輪ギクのオーバープロダクションを考える | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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前回はオーバープロダクションの中身を考えました。

まず、バブル期以降、
市場価格の低迷の原因が、
オーバープロダクション(生産過剰)だとすると、
①わが国のマーケットを超えた長期的な
オーバープロダクションか?
②物日など短期的・一時的な
オーバープロダクションか?


2017.7.30「見ないふりをしてきたオーバープロダクションの実態を考える」
http://ameblo.jp/awaji-u/entry-12297080681.html


今回のお題は、
③お盆の主役、輪ギクはオーバープロダクションか?

オーバープロダクションだとすると、
だれが、なにをすればよいのか?

今回も長文、駄文。
お盆明けの手が空いたときにでも、
目を通していただければ幸いです。


輪ギクの生産量(国産+輸入)ピークは1996年、
12.8億本(国産12.7億本+輸入0.1億本)(図1)。

そのときの平均単価62円(大阪鶴見地方卸売市場:なにわ花いちば+鶴見花き)

2015年は9.2億本(国産8.6億本+輸入0.6億本)。
平均単価53円。


図1 輪ギク生産量の推移
   単価は大阪鶴見花き地方卸売市場年報
   (なにわ花いちば+鶴見花き)


20年で生産量が3.6億本、
率にして30%も減ったのに、
単価も15%下がった。
3.6億本は今のバラの生産量よりも多い。
それだけ生産量を減らして、
50円台前半の単価をなんとか維持。

つまり、
輪ギクは長期的にはオーバープロダクションがつづいている。

短期的、一時的には前回、説明したように、
他の品目と同じように、お天気任せ・・
生産過剰、生産不足のくりかえし、
その結果として、市況の暴落、高騰。
お盆の花が遅れた、早く咲いた・・は日常茶飯事。
対策は、
お客さまがほしいときに欲しい量。
いらないときにはいらない。
つまり、「物日ぴったり開化」。
開花調節技術の精度向上。

問題は長期的なオーバープロダクション。

輪ギクはその巨大さゆえ、
「キクがくしゃみをすると、花産業は肺炎になる」。

国産切り花39億本のうち、輪ギクは8.6億本(2015年)。
枝もの、葉ものを含む国内生産量の23%を占める(図2)。
スプレーマム(2.5億本)、
小ギク(4.7億本)をあわせると、
キク類は15.8億本で国産切り花の40%。


図2 国産主要切り花の生産量(2015年)

輪ギクといえば、仏花・葬儀の白ギク。
輪ギクの70%が白ギク、5.7億本(国産)(図3)。
これは、国産切り花ではカーネーション(2.7億本)と
バラ(2.7億本)をあわせた数量より多い。


図3 輪ギクの色別生産量(2015年)
   日本花き普及センター品種別動向分析調査をもとに推定

仏花・葬儀、
輪ギクはなくてはならないが、ありすぎても困る。
マーケットの変化で、
白輪ギクがオーバープロダクションになり、
それが全体の相場を狂わしているとすれば、
どうすればよいのか?

三つの方法を考えてみます。

①なにもしない
②白輪ギクの転作
③国産シェア奪還

具体的には、
①なにもしない
つまり、「市場(しじょう)の見えざる手」にゆだねる。

画像 「市場(しじょう)の見えざる手」

輪ギクは20年間で3.6億本を減らした。
それで、オーバープロダクションの解消、
市場価格のアップをめざした。
(輪ギク農家が意識的に生産調整をしたのではなく、
結果としてそうなった。)

しかし、農家が納得できる再生産価格は得られず、
農家数、生産量が減るのをくいとめられていない。
2016年だけでも前年より0.5億本も減らした。

いつまでたっても
オーバープロダクションを解消できない。
どこまで生産を減らせば、需給が調整できるのか?

