オーバープロダクションの解消は「マム」で一点突破 | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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宇田 明が『ウダウダ言います』、『まだまだ言います』に引き続き、花産業のお役に立つ情報を『もう少しだけ』発信します。

前回は、

ディスバッドなど業界のプロが理解できず、

間違うような呼び名はやめ、

「マム」に統一しましょうと提案しました。

 

輪ギクと小ギクのように、

マムとスプレーマムにわけます。
 

基本は、

1茎1花(1輪咲き)と

1茎多花(多輪咲き、スプレー)にわける、

です。

これまでに、

切り花は長期的にはオーバープロダクションで、

わが国のマーケット(需要)より、

供給量が多いことを説明しました。

特に、

輪ギクは、マーケットの変化、縮小により、

オーバープロダクションが著しく、

花産業全体に影響を及ぼしています。
 

花産業の巨人だけに、

輪ギクがくしゃみをすれば、

花産業は肺炎になります。
今年のお盆は開花が遅れて、

供給不足という逆のくしゃみで、

花産業は肺炎になってしまいました。
 

このくしゃみの影響で、

いっそう輪ギクのマーケットは縮小するでしょう。
 

輪ギクのオーバープロダクションをどう解消するか?

前回は、3つの方法を考えました。

 

王道は、ほかの品目への転換、つまり転作。
転作の可能性がある品目を考えます

 

それは、同じ1輪咲きのマムです。
生産者、マーケット、花屋さん、

それぞれにむずかしい問題が多くあります。
 

しかし、

マムは、輪ギク転作としてだけでなく、

縮小する花のマーケットにとっても、

救世主です。


花産業を覆う暗雲をふきとばすためには、

全方位的に挑むより、

「マムで一点突破」をすべきです。

マムで一点突破するためには?

1.マムの現状
切り花の流通量(消費量)順位を見てみましょう。
いちばに入荷している品目は、

切り花だけで1,100品目もあります。
 

そのうち、年間流通量(国産+輸入、市場外を含む)1億本以上は9品目です(図1)。

図1 切り花流通量(消費量)年間1億本以上の品目

   (国産は農林水産統計、輸入は植物防疫統計)


輪ギクの8.2億本から、

トルコギキョウの1.0億本までの大スター。


このトップナインは大相撲なら横綱・大関、

中国共産党なら政治局常務委員。


図2 切り花流通量(消費量)1億本未満の上位品目

    *の品目は農水省の統計データがないため、

      花き卸売市場協会卸売価格等調査、

      大阪鶴見花き地方卸売市場年報からの推定値

 

トップナインに次ぐのが図2の8品目。
大関をねらう三役。

 

 

マムは推定4,300万本。
チューリップを追いこし、

カスミソウ、アルストロメリア、

ヒマワリに迫っています。

マムが輪ギク転作の受け皿になり、

花産業の救世主になるためには、

まず1億本を突破しなければなりません。


横綱・大関予備軍で、

1億本突破の可能性があるのは、

アルストロメリアとマムです。


ヒマワリは勢いがありますが、

冬の需要が少なく、周年品目でないため、

1億本には届かないでしょう。

2.1億本を突破するためには?

 

(1)呼び名の統一
前回説明しました。
洋風の1輪ギクは、「マム」と総称。
基本は、お客さまにわかりやすいこと。

(2)マムの統計データ
統計なくして存在なし。
農林水産統計にマムを追加するのには、

時間がかかる。
なにせお役所ですから。
まず、花いちばの市況、データ、

輪ギクに含まれるマムを独立させる。
データがあってカイゼンがある。

(3)慶事にはマム、弔事には菊
全国の花屋さんは悩んでいる。
ある花屋さんのつぶやきを紹介します(図3)。

図3 花屋さんの悩み

 

