宇田 明の『もう少しだけ言います』

宇田 明の『もう少しだけ言います』

宇田 明が『ウダウダ言います』、『まだまだ言います』に引き続き、花産業のお役に立つ情報を『もう少しだけ』発信します。

猛暑・酷暑に、台風直撃の日本列島。
お盆の墓参りは大丈夫でしょうか?

お盆の花と言えば、ハスにホオズキ。
これらはお盆限定花材。

一方、お盆に必須のリンドウ。
季節感がある秋の和花イメージ。

わたしが、まっさきに思い浮かべるリンドウ。

フーテンの寅さん映画のシーン。
シリーズ屈指の名場面(第8作『男はつらいよ 寅次郎恋歌』(1971年公開)。

 


画像 第8作「男はつらいよ 寅次郎恋歌」(1971年公開)

「男はつらいよ」は1969年から1995年まで48作が作られました。

第8作のマドンナは池内淳子。

リアルで、寅さん映画を見たことがある人が少なくなっています。

わが町でも当時は映画館が3~4館ありました。

土曜日には、オールナイトで寅さん映画の3本立てを朝までやっていました。

いまは淡路島に映画館はありません。

以下の文章も、なにが感動で、なにが面白いのかを理解できない人が多いでしょうね。

わかるひとには、寅さんの名調子、おいちゃん・おばちゃんのとぼけた声が聞こえてきます。

タコ社長もいたな。


旅先(岡山県備中高梁)で、さくらの夫、博の父(志村喬)と出会った寅さんは、彼の自宅に招かれて一晩酒を酌み交わします。

その夜、学者である父親は、昔旅した長野の田舎町で見た「ある貧しい農家の夕暮れ」の風景について語ります。


「静かな秋の夕暮れ、庭先にリンドウの花がひっそりと咲いている。
小さな家の土間で、若い母親が子どもをおんぶして夕飯の支度をしている。
どこからか味噌汁の匂いが漂い、かまどの煙が細く立ち上っている……。
人間の本当の幸せというのは、案外そういう質素で温かい暮らしの中にあるんじゃないか」


感動的なはなしです。
志村喬演じる博の父の、シリーズ屈指の名セリフ。

しかし、それだけでは終わらないのが寅さん映画であり、山田洋次監督。

この「リンドウの花と秋の夕暮れの家庭」の話に深く感動した寅さん。
柴又の「とらや」に帰るやいなや、さっそく自分の体験談であるかのように(受け売りで)おいちゃん、おばちゃん、さくらたちに語って聞かせます。

寅さんは名調子で

「秋の夕暮れにな、庭にリンドウの花が咲いててよ……」としんみり語り、「どうだい、いいだろ?」と感動を分かち合おうとします。

毎度おなじみ「とらや」の日常です。
寅さんのロマンチックで少しキザな語り口に対し、おばちゃんたちがポツリと一言。

おばちゃん 
「リンドウなら、うちの庭にも咲いてるよ」
おいちゃん 「ああ、植木屋が置いてったやつな」

寅さんが必死に作り出した情緒や詩的な世界観が、いつもの「とらや」の生活感あふれるリアクションで見事に一蹴されてしまい、寅さんがガクッと拍子抜けする(そしてまた一揉め起きる)という、落語のような最高のお笑いシーンへと繋がっていきます。

というわけで、わたしのイメージは「リンドウ=秋の夕暮れ」

しかし、現実はすこし違う(図1)。
日本農業新聞のネットアグリ市況(全国主要7市場)の週当たりの入荷量。
過去5年間の平年値(青折線)。

 


図1 リンドウの週当たり入荷量(お盆前週が32週)でピーク

(日農ネットアグリ市況・全国主要7市場)

青折線:平年値(過去5年平均)

赤折線:2026年入荷量(進行形)

今年のお盆の入荷量は(赤折線)は平年並みで順調

 

大きな角が2本。
左の大きな角が8月お盆、右の小さい角が9月彼岸。
リンドウは秋の夕暮れではなく、お盆と秋彼岸の仏花・墓花花材ということがわかります。

長い前振りでした。
今回のお題は、お盆の花として、いつも安定供給が話題になるリンドウについて検証します。

おなじみの関西仏花。
白・黄のキクに赤のSTカーネーションに、お盆には青のリンドウが必須花材。



画像 お盆の関西仏花

青い花のリンドウはお盆には必須花材

 

必須花材と言われても、
猛暑・酷暑の夏に、図1の槍の穂先のようなリンドウ入荷量ピークを、お盆前の31週(7月最終週)、32週(8月第1週)にぴったり合わせることは至難のワザ。

