「マム」で一点突破するために、まず呼び名の整理 | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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宇田 明が『ウダウダ言います』、『まだまだ言います』に引き続き、花産業のお役に立つ情報を『もう少しだけ』発信します。

前回は、

「輪ギクはオーバープロダクションか?」について

考えました。
皮肉なことですが、

今年のお盆は開化が遅れて、品不足。
「オーバープロダクション論」は

吹き飛んだような市況です。

 

だからといって、

来年2018年の輪ギク農家数や生産量が

増えるわけではありません。
 

長期的には、オーバープロダクションがつづき、

短期・一時的には、過剰・不足、暴落・高騰がくりかえされます。

輪ギクの長期的オーバープロダクションを

どうすれば解消できるか?

前回は、3つの方法を考察しました。
①なにもせず、

市場(しじょう)の見えざる手」にまかせる
②品目転換
③輸入に奪われたシェア奪還

①は、ハードランディング、輪ギク農家死屍累々。


②は、おなじキク仲間のスプレーマム、

マムへの転換はむずかしそう。
いちばが品目転換を主導し、

ソフトランディングさせなければ、

いちばの経営が傾く。

(いちばには、今売れている花はわかるが、

将来売れる花の予想はむずかしそう)

③は、量販・加工、葬儀などの実需者がのぞむ

3K(規格、価格、契約)に適応させるアジャストマムで、輸入に奪われたマーケットの奪還。

今回と次回は、

輪ギクだけでなく、

切り花全体のオーバープロダクションを

解消する手段として、

「マム」による一点突破を考えます。

まずそのまえに、「マム」ってなに?

これまで何回か述べてきましたが、

整理をします。

2016.4.17「スタンダードとディスバッド-なんのこっちゃ」
http://ameblo.jp/awaji-u/archive2-201604.html
2016.11.13「濁点があるかないかのディスバッドとディスバット」
http://ameblo.jp/awaji-u/archive3-201611.html
2016.11.20「スプレーマムを1輪にしたらマム」
http://ameblo.jp/awaji-u/archive2-201611.html
2016.11.27「花屋さんの苦悩を解消するマム」
http://ameblo.jp/awaji-u/archive1-201611.html


(1)キク、バラ、カーネーションの呼び名を整理(案)
まず、呼び名を整理しましょう。

現在、農水省の統計や、花いちばの分類は、
輪ギク、小ギク、スプレーギクの3つです。
ディスバッド、ピンポン、アナスタシアなど、
新しいタイプのキクは輪ギクに含まれています。

ディスバッドやピンポンなど
新しく登場したキクの呼び名には、
花いちばも花屋さんも

理解不能状態におちいっています。

業界のプロがわからないのに、
素人のお客さまがわかるはずがありません。

 

そこで、新しい洋風のキクを「マム」として、
ひとくくりにします。
同時に、「スプレーギク」の名称を

「スプレーマム」に統一します。に

「マム」の生産を担っている日本花き生産協会スプレーマム部会の生産者のみなさまには、この案を理解していただいています。

部会名も「スプレーマム部会としました。


図1 キク、バラ、カーネーションの呼び名についての提案

 