花屋さんの悩み。
菊=仏花・葬式のイメージが強すぎて、
喜び事などに菊をすすめられない。

しかし、菊=仏花・葬儀が定着したのは、ごく最近。


画像 1972年(昭和47年)レコード大賞受賞

    ちあきなおみ「喝采」

    花束は黄菊に鉄砲百合

画像 同、最優秀歌唱賞 和田アキ子

    花束は白菊

 

画像は、1972年(昭和47年)のレコード大賞。
大賞のちあきなおみ、

 

最優秀歌唱賞の和田アキコがもつ花束は、

白菊、黄菊に鉄砲ユリ。
いまなら、まさに仏花・墓花。

 

1970年代までは、プレゼント・ギフト花束の主役は、

「菊」。

その後、「菊=仏花・葬儀」が定着。

 

花業界がつくってきた慣習。
打ち破る必要はない。
「菊=仏花・葬儀」でよい。

祝いには、新しい花「マム」がある。
ギフト、ブライダルには「マム」。
水あげ、日持ち抜群。
お客さまに喜んでいただける花。
花産業の救世主。

「マムは菊の仲間ですが、菊ではない」

花屋さんが「腹をくくる」
自信をもって販売。

画像 マムで高砂

画像 ブライダルブーケにはマム

    (渡会芳彦氏のFBより)

 

(4)マムとダリア
花だけ見ると、

バラとトルコギキョウは、

プロでも区別がつかない。

 

マムとダリアも同じ。

画像 ダリア? いいえ、マムです

 

すでに、マムの消費量は、ダリアの2倍(図2)。
(推定マム4,300万本、ダリア2,100万本)
ダリアにはマムというライバルが出現。

 

マムの強み。
抜群の水あげ、日持ち。

(5)つくる問題点
①多種目少量生産
輪ギクに慣れた生産者にはマムは難敵。
1年を「神馬」と「精の一世」で回すなんて芸当は、

マムにはできない。
品種数が多く、1品種の生産量が少ない。
いわゆる多種目少量生産。
むしろ洋花農家には単価がとれて、

量がこなせるので、魅力的な品目。

②夏秋タイプを品種改良

専門的なお話し。
1億本超の大スター、

横綱・大関になるためには、

周年出荷が不可欠。
 

周年出荷の課題は酷暑の夏。

輪ギクは、夏秋(かしゅう)ギクという、

夏用のキクを品種改良して、夏を克服。
「秋ギク」と「夏秋ギク」を組みあわせで、

周年出荷を達成した。
これで輪ギクは切り花の横綱になることができた。

マムの弱点は、

夏が涼しい(8月の平均気温18℃!)オランダで

品種改良されたため、

秋ギクしかないこと。
日本の猛暑に耐えられない。


1億本超の大スター、横綱になるためには、

同じ産地での周年生産。
そのためには、

輪ギク、スプレーマムのような夏秋ギクの育種。
 

さらには、農家以外には関心がないことだが、

わき芽がつかない「芽なしギク」を育種。

③生産コスト削減
マムは輪ギクより生産コストがかかる。

コストを削減しなければ、

「水あげがよいダリアのような花」で終わる。

画像 異様な風景かもしれませんが、満開に咲かせるマムは

    花びらが傷つかないようにネットをかぶせる

    (香川県 ほわいとマムさん)

 

生産コストを下げるためには、
・オランダ生まれのマムだから、

オランダの合理的な栽培システムをまねる。
・輪ギクのようにムダな切り花長にならないよう、

実需にあった規格。
・1億本プレイヤーになるためには、

乾式横箱が必須。輸送技術のカイゼン。

これまで4回にわたり、

オーバープロダクションとその解消方法について考えてきました。
オーバープロダクションは、需要が減る一方では、

いつまでたっても解消できません。
ゴールは国産切り花生産の崩壊しかありません。
「オーバープロダクションとアンダーマーケット」は、

対立理論ではなく、車の両輪。
アンダーマーケットなくして需給調整はありません。

 

次回は、アンダーマーケットを考えます。
 

「宇田明の『まだまだ言います』」(No.84 2017.8.20)

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