マンCに見る道楽と娯楽 | フーリガン通信

マンCに見る道楽と娯楽

売上高129億円に対し、当期純利益が▲137億の赤字。

こんなにメチャクチャな経営状態でも、この“企業”が潰れない理由は何だろう?答えは簡単。“キャッシュ”があるのだ。経営に大事なのは最後はキャッシュ。いくら黒字を計上しても当座のキャッシュがなければ倒産することがあるし、逆にいくら赤字を計上してもキャッシュがあれば企業は存続できる。


冒頭の決算数値は、イングランド・プレミアリーグのマンチェスター・シティ(以下マンC)が先日発表した、昨季2008-09シーズンの収支。つまり、このクラブにはイングランド・サッカー史上最大の赤字を計上しても、存続するだけの体力(キャッシュ)があるということだ。


半端なキャッシュではない。なぜなら、マンCはこの赤字を計上した直後、今季2009-10シーズンの最初には8人もの大幅補強を行った。ギャレス・バリー、カルロス・テベス、エマヌエル・アデバヨール、ロケ・サンタクルス、コロ・トゥーレ、ジョレオン・レスコット、シウビーニョの獲得に掛かった総額は何と約173億円!


そんなマンCの派手な金使いは止らない。昨年末にはその時点でたった2敗しかしていなかった(7勝8分2敗)のマーク・ヒューズ監督に満足できず解任し、後任に元インテルのセリエA優勝監督・ロベルト・マンチーニを雇う。そして早速1月の移籍市場では南米最優秀選手であるエストゥディアンテスのMFファン・セバスチャン・ベロン、リバプールのスペイン代表FWフェルナンド・トーレスにも大金を積んでせっせと声を掛け、まずは1月9日にはインテルの元フランス代表パトリック・ヴィエラの獲得を発表した。


これだけ金を使って今季の売上がどこまで増加するかは分からないが、やはり入場料・放映料が主な収入源となるクラブ経営において、その売上がそう簡単に増えるものではない。すでにこれだけ莫大な支出が発生している以上、当然今季もその収支は大きな赤字を計上するだろう。


そんなマンCの“キャッシュ”の源泉は、クラブのオーナーであるシャイフ・マンスール・アル・ナーヤン。アラブ首長国連邦のアブダビ王族で、その推定資産は150億ポンド(約2兆1200億円)と言われ、あのチェルシーのオーナーロマン・アブラモビッチの資産の2倍以上。ダントツの金持ちなのである。


昨年夏にはマドリードの白いクラブの「巨人買い」に各方面から非難の声があがったように、近年の莫大な資本力で選手を買い漁る傾向には警鐘が鳴らされている。しかし、資金のないクラブにとっては“経営”であっても、金持ちにとっては“道楽”なのである。そしてたとえ“道楽”であっても、実際に金が流れ、誰かがその金を受け取って利益を得ている以上、それは立派な経済活動である。資本主義においてはその行動は非難されるべきものではないのだ。


金の価値というものは、自身がどれだけの金を持っているかによって変わるのである。私はやったことがないのでわからないが、マンスール氏にとってはマンCの経営は、自分で好きなチームを作ることができるゲーム「サカつく」のようなものなのであろう。金があるから、バーチャルの世界で架空のチームを作るのでなく、リアルの世界で実際の選手を集めてプレーをさせているのだ。そう、マンCはマンスール氏にとっての“娯楽”なのである。人様の“娯楽”に口を出すのも野暮な話。金持ちもここまで来ると、「どうぞ、勝手にしてください」という気になる。我々金のない凡人は、その“娯楽”に便乗して大いに楽しめばいい。マンスールの“道楽”が、人々の“娯楽”でありさえすれば、私は何も言わない。


しかし、ただ一つ言える事はクラブはバーチャルではない。戦う選手にも、支えるサポーターにも“魂”がある。その“魂”をないがしろにされては誰も楽しくないだろう。


マンスール氏にとっては、200億円でフェルナンド・トーレスを手に入れることは、庶民がユニクロで1990円のフリースを購入するようなものかも知れない。しかし、トーレスをユニクロのフリースのように1年で捨てられては、トーレスを愛する人には許せない。


“魂”は金では買えない。マンCは今後もお買い物を続けるだろうが、せめてそこだけは外さないで欲しい。


魂のフーリガン