明日への轍 -23ページ目

明日への轍

齢五十を過ぎて、ある日大腸がんが見つかる。
手術から回復したと思った一年後、肝臓と肺へがんが転移。
更に続くがんとの付き合いを記録します。

今日から二月だ。天気も快晴。
でも、外気温はかなり低いようだ。風もある。
まだ春の便りが届くような陽気にはなっていないようだ。


今日の昼から、食事は全粥になった。
全粥は、ホテルの朝食でも出るぐらいのご飯であるから特に問題なく美味しい。
お粥であるからスプーンが付いてくるが、あえて箸で全て食べた。
どうも、スプーンだと流動食、三部粥、五部粥、の頃を思い出して嫌だ。
以前は、お湯の中に炊いて潰した米が多少あって、お湯ばかりを飲んでいるような感じ。
薬だと思って全部食べてきたが、もう出来れば戻りたくない。

オカズはと言えば五部粥あたりから食材の形が残っているものが出てきた。
全粥になって、ご飯がお粥って事以外は普通食と変わらないような気がする。
勿論、薄味だし消化の良い料理方法で魚と野菜中心。病院食だから当たり前か。
五部粥から全粥になり、便がしっかりしてきた。
今日の夕食後は直ぐにトイレに駆け込んでガスと一緒にそれなりの量が出た。


こう言って自分の便を見ながら考えるに、医者の技術と言うのは凄い物だなと改めて感じる。
手術前には毎度表面に血液のついた便を見て、ため息をしていたものだ。
その患部を切除・縫合して、十日から二週間で元の機能に近い状態にする。
医学の進歩には驚くばかりだ。

さて、明日の採血結果で今週中の退院が無事決まると良いな。
体温も通常だし、廃液も問題なしだと思う。
それからは医者の判断だが、問題ないと判断される結果が出ることを願う。
今日は土曜日。再入院して三回目の週末だ。
昨日の雪が噓のように晴れ渡った良い天気。お出かけにも宜しい日和だな。

この土日は検査もなく経過観察だけのようだ。
食事後に無事に便通まで行くか。ドレーンの廃液に異変はないか。痛みはどうか。
それらを観察して異常なければ月曜日にはドレーン外しとなるようだ。
そうなれば、その翌日か翌々日の退院かもしれない。


通常の点滴がなくなって少々身軽になった。
尿がたまって夜中に目が覚めてトイレに行くのが苦痛だった。
何せ、口から飲まなくても常時水分が供給されるわけなので、短時間で尿意がする。
二時間位毎に目が覚めてトイレに行っていた。

それとベッドの布団を取り除いてもらった。
本来はマットレスにカバーだけなのだが、寝返りが打てない時に柔らかい布団を重ねましょうと
言うことで今まできたが、どうも柔らかすぎて腰が沈んでしまい却って腰が痛いような気がした。
家でも煎餅布団が状態であり、それに近づいたと言うことか。


便の状況はといえば、この二日ほどで以前より変わってきた気がする。
まず色が黒っぽいこげ茶色から明るい茶色に変わってきた。
それにどろどろの軟便から通常の軟便に近い状況にも変わってきた気がする。
肛門括約筋もしっかり働いているようである。
経肛門ドレーンを外した後、一度だけ失敗してシーツや下着を汚すことがあったが、それ以降は
ない。
直腸がんと聞いて人工肛門の可能性も考えたことがあるが、結果的に自分の肛門を残す事となり
よかった。



午前十時 主治医のN医師の回診あり。

ドレーン袋と腹部のドレーン挿入部分を見て
「良いですね。腹部の状態も以前より良くなっていますので、今日一日は五分粥ですが、明日か
ら全粥にしましょう。抗生物質は経口でも可能ですが、もう少し続けます。
そして、状態が良ければ月曜日にはドレーンを外しましょう。退院は、前回の事があるので期
待されるでしょうが。でも水曜日位かも知れませんね。」


