大阪花博のレガシー「松下幸之助花の万博記念賞」をツバキの田中孝幸さんと鉢土の長村智司さんが受賞 | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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今回のお題は、

東海大学農学部名誉教授 田中孝幸さんと、

(一社)フラワーソサイエティ会長 長村智司さんが、

「松下幸之助花の万博記念賞」を受賞されためでたい話題。



 

2025年大阪万博とちがい、
1990年大阪花博が幸いだったことがあります。
時代がバブルの絶頂期であったこと、
松下幸之助のおひざ元で開かれたこと。

 

松下幸之助は、

1990年大阪花博開催が決まると、

1988年に「松下幸之助花の万博記念財団」を設立し、全面的にバックアップ。
財団の基本理念、
「花と緑と人間生活のかかわりを捉え、21世紀に向けて潤いのある豊かな社会を目指す」


大阪花博が終わると、この理念に基づく顕彰事業を創設。
それが「松下幸之助花の万博記念賞」。
花博の基本理念の実現に貢献したひと、その目的にかなう基礎的、応用的研究に優れた個人、グループを選び顕彰。



画像 松下幸之助が創った財団は、2019年に松下政経塾と合併し、「松下幸之助記念志財団」

 

第1回の受賞者は、植物学と園芸学の巨人、北村四郎先生と、塚本洋太郎先生。
わたしの本棚には、北村先生の「原色日本植物図鑑」(上中下3巻)と、塚本先生の「原色園芸植物図鑑」(5巻、どちらも保育社)が鎮座しています。
牧野植物図鑑は手書きの植物画ですが、両図鑑はカラー写真。

松下幸之助花の万博記念賞は、今年2024年で第32回。
わたしが長年おつき合いさせていただいている田中孝幸さんと長村智司さんが受賞。
その授賞式が2月3日、リーガロイヤルホテル大阪でありました。



画像 左:「松下正治賞」受賞 東海大学名誉教授 田中孝幸さん

    右:「松下正幸園芸賞」受賞 (一社)フラワーソサイエティ会長 長村智司さん

    関西でカトレアが使われる機会はめっきり減りました

    受賞者につけられているのを見るとうれしくなります

 

田中さんの功績は、「ツバキ属園芸品種の起源を、実験的・文献的な手法で明らかにしたこと」、
長村さんの功績は、「鉢もの用培養土の標準化とかん水方法などの自動化技術を開発・普及」



画像 田中孝幸さんの業績(第32回松下幸之助花の万博記念賞贈呈式・講演会資料)

 

画像 長村智司さんの業績( 同 )

 

お二人は、

専門の研究だけでなく、それぞれの分野で、園芸の普及に大きな貢献をされています。

田中さんは「伝統園芸研究会」会長として、

長村さんは「(一社)フラワーソサイエティ」会長として。
わたしはもちろん両組織の会員です。

 

田中さんは、

日本原産のツバキ・サザンカの品種起源を研究するとともに、その魅力を世界に発信。
ヨーロッパでツバキブームが起きたのは、日本が鎖国していた江戸時代の1830年ころ。

ジャポニズムの先駆け。


田中先生の資料によると、
当時、すでにフランスだけで700以上、

イギリス、ドイツ、イタリア、ベルギーなどでそれぞれ約100以上のツバキ品種が育成されています。
ツバキは耐寒性が強いのですが、それらの地域では温室植物。
冬に緑の葉を持ち西洋人好みの八重で豪華な花を咲かせるツバキは上流階級だけが楽しめるものでした。
その後、

温暖でツバキを屋外で育てることのできるスペイン、ポルトガル、南仏、イタリア、スイスの南部、イギリス南部、さらにアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなどでも盛んになりました。
ポルトガルでツバキは日本を意味する「ジャポネイラ」とも呼ばれています。
また、最近は中国でもツバキブームが起きており、各地に広大なツバキ園が作られています。

田中さんが理事の「国際ツバキ協会」は、会員国28か国からなるツバキを愛好する人々による国際的な非営利団体で、世界各国に2,000人の会員。

「東京国際ツバキ大会」が2025年3月に開催することが決まっています。
世界各国からツバキ愛好家、研究者、生産者などが東京に集います。

伊豆大島などのツバキ園など日本のすばらしいツバキ園を、世界の愛好家が見学。

田中さんは準備運営委員長として活動されています。

田中さんの受賞は最高のタイミング。

「東京国際ツバキ大会」成功の弾みになります。



画像 田中孝幸著「園芸と文化~江戸のガーデニングから現代まで~」

    熊本日日新聞発行 2012年

    田中先生は伝統園芸研究会会長として、

    江戸の園芸文化や肥後六花など伝統園芸の普及の中心的存在

 

長村さんが会長のフラワーソサイエティ(https://www.gia-flower-s.com/)、

 

戦後間もない焼け跡が広がる大阪で、1947年に設立、

塚本洋太郎先生も会長をされた老舗園芸愛好家組織。
長村さんが会長になり、

趣味園芸家だけの組織だったのを社団法人化、

数々の事業を展開、

財政基盤を安定させるとともに、

花と緑を愛する多くの人々が集まる組織に拡大しました。

事業には、

3年制の園芸大学・花と緑の学び舎(定員1学年25名、第2、4土曜日開講)、

園芸相談員・緑化相談員を植物園や公園などに派遣や、

花壇などの緑化を請け負う指定管理者、

て毎月発行する国内外の花・緑・造園系雑誌の要約集「花アブストラクト」があります。



画像 毎月発行する「花アブストラクト」見本

    花・緑・造園関係の一般市販雑誌、一般会員雑誌、栽培・流通関係雑誌、国内外学術誌合計40誌の要約集

    毎月発行

    研究者、技術者、学生には世界の園芸の成果がわかり、役立ちます

 

地道に活動している園芸の研究者や実践家を顕彰する「公益財団法人松下幸之助記念志財団」に感謝。
私財を提供して、大阪花博の理念を実現するための「松下幸之助花の万博記念賞」を創設した故松下幸之助さんに感謝。


「松下幸之助花の万博記念賞」のありがたいところ、

受賞者にはトロフィーだけでなく、高額の賞金がでること。
もともと研究費や活動費には恵まれない園芸の研究者や実践家、
賞金によりそれぞれの研究や活動を深化し、継続することができます。

1990年の大阪花博は、「松下幸之助花の万博記念賞」というレガシーを残しました。
2027年横浜花博は、どんなレガシーが残るのでしょうか。

 

宇田明の『もう少しだけ言います』(No.415. 2024.2.11)

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