No.5 あんた、ウザい!
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テスト嫌いなわたし。
 
だから、レポート重視の授業を選択しているの。
 
だって、レポートは幾らでも時間をかけられるけど、テストとなると時間が足りない、覚えることが多くて嫌い。だから、どんなに嫌な講師でもレポートで評価してくれるならOKなのだ。
 
 
 
この授業がそう、人気がなくて生徒が少ない。
女子は数人しかいない。なぜかというと、前期だけでもレポート提出が3回もあるから。生徒は敬遠しがち。しかも授業も退屈ときたら逃げ出しちゃうよね。
 
 
 
 
午前中の講義がやっと終わった。
 
 
 
 
 
んー、どうしよ。
 
図書館行きたいけど、隼人に会わないか心配でこの1週間は行ってない。あの時、つい口走ってしまった自分を恨む!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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午後の昼下がり、結局図書館は断念。
お弁当を食べ終え、今は本を読んでいるわたし。
耳にはイヤホン。
心地よい音楽に目を閉じる。
 
 
 
 
バッハの『無演奏チェロ組曲1番ト長調』
 
 
 
不思議な曲
 
 
 
 
まるで別世界へ誘うように
その音色で人々を魅了する。
 
 
 
どこか寂し気な
その力強さに
 
わたしはキュンとなる。
 
 
 
時折見せる
細き弱き音色に
 
心を奪われる。
 
 
 
チェロの音色が好き
 
大好きな曲だ。
 
 
 
 
 
 
 
そこへ
 
「やっと、見つけた」
 
わたしは気配を感じて目を開ける。男性が立っている。
 
 
 
あなた誰?
 
 
 
 
 
 
 
「なにか?」
 
嫌そうに言ったつもり。
幸せな時間を邪魔されたら、誰だってムッとするでしょう。
 
 
 
「探したよ、こんなとこにいるなんて。俺、竹下樹。」
 
「・・・」
 
「上江洲さんだよね。1人なの?寂しくない?」
 
 
 
なんなのこの人....
誰かわからないけど、ほっといてほしい。
私は、ため息をつく。
 
 
 
 
 
「私に何かようですか?」
 
「敬語やめようよ。同級生だし。」
 
 
 
 
 
そうなの?私あなた知らない。
 
それに、そんなことはどうでも良くない?とにかく、わたしをほっといて。バックに本を入れる。
 
 
 
 
「用がないなら、私行きます。」
 
「待ってよ、すごく探したんだ。」
 
 
 
 
焦った男性は私を制すように右手を出す。お弁当袋を持つ手を止める。
 
 
 
「用があるなら言って下さい。」
 
「あのー、俺、君の事が気になるんだ」
 
 
 
 
 
 
えっ、今なんて?
 
 
「・・・」
 
「だから友達になって欲しいんだ」
 
 
 
 
友達?・・・嘘でしょ!だめよ。
逃げなきゃ!
 
 
 
 
 
バッグを手に取り、顔を見ないようする。
 
「すいません、次の講義があって急ぐので」
 
「あっ、待って上江洲さん・・」
 
 
 
 
 
 
男性は手を伸ばして遮ろうとする。
 
 
私はそれを避けるようにして早足で歩き出した。
 
 
 
 
 
 
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講義が終わり、急いで片付けをする。いないよね。私は周りを見渡す。ここ数日、私を見つけては声をかけてくる。その度に周りの視線を感じるし、噂の的になっていた。いつもアイツの居場所を確認するように周りを見渡しながら、ピリピリしていた。
 
 
 
 
なんなの。
 
 
どうしてこんな事が起きたんだろう。
 
 
 
 
 
講義も半分しか聞いていなかった。集中できない。完全に振り回されている。なんでこんな私に近づいてくるのよ。わけわかんない。
 
 
 
私の平穏な日々が・・・崩れ始めてる?そうなの?
 
 
 
 
 
 
 
 
・・えっ、こっちにくる。まさか、、わたしじゃないわよね?
 
 
 
 
「ねぇ、上江洲さん?」
 
 
 
やっぱり。。
 
 
 
 
 
 
「何?」
 
「この前の話だけど。」
 
「私、1人がいいので。」
 
「どうして?」
 
「1人が好きだから。」
 
「じゃ、1つ聞いても?」
 
私は黙る。
 
 
「なんで、いつもそんな格好しているの?」
 
 
 
 
えっ何?どう言う事?気になるって、そっちのこと??失礼にもほどがあるわ。普通さ、思っていても言わないのが大人でしょ。なんなの。
 
 
 
「どうしてって?何か迷惑かけました?」
 
 
 
段々ムカついてきた。
ホントこの人、一体なんなのよ。
 
 
 
「あっ、いやそういうつもりでなくてさ。気に障ったなら謝るよ。あの、上江洲さんって、めがね取って髪を下せば、そこそこの美人なのにって思ったから。」
 
 
 
なっ、何言ってるのこの人!
 
 
「いやー、俺思うんだけどさ、それってワザとでしょ。」
 
 
 
うわっ!隼人が言ってた見透かす男1だ。どうしよう。こういう時はどうやって誤魔化すんだっけ?あーぁ、隼人に相談しておくんだった。。。
 
 
 
 
 
 
「あの、意味わかりません。」
 
「いや、わかってるでしょ。」
 
 
 
 
 
 
 
どうしよう。どうにかしなきゃ。
 
 
 
 
 
 
 
 
「わたし行かないといけないので。」
 
 リュックを肩にかけテーブルの上の本を取る。
 
 
 
 
 
 
 
 
彼を避けて通ろうとしたその時、腕をつかまれた。
 
 
痛い!!
 