まあ、今回は二月四日(水)の退院見込みで大丈夫だろうと思う。
前回は手術から十日目と言う、想定外に早い退院見込みを告げられて舞い上がってしまった。
それでも、炎症がない等の条件が揃えば、通常は十日程度でも退院可能らしい。
これまでが順調だったが、世の中そう甘くはないと言うことだな。

ベッドにばかり居られないので病院内を散歩した。
A棟15階のエレベーターホールから青空に映えるスカイタワーが見えた。
玄関では見舞い客がひっきりなしに往来している。
七段の雛人形も飾ってあった。 そう言えば明日から二月だな。

今日は予報どおり朝から雪だ。東京の初雪だ。
ドレーン部分の創感染がなければ、今頃は自宅で雪を眺めていたかもしれない。


今日は採血も検査も予定がない。
食事は、お昼から五分粥になるらしい。
ブドウ糖の点滴は今日の夕方までで終了予定。でも、抗生物質の投与は続けるとの事。
腰から下だけならシャワーも浴びられるようだ。
お腹の痛みはドレーンを抜かなければ無くならないようである。
通常でも、腹部ドレーンは手術後10日前後してから外すのが一般的のようだ。


ありがたいことに、何時までに退院しなければ仕事がとか締め切りがとか言うものが一切ない。
よって、必要な分だけゆっくり治療できる。
その上、入院費用についても保険給付金があるため心配が要らない。
また、保険の関係で連続した20日間の連続入院で在宅療養給付金も請求できる。


午前十時に主治医のN医師の回診。
「だいぶ炎症についても落ち着いてきたと思われます。食事を開始しながらドレーンからの廃液
の状況を見て良ければ週明けにもドレーンを外したいと思います。
抗生剤は引き続き投与を続けます。」

腹部のドレーンについてネットで調べると、次のような記述があった。
「大腸がんの手術等では、縫合不全や後出血などの可能性がある場合には情報を得るために腹部
ドレーンが留置される。ドレーンの留置される位置は切除部位や吻合部位によって異なり、吻合
部近傍・ダグラス窩・横隔膜窩・モリソン窩などに留置される。手術後の合併症の早期発見には
、これらのドレーンからの排液の性状や量などの観察が重要である。」

「腹腔内ドレーン:吻合部近傍に留置されたドレーンから血性の排液が見られれば、吻合部出血
を疑う。出血量によっては再手術の可能性もあるため、血圧や脈拍などバイタルサインと合わせ
て出血量を観察する。手術後1週間前後の発熱は縫合不全の可能性があり、縫合不全が生じた場合
には、ドレーンからの排液の性状は混濁し、便汁様で悪臭がある。排液の性状・量を観察するこ
とが重要である。」

やはり吻合部分の観察や合併症等の早期発見に重要な役割を果たすらしい。
安易に外してしまえば重要なサインを見落としかねないから、やはり主治医の判断は正しいのだ
ろう。

明日、明後日の週末は検査の予定もないようだ。
食事を通じてドレーンの経過観察というところだろうか。


昨日の夜、T医師他2名が病室へ
今回の感染の処置見通しについて説明があった。

ドレーン付近の炎症と思われる症状については、その設置による細菌の発生が原因ではないかと
思われ、今回の大腸癌手術による大腸部分の処置はうまくいっていると思われる。
炎症を起している部分については、抗生物質投与により細菌は徐々に死滅していくと思われる。
現在体温も平熱に下がっている状況である事を考えると次第に改善して行くと考えられる。
実際に、抗生物質を投与して以降、お腹の痛さは治まっているなど、効果は出ている。
明日の採血の結果を見て、食事の再開及びドレーンの撤去を順次行いたいと考えている。


そして、明けて十日目の木曜日。
朝の採血があり検査の結果は、CRP値4.87だった。一昨日の数値より大分減ったようだ。
実際にこのCRP値は手術後、検査するたびに2~5の値を示していた。
それが、一昨日の火曜日に9.67と急伸したため、食止めと抗生物質投与となった。
つまり、一昨日と同程度の数値の状態に戻ったようである。


