タリス・スコラーズ 結成50周年記念ツアー (7月6日・ミューザ川崎シンフォニーホール) | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

コロナ禍で5年ぶりの来日となったタリス・スコラーズ。実は生で聴くのは初めて。客層は合唱を歌っている方や古楽ファン、あるいは声楽ファンだろうか、オーケストラや器楽のリサイタルなどのコンサートと異なる印象。

タリス・スコラーズは女声6人、男声4人の構成。指揮は創立者のピーター・フィリップス

 

ルネサンス音楽に詳しくない者としては、ピーター・フィリップスがインタヴュー(註)で語った

『私たちが歌っているのは、コンサートで聴くための音楽、お客様にお届けするものであって、必ずしも宗教的な関係があるわけではありません。私たちの音楽を聴いていると、まるで天国にいるかのように感じられるとすれば、それが私たちの狙いなのです。皆さんにその体験をしていただきたいのです』

という言葉にとても共感した。

 

実際に、プログラムも教会や礼拝で歌われる曲もあれば、現代アメリカの作曲家、ニコ・ミューリーが英国の南極探検家ロバート・スコットの日記から歌詞を採った作品もあり、またアルヴォ・ペルトもあるなど様々。

 

フィリップスが言う通り、女声の透き通った高音のハーモニーと男声の高音や低音のハーモニーが美しく溶け合い、正確な音程と隅々までコントロールされた表現力で完璧に歌われると、いずれの曲も文字通り天国的に感じられた。

 

全ての合唱が完璧だったが、最もインパクトがあり心に刻まれたのは、カトリックの聖地バチカン宮殿システィーナ礼拝堂にて400年前の礼拝で歌われた門外不出の秘曲、アレグリ作曲「ミゼレーレ(神よ、憐れみたまえ)」。モーツァルトが一度聴いただけで記譜したというエピソードでも知られる。

 

ホール4階下手のテノールが先唱者(カントル cantor)として歌うと、4階上手のソプラノ1、2、アルト、バスの合唱と、ステージ上のソプラノ1、2、アルト、テノール、バスの合唱が応唱する。特に4階のソプラノ1の装飾音をまじえた超高音はホールの天井に反射し、天から声が降ってくるように感じられ、この世とは思えない雰囲気に包まれた。

 

昨晩の東京オペラシティコンサートホールでは正面バルコニー2階のオルガン席の左右に配置されたと聞く。東京オペラシティとミューザ川崎の応唱の違いをぜひ聴き較べてみたかった。

 

タリス・スコラーズはミューザ川崎シンフォニーホールに初登場。ピーター・フィリップスはホールの評判を知っているのかアンコールに際してマイクを持ち、『この素晴らしいホールで歌えることは限りない喜びです』と語った。

 

アンコール曲はArvo Pärt:Bogoroditsye Dyevo (アルヴォ・ペルト:おお、神の御母)

フィリップスは『ペルトがケンブリッジのキングズ・カレッジ合唱団から委嘱され書いた作品で、同合唱団による「9つの聖書日課とクリスマスキャロル」の一環として、1990年クリスマス・イヴに初演された。ロシア正教会の「祈りの書」にある教会スラヴ語のテキストに基づいている』という趣旨の説明を加えていた。

 

 

(註) タリス・スコラーズ 結成50周年日本ツアー特別インタビュー〔後編〕 | アーティスト&コンサートマネージメント 株式会社テンポプリモ (tempoprimo.co.jp)

 

 

出演

指揮:ピーター・フィリップス

合唱:タリス・スコラーズ

 

曲⽬

ギボンズ:手を打ち鳴らせ

ウィールクス:高みでは神に栄光あれ

トムキンズ:おお神よ、奢り高ぶった者たちが私に抗って立ち上がり

ミューリー:ラフ・ノーツ(なぐり書きのメモ)

パーソンズ:おお、やさしきイエスよ

(休憩)

アレグリ:ミゼレーレ・メイ・デウス

パーセル:ミゼレーレ

ゴンベール:ダヴィデはアブサロムのために嘆き

ジョスカン・デ・プレ:わが子アブサロムよ

ペルト:それは・・・の子

 

[アンコール曲]

Arvo Pärt:Bogoroditsye Dyevo