 
 
 
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「俺と付き合ってくれない?」
 
 
 
 
 
えっ?
 
私はポカーンと口を開けて立っていた。
何言ってるのこの人。ここ教室よ。可笑しいでしょ!
 
 
 
 
 
「からかうのは止めて。
それから、その手を離して!」
 
 
 
 
 
腕を振り払い、
つい大声をあげてしまった。
 
残っていた数名の男子がこっちを見る。
やってしまった。。。とにかく、ここから出よう。出なきゃ。。。私は彼の手を振り払い下を向いて講堂を出た。
 
 
 
 
 
 
 
 
そのままトイレへ駆け込み鍵をかける。
何なのよ!あれ。おちょくってる?何かの罰ゲームよね。そうでなきゃ、あり得ないし。なんなの!!!
 
 
私は苛立ちと不安でどうにかなりそうだった。
メガネを取り、頭をかかえる。
 
 
 
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どうしよう。
 
 
 
 
 
 
隼人に相談するべき?でも、隼人が前に出てきたら、私の夢のような生活は消える・・・。そんなの嫌よ!
 
ど、どうしよう。
 
 
とにかく、考えなきゃ!
 
 
 
 
 
 
 
考えるのよ私!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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 翌日、
 図書館どころじゃなくなった。頭がいたい。お昼ご飯も喉が通らない。
 
 
 
 
 
隼人からメールがきた。
5限のあと医学部の図書館に来て欲しいという。
 
いや、ダメでしょ。
これ以上の危険は冒せない!
 
 
 
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帰りに家に寄るとメールすると、わかったと返事がきた。よかった。
 
わたしはホッとする。
 
 
 
 
 
 
 
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午後の授業のため教室へ向かう。
教室へ入った途端、一斉に視線がわたしに注がれた。目を丸くして立ち止まる。これは、かなりヤバい状況になってるわ。どうして、こんなことに。。。しかも、原因となったその本人がその中にいる。彼の周りを女子が取り囲んでいる。人気者なのかいつも周りに人がいた。
 
これまでの自由が消えてしまいそうな不安にかられ、私は気落ちする。
 
 
 
 
 
 
「ねぇ、どうしてあんな子がいいのよ。」
 
「しかもいつも1人だし。よくわかんない子だよ。」
 
「服装だって・・・ねぇ。樹君に合わないよ。」
 
「そんなことないよ、彼女はメガネ取ると可愛いよ。」
 
「えー、メガネ外したとこ見たの?」
 
「いや、見てないけど・・。」
 
「でしょう。どこがいいのよ。。」
 
 
 
 
 
 
 
聞きたくない声が聞こえる。
 
 
どうでもいいから、わたしをほっといてほしい。あの中に巻き込まれたくない。どうする?速攻、振る?いや、そんなことしたらもっと大変なことになる。身の程知らずと罵られて、総無視されるかもしれない。まぁ、ここまできたら・・・もう、それもあり?私の思考回路は壊れつつあった。
 
 
 
誰も話しかけてこなかっただけマシかも知れない。教室を変わるたびに周囲の視線を感じて、正直もううんざりだった。
 
 
 

 
 
 
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午後の講義もすべて終った私は、車に乗り込む。エンジンをかける。
 
トントン!
 
 
 
窓をノックされ見上げると、樹が立っていた。わたしはため息をつく。ウインドーを下げる。
 
 
 
「何か?」
 
 
「注目させちゃって、悪かったと思ってる。目立ちたくないんだよな君・・・」
 
 
 
フロントガラスを見たまま聞く。
目も合わせたくないんだん。わたし怒ってるしね。
 
 
 
「謝らなくてもいから、もう私に話しかけないで。」
 
「それはできない」
 
「なんで!わたし、あなたのこと好きじゃないから。」
 
「でもさ、俺の事気になってるでしょ?よく俺の事見てるし。」
 
「それは!変なこと言うから・・。」
 
「ほら、やっぱり気になってる!てことは・・・好きかもってことだよね」
 
「だから、私はあなたのこと好きじゃないって言っ・・・」
 
 
 
怒りの余り振りむく。そして彼を罵る・・はずが、頬に何か当たった。へっ、何?なっ、なんなの!まさか、、今キスした?
 
嘘でしょ。
 
 
 
 
 
 
 
ふざけないでよ!!
 
 
 
 
 
 
「なにしてるのよ!!」
 
 
 
 
「つい・・・可愛くて、」
 
「なっ、、意味わからない!」
 
 
私は怒りに声が震えていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
「いや、これは・・・ごめん。つい・・」
 
 
 
 
 
 
 私の怒った声に驚いたのか、一瞬ひるむ。彼の言葉を遮るようにサイドブレーキを外す。謝るぐらいなら警察いらないでしょ!!!わたしの堪忍袋の緒が完全に切れた。
 
 
 
 
 
「あんた、うざい!」
 
 
 
 
 
 
アクセルを踏み込む。車は音を出し急発進する。イライラと困惑で頂点に達していた。
 
 
 
 
 
なんで、なんで。なんでこうなったのよ!
 
 
 
 
 
もう、嫌だ!
 
 
 
 
 
 
 
ハンドルを強く握り締め、「どうして、どうしてこんなことに.....。」顔は真っ赤だった。怒りと自分の不甲斐なさに怒っていた。怒りをハンドルにぶつけるお。「どうしてよ、なんでこうなったの、私のせいなの・・・」ドンドンとハンドルを叩く。「どうしてよー・・・」頬から大粒の涙が流れていた。
 
 
 
 
 
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隼人から貰ったキーホルダが
 
 
シートの上で揺れていた。
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
次回、「優しさと罪悪感のキス!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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