「イエメン世代」の複雑な位置づけ | フーリガン通信

「イエメン世代」の複雑な位置づけ

アジア杯予選の日本代表、劇的な逆転勝利で一躍脚光を浴びることになったが、彼らは複雑な立場にいる。


フル代表でピッチに立ったことがあるのは西川、金崎、乾、山田の4名のみのチームは平均年齢は20.9歳は、フル代表をA代表と呼ぶなら、B代表という名前が相応しい。


このメンバーが呼ばれた背景はAFCによるゲームの日程変更にある。一旦は1月20日過ぎに変更になる予定のゲームが、急遽当初予定の1月6日に引き戻された。岡田監督も前日の会見で「当初の予定通り20日過ぎになっていたらフル代表(A代表)でやるつもりでした。」と語っている。


同時に、このチームについては「意識のレベル、プレーという部分でフル代表とかなり差があると感じている。」、「今の時点で“追い抜いているな”というのはいませんね。」とまで彼らに対する自身の見方をあからさまに伝えた。


ゲーム前のコメントでもあるから、「なにくそ!」という選手の奮起を期待するため、意識的にそのような言い方をしたのかも知れないが、いくら期待に応えたとは言っても、彼らが現在のフル代表メンバーを蹴落として割って入るかというと、そうは世の中甘くない。実際に岡田監督自身ゲーム後の会見では「3点取ったことは、もの凄く評価すべきこと。それが即、フル代表に入って来れるかということはまた別」とはっきり語った。


では岡田監督はこのゲームをどう位置づけたのであろうか。目標は3つある。


①南アフリカ大会でのジョーカー探し


現在はフル代表の中でメンバーが固定化しているが、本大会で戦うにはまだまだ足りないピースがある。それは今のフル代表にない「個性」である。

ゲームの戦術を変えたい時に投入するスパイス。今回のチームでは高さ・ポストプレー・決定力・運動量を見せた平山は◎、後半にゲームを変えたドリブラー乾も、石川というジョーカーを怪我で使えない岡田監督は取っておきたいカードかもしれない。


②南アフリカ大会でのバックアッパー探し


現在の不動のフル代表メンバーに万一何かのトラブルが生じた場合に代わりにないうる控え選手である。

その万が一の事態にならない限り、彼らが戦うピッチは代表の紅白試合がメインとなる。

しかし、今のフル代表にはすべてのポジションで、すでにバックアッパーがセットされているので、このカテゴリーに入る選手は少ないだろう。まあ、南アまで行ってもゲームに出られないなら、選手の方でもこだわるカテゴリーではない。

強いて言えば中澤、闘莉王のバックアッパーを探したかったところだが、イエメン相手に2失点では難しい。


③南アフリカ大会以降のフル代表候補探し


今回のフル代表の中心選手はかなりの人数が大会後にチームを去るだろう。その後を担う選手達を同世代相手ではなく、フル代表の公式試合の中で見極める目的があったはずだ。今回の主力にはならないが、次回の主力になる選手。過去の例を見れば1998年フランス大会にカズと北澤を落としてもメンバーに入れた小野、最終メンバーからは落ちたがチームに同行した市川のようなケースである。

目的がW杯の雰囲気を味あわせるようなものだから、この席は殆ど用意されていない。しかし、前述の小野と市川をフランスに連れて行ったのは他ならぬ岡田監督である。私は一人は「ある」と信じている。

この候補としては金崎、山田のいずれか。個人的には柏木は好きだが、フル代表の中盤は今でも人口過密状態だから、かなり難しいだろう。それこそ後のメンバーは大会後まで、青いユニフォームは我慢しなければならない。


フル代表のメンバーがかなり固定化している現在、今回のような特殊な事情がなければフル代表相手の公式戦でこのような実験の場は得られなかった。相手が手ごろなイエメンというのも日本にとって実にありがたかった。岡田監督にとっても日本サッカー協会にとっても良かったし、一度は観たかったこのメンバーのゲームが観れた我々サポーターも、融通の利かないAFC(W杯の前にアジア杯予選を入れたことは理不尽極まりないが)に感謝すべきなのかも知れない。


おっと待った。せっかく「一度は観たかった」メンバーで戦ったイエメン戦、そういえば「観たくても観れない」ゲームだった。


新年早々、実に情けないお年玉だった。


魂のフーリガン