T医師から連絡があった、
「採血検査の結果がgoodでしたので、今日の夕食から三分粥を再開します」との内容だった。
だが、ドレーンの撤去については、言及がなかった。
つまり昨夜の説明どおりの採血検査結果であり、治療を再開すると言う事らしい。


私見であるが、抗生物質投与後に痛みは減ったがドレーン留置部分は多少の痛みが残っている。
だが、体温は平熱に戻っており、炎症反応が体温上昇と比例して起こると考えると炎症反応は一
昨日のようには再発しないような気がする。
また、ドレーン撤去により異物がなくなれば、腹部の痛みも自然と消滅すると思われる。


夕方に主治医のN医師が回診に来た。
昨夜のT医師と同様の説明をして、週末まではゆっくりと過ごしてほしいと説明された。
ドレーンの抜き差しは、言及がなかったが、通常五分粥あたりとの看護師の話もある。

予想では、明後日土曜日にドレーンを抜いて、週明けの2日月曜日以降が退院の運びかと思ってい
る。
日曜日の段階での退院予定日は今日だった。

でも、ドレーン周辺の炎症があるようで、抗生物質投与による炎症治療を行っている。
「ゾシン静注用」は2.25と4.5があるが、現在は4.5の方を一日3回投与している。
抗生物質を投与してから三日目だが、今日は大分痛みが治まった。
それに昨日から熱を数回計ったいたが、徐々に38度近いものが36.5度に下がっている。
やはり抗生物質の効果があったと言うことだろうか。
確かに楽になった。

9時に洗髪をしてサッパリした。五日ぶりだった。
そしてベッドに戻ったところ、H医師が顔を見せた。
何か、少々落ち着かないような雰囲気だった。


「教授回診がありますから。」そう言って、入口の所で待機していた。
まもなく、W教授が5~6人の医師を従えて入ってきた。
W教授は昨年12月24日の初診の時に会った以来であるが、顔は覚えていた。

W教授「やあ、どうも 」そう言って、ドレーンのパックを見て頷いていた。
お付の医師から「熱も下がってきたようです」と言われて「そう」と一言。
「それじゃ」と病室を出た。その間、約10秒程だった。

大病院のヒエラルキーを垣間見た気がした。
H医師が落ち着かなかったのは、患者が部屋に居なかったりと言うような不手際がない状態で教授
をお迎えするのが使命だったのだろう。
そして、担当する患者が部屋に居たので、安心した。
後は、教授の回診が順調に終わりますように・・・。そんなところか。

H医師から今後の治療についての話があった。
内容は次のとおり。

炎症反応が出ているのがドレーン周辺であり、この反応が出なくなるまで時間をかけて治療をし
ていきたいと考えている。
ドレーンは本来は体の中の廃液等を排出する機能のためであるが、今回、このドレーンが原因でそれを介して菌が進入し、感染が起こっていると言うことも考えられる。
それならそのドレーンを抜いてしまえば良いと言う考えの医師も居る。
しかしながら、ドレーンは縫合不全等の有無を確認する有効な機能を持っており、現在の廃液等
を見る限りは問題ないとも考えられるが、安易にその有効な機能を捨て去ることも慎重にならざ
るをえない。
炎症は抗生物質等により治まるものと考えており、それを採血によるCRP数値で確認して基準値ま
で下がった段階で食事を再開して、その後にドレーンを抜くように考えている。
そのため、当初の予定より時間が掛かることとなるが、ご理解願いたい。

CRP血液検査は、炎症の発症時に体内に増加する「C反応性たんぱく」の血中量を測定することで
炎症の度合いを測定する検査らしい。

基準値     :0.3以下
軽い炎症    :0.4~0.9
中程度の炎症  :1.0~2.0
中程度以上の炎症:2.0~15.0
重体な疾患   :15.0~20.0

看護師によれば、昨日27日10時時点の採血でCRP値が9.67だったようだ。
やはり高いね。
抗生物質で炎症を抑えるしかないでしょうね。