(1月8日・東京文化会館大ホール)
東京シティ・フィル50周年記念特別演奏会として開催されたニューイヤー・コンサート《三大テノールの宴》。華やかなタイトル通り、オペラから歌曲、ミュージカルまでを網羅した盛りだくさんのプログラムとなった。
冒頭を飾ったのは、ロッシーニ《セヴィリアの理髪師》序曲。コンサートマスターは塩貝みつる。編成は12-10-8-7-6だったようだ。ロッシーニらしい引き締まった響きという点ではやや物足りなさも残したが、チェロ・セクションのまとまりは良く、低弦が全体をしっかりと支えていた。
指揮の藤岡幸夫はマイクを手に、終始軽快な語り口で進行する。藤岡によれば、この「三大テノールの宴」は5年前に関西フィルで始めた企画で大きな反響を呼び、山形交響楽団でも好評を博したという。東京でもぜひ実現したいと考え、東京シティ・フィル50周年記念特別演奏会として、相互物産グループ社長・小澤真也(まさゆき)氏に協賛をお願いし、実現に至ったとのこと。会場には石破前首相やコシノジュンコさんも来場していることが紹介された。
登場した三人のテノールは、福井敬、村上敏明、笛田博昭。
藤岡によれば三人はとても仲が良く、企画を始めた当初はそれぞれ30代、40代、50代だったが、今や40代、50代、60代になったと笑わせる場面もあった。
ここから先は、藤岡が登場する各自を軽妙に紹介し、出演者がそれに応じる形で進む。プライベートな話題も多く、最初に登場した福井が中学・高校時代にトロンボーンを吹いていたこと、笛田の趣味は恋ならぬ「鯉」で、一時は屋上で70〜80匹飼っていたが大変なので今は水槽に5匹、その水槽が180センチの長さであること、村上の息子さんがまだ5歳だという話などが披露され、会場は終始リラックスした雰囲気に包まれた。
福井は、最初は次に歌われる2曲の紹介のために登場した。わかりやすい語り口でオペラの筋書きと歌の内容を説明する。以下同様に、笛田、村上と順番に歌い終わった後、次の2曲を紹介する形で進む。プログラムに曲目解説がない理由に合点がいく。
最初の歌唱は笛田博昭による、マイアベーア《アフリカの女》から「おお、パラダイス」を快調に歌いきって勢いをつける。続いて村上敏明がマスカーニ《カヴァレリア・ルスティカーナ》の「母さん、あの酒は強いね」を歌う。笛田のあとでは大変だが、村上は過度に劇的に煽ることなく、堅実にまとめた印象だ。
続いて福井敬が登場し、プッチーニ《トスカ》の「妙なる調和」を抒情性豊かに、堂に入った歌唱で聴かせる。このあと歌われるワーグナー《ニュルンベルクのマイスタージンガー》の曲紹介では、笛田が「僕、ドイツ・オペラよく知らない。一番長いオペラの1曲」と冗談を飛ばし、会場の笑いを誘った。
笛田は次にプッチーニ《トゥーランドット》の「泣くな、リューよ」を披露。実は前夜、ウクライナ国立歌劇場来日公演で《トゥーランドット》のカラフ役を歌ったばかりだったという。藤岡が「本当にやるの?」と聞いたところ、「やります」と即答したとのエピソードも紹介された。
村上はヴェルディ《アイーダ》の「清きアイーダ」を歌唱。やや調子が万全ではないようにも感じられたが、最後はしっかりと決める。福井はワーグナー《ニュルンベルクのマイスタージンガー》の「朝は薔薇色に輝き」で、朗々とした歌唱をきちんと形にしていた。
歌曲のコーナーでは、笛田が《帰れソレントへ》でスケール大きく締め、《カタリ・カタリ》でも終結部を盛り上げる。三人の中では一番若いだけあり、元気いっぱい。豊かな声量と明るい音色を生かし、オペラと歌曲を貫く率直な感情表現が強く印象に残った。
村上は《グラナダ》と《ヴォラーレ》を担当。オペラとは異なる発声を要するレパートリーだけに、やや大変そうにも感じられたが、会場を盛り上げる役割は十分に果たしていた。