 

花の生産者・技術者なら、難しい理由を即座に、10でも20でも、指折り数えることができる。

①異常気象が常態化。猛暑・酷暑は過去の経験が役立たない。
②露地栽培で、環境を制御できないので、気象の影響をもろにうける。
③おなじ露地でも、小ギクは毎作植えかえるが、リンドウは植えっぱなしで数年栽培。そのため定植時期や摘心時期で生育を調節できない。
④図2のように、リンドウの生産量は岩手県が62%、続いて山形県が11%、秋田県が10%。
東北3県で80%以上の圧倒的シェア。
気象環境が似通った地域に集中しているので、気象リスクに弱い。


図2 リンドウの都道府県別出荷量割合

(2025年農林水産統計花き編)

県名の下の( )内の数字は出荷量の割合%

 

⑤生産者の高齢化などで、生産そのものが減りつづけている(図3)。
2020年までは生産を維持できていたが、以降は急減。
2025年入荷量の2000年対比は30%減。

入荷量そのものが需要を満たしていない。

 

図3 リンドウの入荷量と単価の推移

(日農ネットアグリ市況・全国主要7市場)
 
 

では、栽培技術が向上すれば、リンドウなど露地切り花の開花調節、いわゆるお盆ぴったり開花は可能か?

現状では困難です。

AIの発達により、開花予測はかなり精度があがるでしょう。
しかし、開花予測の次には、開花を早める、遅らせる技術が必要です(あるいは、早く咲かせて冷蔵庫で保管するか)。
クルマのスピードを上げたり、下げたりして決められた時間に目的地に着くように、植物の開花スピードを調節することは現在の技術では困難です。



画像 画像診断技術を用いたリンドウの出荷予測技術の開発

山口県農林総合技術センター2022年

 

したがって、花屋や量販にとって、お盆に必須のリンドウの安定仕入れは、つねにリスクを伴う。

市場に目利きがいなくなったので、

ふたを開けてみるまで、あるのかないのかわからない。

ではどうするか?

今年のお盆のリンドウの出荷は順調で、しかも高値基調(日本農業新聞2026年7月30日、同 8月6日)。

日農ネットアグリ市況のリンドウ入荷量(図1 赤折線)は、平年並みで、きわめて順調なことがわかります。


生産者・農協、市場担当者は安堵されたでしょう。



画像 日本農業新聞(2026年7月30日)

松山誠氏のFBより引用

 


画像 日本農業新聞(2026年8月6日)

松山誠氏のFBより引用

なにごとにも「光と影」がある。

「影」として、「仏花のリンドウは造花でもOK」がじわりと常態化しつつある。

 

欠品リスクをどうするか?

キクやカーネーションなら、半年前に輸入品を予約してリスクを回避できます。


しかし、幸か不幸か、リンドウには輸入がない。

しかも、現在の栽培品種はすべて、岩手県やスカイブルーセト育生などのオリジナル品種ばかり。
したがって、国産の入荷不安定を輸入で補うことができない。

それならばどうするのか?

小売サイドは、「輸入」がないなら「造花」でもOK。

生産サイドは、需給ミスマッチも「造花」を後押ししていることを忘れてはならない。

いつもいうように、生産者のDNAは、「高品質高単価」。
ボリュームがある秀2Lを生産し、高単価で販売し、経営を成り立たせる一択のみ。

しかし、花屋・量販がお盆につくる仏花・墓花には、流通主流の茎が長くて太く、花が何段にもついているリンドウは不要。
画像のように、仏花にはM、Sが最適。
M、Sが生花でないなら造花で間にあわせる。

 


画像 白輪ギク、黄小ギク、赤STカーネーションと下草が生花で、青リンドウが造花の「ハイブリッド関西仏花」

生花も造花も中国産


かくして、キク、カーネーションは生花、リンドウは造花の「ハイブリッド仏花」が常態化。


消費者にも違和感はないようです。

花産業としては、生花であれ、ハイブリッドであれ、お供えの花をもって、お墓参りをしていただくことが第一歩。


とにかく、花産業にはお盆にお墓参りをするという伝統文化を次世代に引き継ぐ役割があります。

 

今回の長文駄文は、お盆バージョンで、寅さんが付け加わりました。

 

宇田明の『もう少しだけ言います』(No.544. 2026.8.9)

2015年以前のブログはhttp://ameblo.jp/udaakiraでご覧頂けでます。

農業協同組合新聞のweb版(JAcom)に、

コラム「花づくりの現場から」を連載しています。
https://www.jacom.or.jp/column/