲームがどのように流れているかががよく分かるのだ。


イエメン戦の速報はこちら⇒ http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/live/jpn_20100106_01.htm

(お暇な方はどうぞ)


試しに速報での出場選手の登場回数を数えると・・・


   No.      前半   後半 (内シュート)

GK 88 権田   3     

DF 87 菊地   2     

   69 槙野    (1)  2 (1)

   78 太田       

   48 吉田        

MF 44 柏木        3

   45 金崎   2     4

   75 山村        X

   55  乾    X      5 (1)  後半0分 IN

   61 山田   1      X

   81 平山    (2)  4 (3) 前半21分 IN
   65 米本   1     

FW 82 渡邉        1 (1)

   83 永井   X          後半40分 IN

   

まず前半は権田と菊地の登場回数が多くイエメンの攻勢が伺える。期待された山田は怪我をした時のみで、インパクトを残せないまま交代。代わりに入った平山は好調だったらしくピッチですぐに脅威となっている。


後半には柏木、金崎、乾、平山の数字がぐっと上がり中盤から前線が活性化した。もちろんその起爆剤は後半投入の乾、後半だけで5回名前が登場した。


他にも、攻撃的DFののキャプテン槙野がその特徴を出して前線に飛び出している様子や、残り時間僅かでの登場で積極的にアピールする大学生、永井の姿が浮かんでくる。


ほら、もうあなたの脳の中にある緑色のピッチの上でも、若い日本代表選手達の躍動が見えるだろう。


スタジアムに行けない時、テレビを見ることが出来ない時、こんな観戦方法でもFootballは楽しめる。皆様も一度お試しあれ。


追伸:

 

全員の背番号が大きいのはA代表における彼らの立場を表しているが、平山の背番号81にある意図があることはすぐに分かった。これは9×9、即ちエースナンバーの2乗を意味している・・・はずである。 


それが正解という自信もある。 なぜなら控えのFW大迫は99、即ちエースナンバーのゾロ目だった・・・。


ストライカーとはそんなもの、これもまた楽しい“魂の想像”である。



魂のフーリガン