ディスバッドは菊ではないと腹をくくる | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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宇田 明が『ウダウダ言います』、『まだまだ言います』に引き続き、花産業のお役に立つ情報を『もう少しだけ』発信します。

前回は、日本農業新聞トレンド調査で、枝もの、草花類に次いで2024年販売が期待されている「ディスバッドマム」を検証しました(図1)。



図1 日本農業新聞花のトレンド調査(2014年1月13日)

   2023年比で販売が伸びそうな品目(最大3つ選択)

 

今回のお題は、販売が伸びると期待されているディスバッドマム特有の問題点と今後の取りくみを考えます。

表1は、日本農業新聞ネットアグリ市況(全国主要7卸売業者)に掲載されている国産切り花の品目別入荷量と単価(2023年)。

 


表1 主要7市場における入荷量と単価(2023年)

   日本農業新聞ネットアグリ市況

   7市場の全国市場での占有率は30%ですから、本表の入荷量を「0.3」で割ると

   全国市場の合計入荷量になります

   なお、日本農業新聞によりますとピンポンマムは、202年からデータ集計に問題があったそうで、

   この表のピンポンマム、前回のピンポンマムに関する図は正確でない可能性がありますので、参考

   程度にしてください。

 

ディスバッドマムは入荷量796万本、単価90円、(ピンポンマム311万本?、86円)。
キクとして見ると、輪ギク1億900万本、小ギク8,270万本、スプレーマム5,561万本と1ケタちがいます。

新規品目としてみると、ディスバッドマムとピンポンマムあわせて1,107万本、輪ギクのちょうど1割にまで成長できたことは称賛すべきでしょう。
1,100万本は、チューリップ、ストック、ヒマワリに匹敵します。
「ダリアの代わりでギフト需要」が期待されていますが、入荷量ではダリアは332万本、ピンポンマムだけでも肩をならべています。
ただ、単価はダリアの162円に比べると90円で半値強しかありません。
バラの93円には近づいていますが。
ディスバッドマムは水あげ、日持ちは勝っていますが、巨大輪ダリアの豪華さ、鮮やかな赤、ピンクの花色はもう一歩、及びません。
キクは日本の育種の得意分野、今後の発展を待つしかありません。

花型、花色以上に夏秋タイプ、芽なし性が重要な育種目標。

前回、ディスバッドマムは輪ギクより栽培、選花、出荷に圧倒的に手間がかかることを紹介しました。
現在でも単価、輪ギク68円とすると、ディスバッドマム90円ではしんどいと思います。
今後、ディスバッドマムの生産をさらに伸ばし、単価をもアップするにはどうすればよいのでしょうか?

ディスバッドマムの立ち位置を明確にし、花業界で共有することです。
それは菊という生まれ育ちを捨てることです。
現状はディスバッドマムという舌を噛みそうなカタカナ名称を名のっても、なかなか菊の宿命から逃れられていません。
それが図2。
ネットアグリ市況におけるディスバッドマムの週ごとの入荷量(国産、2023年)。
赤縦棒がディスバッドマム、青折線が輪ギク。
ディスバッドマムは左目盛で単位は万本、輪ギクは右目盛で十万本。

 


図2 主要7社のディスバッドマムと輪ギクの週当り入荷量(2023年)

   日本農業新聞ネットアグリ市況

 

輪ギクはセオリーどおり、物日に入荷の山があります。
すなわち、3月彼岸、8月お盆、9月彼岸、年末の4回。
一方、ディスバッドマム、
3月彼岸、8月お盆にも小さな山がありますが、それはキク以外の品目にも共通します。
仏花がメインですが、それ以外でも花が良く売れる物日だからです。
ディスバッドマムの特徴、
12月最終週、51週、52週に巨大な山があることです。
輪ギクなどの年末商戦が終わったころに巨大な需要が出現しています。
極論すると、ディスバッドマムは12月最終週にしか売れていない。
平日は週に10万本ほどですが、最終週は100万本近く売れています。
このことから、ディスバッドマムの需要を拡大するためには、12月最終週以外にも売れるようにすることです。