いつまでたってもできない。
国産が減れば輸入が増える。


「市場(しじょう)の見えざる手」に委ねるだけなら、
このまま規則通りに減りつづけ、
2047年には国産輪ギクは0になる(図4)。
つまり、30年後に消滅。
推測統計学では、そう推測します。


図4 国産輪ギクの生産量予測
   年ごとの生産量から予測
   このまま減りつづけると2047年には0になる

②転作
輪ギクがソフトランディングをしないと、
花産業は大打撃。

輪ギクは巨大さ、
経営効率の抜群の良さがかえって足かせとなり、
転作は簡単でない。

いちばん近いスプレーマム?
スプレーマムの生産量はこの20年間、
2億本台で増減がない(図5)。
つまり、
輪ギクが20年間で減らした3.6億本を吸収した形跡もない。
今後も、輪ギク転作農家が入りこめるすきまがない。


図5 スプレーマムの生産量の推移
   国産は20年間2億本台で変化なし


現在は統計的には輪ギクにカウントされている
マムは?
マムの生産量は推定0.5億本にすぎない。
これに輪ギクの1割の0.8億本が転作で加われば、
オーバープロダクションで破綻する。

しかもマム農家がのぞむ洋花になりきれていないので、
輪ギクのように年4回の物日中心の安定した需要もない。
12月の最終週が突出する特異的な需要しかない(図6)。


図6 マムの日量入荷量
   日量平均を1としたときの指数
   大きな需要は12月の後半しかない。
   (大阪鶴見花き卸売市場:なにわ花いちば+鶴見花き 2015年)


また、精の一世と神馬の2品種で、
1年間をまわすことに慣れてしまった輪ギク農家は、
1畝ごとに品種がちがい、
格段に手間のかかるマムには対応できない。

結論として、
輪ギク農家にマム・スプレーマムへの転作の可能性は小さい。

そのために、
キク以外の品目に転作しなければならない。

これは、
「なに作ったら儲かる?」の、
農村での日常会話の世界。
それがわかれば、みんなつくっている。

ここは、市場の出番でしょう。
花市場はキクで経営ができているのだから、
オーバープロダクションと考えるなら、
転作品目をアドバイスするのがお仕事。

輪ギクが暴落して困るのは、
転作やリタイアなど選択肢がある輪ギク農家よりも、
大勢の社員をかかえる花市場。
市場の経営がわるくなった原因のひとつは、
経営効率がよい(市場が儲かる)輪ギクの生産量(入荷量)が減ったこと。

とはいえ、いまはネット社会、情報は世界共通。
ふたを開けてみたら、
どこもかしこも同じ転作品目、
作ったときからオーバープロダクション、
にならないためには、花市場の総合力が問われる。

農家も
「市場がすすめたから、つくったのに・・」、
責任を転嫁してはならない。
あくまで自己責任。

③シェア奪還
輪ギクの輸入は0.6億本にすぎないが、
輸入品を見つめることで、国産の弱点が見えてくる。
量販・加工、葬儀業者が求めるのは、
「規格(品質)」、「価格」、「契約」の3K。

農家と実需者の想いがすれちがい。

農家の想いは、
高規格(高品質:あくまで外的品質)、
高単価、
咲いたときに咲いただけ出荷。

3Kを目的とするのがアジャストマム(画像)。

アジャスト=adjust=適応させる
=実需者の「こんなキクがあったらなぁ」に応える。
農家に必要な能力は、マーケットの変化に、
柔軟にアジャストすること。

輸入からのシェア奪還はアジャストマム。
アジャストマムは栽培技術よりも経営技術。


画像 「こんなキクがあったらなぁ」
   という花屋さんの要望に応えるのがアジャストマム
   「利用実態にあわせた規格」、「お手頃価格」、「年間契約」


まとめ
・輪ギクは長期的にはオーバープロダクション。
・といっても、「市場(しじょう)の見えざる手」に委ねるだけなら、
いつまでたってもオーバープロダクションは解消しない。
・いちばが転作を誘導する。
・量販、加工、葬儀の実需者の要望に応えるアジャストマムで、
まず輸入からシェアを奪還。

次回は、オーバープロダクションと対極の
「アンダーマーケット」を考えます。


服部千春著「花あかりともして」出版ワークス2017年7月20日発行
人気児童文学作家が、はじめて描く「花禁止令」の時代の物語


「宇田明の『まだまだ言います』」(No.82 2017.8.6)

2015年以前のブログは
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