基本的な考え方は次の通りです。
①一部の玄人だけにしかわからないムラことばは

使わない。
 

②いちばの担当者が花屋さんに、
花屋さんがお客さまに説明できる

簡単・明瞭な呼び名。
 

③キクだけでなく、

バラ、カーネーションにも共通のルール。

1茎1花(いっけいいっか)と
1茎多花(いっけいたか)に大別する。

1茎1花:1本の茎に花が1輪=スタンダード=1輪咲き=1輪仕立て
1茎多花:1本の茎に花が数輪=スプレー=多輪咲き・房咲き=スプレー仕立て

この考え方で、
まず、既存の「輪ギク」と「小ギク」にわけます。
キクだけでもよいのですが、
1980年以降、

「輪ギク」の呼び名が定着しているので、
「輪」をつけます。

つぎに、話題のディスバッドなど
新しい輪ギク以外の1茎1花のキクは、
すべて「マム」とします。


「マム」のつぼみをとらずに、

スプレー仕立てにしたのが、
「スプレーマム」です。
ディスバッドなど1輪咲きを「マム」とするので、
「スプレーギク」ではなく

「スプレーマム」に統一します(図1)。

バラ、カーネーションもおなじ考え方です。
バラ、カーネーションの1茎1花は、
欧米にならい「スタンダード」と呼んでいます。
「スタンダードバラ」、

「スタンダードカーネーション」です。
略して「STバラ」、「STカーネーション」。

キクでは「輪ギク」ですから、

「輪バラ」、「輪カーネーション」でもよさそうなものですが、欧米風にスタンダードとよんでいます。
 

スタンダード:標準=1茎1花タイプのこと
通訳さん泣かせ専門用語。
スプレー:放射状=つぼみが放射状に着くため=房咲き

スタンダードは標準の意味ですから、

標準をつける必要はありません。
「マム」にならい、
「バラ」と「スプレーバラ」、
「カーネーション」と「スプレーカーネーション」で、

すっきりします。
 

(2)なんで菊がマム?
キクは和名が菊。
世界共通の科学的な名前である学名と、

英語名(オランダ語も)が

「Chrysanthemum」=クリサンセマム。
略して、「マム」。
綴りは「mum」です。
「mam」なら、お母さんになってしまいます。  

画像 ママ(mama)にマム(mum)を贈る

 

(3)輪ギクとマムはどうちがう?
輪ギクは和風、和花で、主な用途は仏花・葬儀
マムは洋風、洋花で、主な用途はブライダル・ギフト(表1)。

表1 輪ギクは和風・和花、マムは洋風・洋花のイメージ


つまり、輪ギクの強みと弱み。
仏花・葬儀用として底堅く、根強い需要がある。
それが弱点となり、

仏花・葬儀のイメージが強すぎて、
ブライダルやギフトにつかいにくい。

 

菊=葬儀のイメージをこわすのはむつかしいので、
ブライダル、ギフト用の役割を

『菊であって菊でない「マム」』に担わせる。
このことは次回説明します。

(4)ディスバッドってなに?
ディスバッド=disbud=dis:取り去る+bud:つぼみ=つぼみをとる=摘蕾(てきらい)
「つぼみをとる」という意味の英語。

なんのつぼみをとったのか?
スプレーマム。
つまり、

スプレーマムのつぼみをとって

1輪仕立て=ディスバッド仕立てにしたキク。

ディスバッドは「つぼみをとる」という

一般的なことばですが、

登録商標されています。
すでに撤退したキリンアグリバイオ社が登録し、

事業を継承したジャパンアグリバイオ社が

権利を保有しています。
(ジャパンアグリバイオ社は親会社の経営統合により

現在はデュメンオレンジ)
ですから、

ほかの種苗会社は、

ディスバッドの名称はつかえません。

花業界としても、

こんなややこしい呼び名をつかうのはやめましょう。

さらに、ややこしくなっています。
いつのまにか

「ディスバッ」が「ディスバッ」になっています。
濁点がなくなりました。
「dis+bud」がわかっていれば、「ド」
いちばのキク担当者が「ディスバッ」と、

よんでいるようです。

この原因は、

花産業特有の「いいかげんさ」、「横着さ」と考えていましたが、ちがうようです。
 

朝日新聞の土曜版(2017.7.29)

国語辞典編纂者が毎週執筆する「辞書にはのっていないが、街で見られる新しい日本語
「街のB級言葉図鑑」飯間浩明


『バック 促音の後は濁りにくい』
『かばん店の看板に<ファッションバック>と書いてありました。
bagのカタカナ表記は「バッグ」だが、

濁らずに「ク」になっていた。

もともと「ッ」(促音)の後の音は濁りにくいのです。
「キューピッド」が「キューピット」
「ドッジボール」が「ドッチボール」

「バッグ」が「バック」、

毎日扱う商品なので、

言いやすいようにしたのだと推測します』

そういえば、「花キューピッド」ではなく

「花キューピット」でした。
「ディスバッド」が「ディスバット」になるのも

あたりまえ?

画像 「キューピッド」は発音しにくい

 

どちらにしても、お客さま本位を唱えるなら、
ディスバッドなど玄人でもわからない呼び名はやめ、
かんたんな「マム」にしましょう。

(5)ピンポンとポンポンはどうちがうの?
「ピンポンマム」もジャパンアグリバイオ社の

登録商標。
まん丸な花の咲き方は

「ポンポン」または「ポンポン咲き」といいます。


画像 「ピンポンマム」はジャパンアグリ社の品種で、

登録商標

花型は「ポンポン」

 

ジャパンアグリバイオ社のカタログでも、
品種名は「ピンポン ゴールデン」や「ピンポン スーパー」ですが、

花型は「ポンポン」と記載されています。
 

つまり、

「ピンポン」はジャパンアグリ社の品種名で、

ピンポンを含めたまん丸な花型を「ポンポン」とよびます。
花型には、ポンポンのほか、デコラ、アネモネ、スパイダーなどがあり、キク・マムだけでなく、ダリアなどほかの花も共通です。

画像 キクの花型


今回も長文・駄文でした。

「宇田明の『まだまだ言います』」(No.83 2017.8.13)

2015年以前のブログは
なにわ花いちばHP(http://ameblo.jp/udaakira)でご覧頂けます