第34回日本製鉄音楽賞 受賞記念コンサート(7月11日・紀尾井ホール) | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

1990年から始まった日本製鉄音楽賞
今年はヴァイオリンの金川真弓(かながわ まゆみ)が、「曲の本質を理解し自分の感性をしっかりと通した説得力ある演奏を聴かせる、柔軟な対応力と包容力を持つ注目すべきヴァイオリニスト」として《フレッシュアーティスト賞》を、
音楽プロデューサー平井 滿(ひらい みつる)氏が「数十年にわたり地道に手作りで演奏会制作を続け、室内楽振興に果たしてきたその功績は高く評価されるべきである」として《特別賞》を受賞した。

 

今日は受賞記念コンサートが行われ、第1部は平井滿氏が司会の大林奈津子とトークを行い、第2部に金川真弓のミニコンサートがあった。

 

平井氏が企画運営する「鵠沼サロンコンサート」は400回を超える。2008年には横浜楽友会を設立、港南区民文化センター「ひまわりの郷」のコンサートを企画するほか、2011年に開館した鶴見のサルビアホール(音楽ホール)で弦楽四重奏を中心に室内楽のコンサートを多数企画している。2011年には海老名楽友協会も設立し、海老名市民会館でのコンサート企画も行っている。

 

最も大切にしていることは?の質問に『安定的にお客様に来ていただくこと。セット券で3,4公演まとめて販売。いいものだとわかっていただければ続けて買っていただける。定着するまで3年、4年と続けることが大切』と答えた。

 

今後のクラシック界の展望は?という質問に対しては、『東京から一歩出ると全国的に砂漠化している。1980年代の文化会館の設立ラッシュで公的ホール主催のコンサートが激増、民間の主催者が撤収してしまった。バブル崩壊後は税収が悪化、文化予算が最初に削減され、会館主催がなくなり、民間主催もすでになくなっていた。これが日本の現状です。市民会館への応援が必要。(私たちの運営方法が)こうすればコンサートができますよという参考になればうれしい』と語った。

 

第2部は金川真弓のミニコンサート(とはいえ中身は極めて充実)。

いきなりJ.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調BWV1004から始まる。第20変奏と第24変奏の2つの頂点に向かって劇的に盛り上げていく構成が見事。外連味のない、純粋な演奏だった。

 

続いて3年前から室内楽の共演で意気投合している小菅優とファリャとプーランクという強烈な個性の作曲家の作品を弾いた。
小菅優も2002年に《フレッシュアーティスト賞》を受賞している。

ファリャ:7つのスペイン民謡では、バッハと打って変わってスペイン情緒豊かな世界が広がる。ピアノの小菅優も素晴らしい。小菅は強いアタックでファリャの土着的エネルギーを掘り起こしていく。金川のヴァイオリンは、そのエネルギーを取り入れながら、高みに向かって登って行った。

 

プーランク:ヴァイオリン・ソナタ FP119は、スペイン内戦の際、フランコの率いる反乱軍により銃殺された詩人・劇作家のガルシア・ロルカの思い出に捧げられた作品。
洗練された表現の中に、ドキリとするような激しい怒りの感情があり(特に第3楽章コーダのヴァイオリンの鋭いピッツィカートとピアノの激しい一撃)、一筋縄ではいかない作品でもある。小菅優とがっぷり四つに組む金川のヴァイオリンの説得力が抜群だった。

 

アンコールは、フォーレ「夢のあとに」が緊張を和らげるようにゆったりと演奏された。

 

先週7月4日、紀尾井ホールで記者会見があり、開館30周年を迎える2025年4月からホール名称が

「日本製鉄(にっぽんせいてつ)紀尾井ホール」となることが発表された。

以下はプレス・リリースです。

また、開館30年を機に、大規模なリニューアルを実施、舞台設備、客席の更新、バリアフリー対策を行い、配管など目に見えない部分も整備する。そのため、2025年8月から2026年12月まで、1年4か月にわたり休館。リニューアルオープンは2027年1月を予定している。紀尾井ホール室内管弦楽団のコンサートは東京オペラシティコンサートホールなど別会場で行われる。