そのための答えは、表1、販売が伸びそうな品目でのディスバッドマムの理由にあります。
「若者は菊に固定観念なく用途拡大」
裏返すと、若者以外のヘビーユーザーであるシニアには、ディスバッドマムは菊であるとの固定観念が強いということです。
したがってきれいで華やかな花であってもギフトやブライダルには、ちょっとねえと躊躇。
実際にはどうかはわからなくても、花屋さんがクレームを恐れている。
贈り主が納得してディスバッドマムを贈っても、贈られた側が菊を贈られたとクレームがあったらこわい。

迎春用なら、華やかで満開で豪華、菊は問題がない。
それにディスバッドマムなら日持ち、水あげが抜群で、つくり置きもできる。
というわけで、ディスバッドマムとピンポンマムはお正月の迎春アレンジの定番。

このことは、すでに2014年に愚ブログで取りあげました。
それから10年たち菊のイメージはどれだけかわったでしょうか?
2014年5月15日「同じであって同じでない-菊とマム-」
https://ameblo.jp/udaakira/entry-11860309277.html

 

消費者や花屋さんがとまどう気持ちを紹介しました。
再掲します。
母の日にプレゼントする花を幼児と買いに行ったお父さんのつぶやき、
 
母の日
子供たちとお花屋さんに行き、
子供たちに好きな花を自由に選ばせたところ、
ピンク色で花芯が緑のマム(キク)を選択

お店の人に
「これはキクだけど大丈夫?赤いカーネーションもあるよ」
と聞かれたのですが、
「この花がきれいだからいいの」と上の子。

キクが仏花と思っているのは単にわれわれの先入観で、
子供や若い人にとっては他の花との用途での区別はないのかもしれないですね。
(2014.5.9)


京都で活躍の花屋さんのつぶやき
2016年11月26日「花屋さんの苦悩を解消する『マム』」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12223187466.html

 

小さな子供たちが花を買いに店を訪れ、
「これキレイー!これがいいー!」と
指差した先には赤、白、黄色の菊の花。。。
「これは菊やしなー…あかんと思うよー(^^;;」
と、言ったのは1、2回ではなかったような
気がします…

菊=お供え・お仏壇の花

というのは、一部の大人がもつイメージで
先入観のない人や子供にとっては
菊も他の花と変わらない、
可愛らしいお花なんですね。

さすがに真っ白な大菊を贈り物に
オススメする勇気はまだありませんが w
(2015年10月21日)


そのほかにもディスバッドマムの問題点と対策について愚論を展開しました。
2017年8月20日「オーバープロダクションの解消は「マム」で一点突破」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12303042303.html
2017年8月13日「「マム」で一点突破するために、まず呼び名の整理」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12301106408.html
2016.4.17「スタンダードとディスバッド-なんのこっちゃ」
http://ameblo.jp/awaji-u/archive2-201604.html
2016.11.13「濁点があるかないかのディスバッドとディスバット」
http://ameblo.jp/awaji-u/archive3-201611.html
2016.11.20「スプレーマムを1輪にしたらマム」
http://ameblo.jp/awaji-u/archive2-201611.html

 

輪ギクが、ピーク時(1996年)には12.7億本の生産があった超巨大品目に成長できたのは、キク=葬儀、仏花という巨大なマーケットをほぼ独占したからです。
いま、その強固なイメージで苦しんでいます。
バラもカーネーションもトルコギキョウもカスミソウも慶弔の二刀流になっています。
(バラの消費金額の5%は葬儀と推定。すくなくとも大都市では)
輪ギクは、葬儀の花から抜けだせず、苦悩しています。
それを解決できるのがマム。

花業界は、まだ腹をくくれていない。
マムはキクではないことを再確認しましょう。
キク=和花=仏事、マム=洋花=慶事(けいじ)
花市場のキク担当者でもディスバッ「
」と書き、発音するようなややこしい名称にする必要はない。
キクではないキクは「マム」に統一。
花業界、とくに最前線で接客する花屋さんはそれを徹底する。
マムはおめでたい花。
プレゼントにもブライダルにもマム。
物日にも平日(ひらび)にもマム。
まずは花屋さんが自信をもちましょう。

マムは、贈ったひとも贈られたひとも、喜んでいただける花。

 

 

宇田明の『もう少しだけ言います』(No.414. 2024.2.4)

2015年以前のブログは

http://ameblo.jp/udaakiraでご覧頂けでます

 

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コラム「花づくりの現場から」を連載しています。
https://www.jacom.or.jp/column/