福井は《禁じられた音楽》でコーダをきっちり決め、さらにミュージカル《ウエスト・サイド・ストーリー》から「マリア」では、最後のファルセットを鮮やかに決めて大きな拍手を浴びた。
オーケストラは藤岡幸夫指揮、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団。マスカーニ《カヴァレリア・ルスティカーナ》間奏曲が、歌の饗宴の合間に静かな呼吸をもたらす。
終盤、ヴェルディ《リゴレット》より「女心の歌」は三人が順番に歌う形で進む。聴かせどころでは福井が笛田を指名し、2番では村上が決め、最後は三人が声を合わせて迫力十分。会場が大きく沸いた。
続くプッチーニ《トゥーランドット》「誰も寝てはならぬ」は、藤岡によれば今回が初の試み。中間部のハミング・コーラスを会場の聴衆にも歌ってほしいと提案し、まず簡単なリハーサルを行う。福井、村上、福井の順で歌い、いちばん“おいしい”聴かせどころは笛田が担当。ハミングは男声キーで低めに会場が歌い、最後は三人がそろって堂々と締めくくり、ブラヴォーが飛び交った。
アンコールは2曲。まず「オー・ソレ・ミオ」。村上と笛田がたっぷりと歌唱を伸ばし続け、いかにも“三大テノール”らしい高揚感が会場を包む。コーダでは三人が競い合うように声を張り合い、この日最初の大きなクライマックスが生まれた。藤岡は「本家の三大テノールはマイクを使うが、この三人は生声」と、その大変さをユーモアを交えて強調する。
さらにもう一曲、アンコールとして披露されたのが《タイム・トゥ・セイ・グッドバイ》。アンドレア・ボチェッリとサラ・ブライトマンのデュオで世界的なヒットとなったことで知られるナンバーだ。今回は三人のテノール版として、メインの旋律部分を笛田博昭と村上敏明が受け持ち、最後のコーダでは三人が声を合わせて決める。静かな別れの歌でありながら、祝祭の余韻をしっかりと残すエンディングとなり、会場からは改めて大きな拍手が送られた。
終始、笑いと拍手に包まれながら進んだ《三大テノールの宴》。競い合うというより、それぞれの個性を保ったまま並び立つ――そんな関係性が、このニューイヤー・コンサートの魅力だった。
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 50周年記念特別演奏会 ニューイヤー・コンサート《三大テノールの宴》(1月8日・東京文化会館)
ロッシーニ:歌劇『セヴィリアの理髪師』序曲
マイアベーア:歌劇『アフリカの女』より「おお、パラダイス」(笛田)
マスカーニ:歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』より「母さん、あの酒は強いね」(村上)
プッチーニ:歌劇『トスカ』より「妙なる調和」(福井)
プッチーニ:歌劇『トゥーランドット』より「泣くな、リューよ」(笛田)
ヴェルディ:歌劇『アイーダ』より「清きアイーダ」(村上)
ワーグナー:楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』より「朝は薔薇色に輝き」(福井)
デ・クルティス:帰れソレントへ(笛田)
ララ:グラナダ(村上)
ガスタルドン:禁じられた音楽(福井)
マスカーニ:歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』間奏曲
カルディッロ:カタリ・カタリ(笛田)
モドゥーニョ:ヴォラーレ(村上)
バーンスタイン:『ウエスト・サイド・ストーリー』より「マリア」(福井)
ヴェルディ:歌劇『リゴレット』より「女心の歌」(全員)
プッチーニ:歌劇『トゥーランドット』より「誰も寝てはならぬ」(全員)
指揮:藤岡 幸夫
テノール:福井 敬
村上 敏明
笛田 博昭












