花のトレンドで期待の「ディスバッドマム」を検証 | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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前回は、日本農業新聞恒例の花のトレンドを紹介しました。
2024年1月21日「日本農業新聞2024年花の販売キーワード 昨年とおなじ「物流」と「価格転嫁」」

https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12837291802.html


今回のお題は、日本農業新聞トレンド調査で、枝もの、草花類に次いで2024年販売が期待されている「ディスバッドマム」を検証します。

農業新聞が調査した2023年比で販売が伸びそうな品目が図1。

 


図1 日本農業新聞花のトレンド調査(2024年1月13日)

   2023年比で販売が伸びそうな品目(最大3つ選択)

 

回答は、卸売業者、小売、輸入業者など59人のプロ。
現実的で堅実な品目です。
4位以下、トルコギキョウ、スプレーマム、カーネーション、鉢物類、ガーベラ、葉物類、生花加工品(染め加工)、小ギクと続きます。
小ギクが?と思いますが、理由が「短茎脱葉が進む」。
古臭く、時代遅れの品目と誰もが思いますが、ある面改革・改善の先頭を進んでいます。
スターチスのコメントは、「農家の残業がない持続可能な品目」。

こういう働き方改革や持続性が判断材料になる時代になりました。

さて、3位のディスバッドマムの理由は?
「品種豊富」
「日持ち良く、ダリアの代わりでギフト需要も」
「若者は菊に固定観念なく用途拡大」



画像 ディスバッドマムの高砂

   渡会芳彦氏のFBより引用

 

日本農業新聞ネットアグリ市況からディスバッドマムを検証します。
なお、以下のデータは国産で、輸入は含まれていません。
日本農業新聞の読者は国内の農家と、農業関連業者やそれらの関係者。
国産の市況を示すのは当然。
ただ、切り花は輸入の動向により市況が動きます。
国産の入荷量だけで市況を解析することは困難。
日本農業新聞には輸入品を加えた切り花市況の掲載をも要望します。

図2は、国産ディスバッドマムとピンポンマムの入荷量と単価の推移。
農業新聞が調査した全国主要7都市の7卸売業者のデータ。
ディスバッドマムとピンポンマムは、市場では輪ギクに含まれていましたが、入荷量が増えてきたので2018年から独立。



図2 国産ディスバッドマムとピンポンマムの入荷量と単価の推移

    全国主要7社 日本農業新聞ネットアグリ市況

 

ディスバッドマム(緑)はコロナ禍でも入荷量が増え、単価もアップ。
切り花全体では、2022年、23年は品薄で単価高でした。
ディスバッドマムは入荷が増えても単価高、まさにトレンドの花。
市場が、葬儀需要の減少から過剰気味の白輪ギクからの転作を積極的にすすめてきた成果もあるようです。
2024年、ディスバッドマムが期待される理由のひとつは、「ダリアに代わり、ギフト需要」ですが、調査7市場ではダリアの入荷量は332万本(2023年)。
ディスバッドマムは796万本ですから、すでにダリアの2倍以上が流通しています。
流通量はこれから、さらに両者の差は広がるでしょう。

 

「若者は菊に固定観念なく用途拡大」はどうでしょうか。

次回検証します。


一方、ディスバッドマムより先に普及したピンポンマム(オレンジ)。
単価はディスバッドマムとおなじようにアップしていますが、入荷量がかなり減っています。
ディスバッドマムとおなじで期待されてよいのになぜ減少?

いまのところ理由はよくわかりません。
入荷量の推移は、都市、市場でちがいが大きいようです(図3)。

 


図3 2023年ピンポンマムの都市別入荷量の18年対比

   日農ネットアグリ市況

 

2023年の入荷量の2018年対比は、ディスバッドマムでは名古屋以外はプラス。
ピンポンマムは、東京と福岡はプラスですが、仙台、名古屋、大阪、広島はマイナス。
とくに大阪の92%減が全体入荷量のマイナスに大きく影響を与えています。
なぜ大阪のピンポンマム入荷が激減したのでしょうか。

それにしても東京はどんな品目でもきっちり集荷ができ、18年対比が大きくプラス。

東京一極集中が進んでいます。

ディスバッドマムが伸びているといっても、主要7都市主要市場7社合わせて800万本、ピンポンマム300万本(2023年、国産以下同じ)。
輪ギクの1億900万本、小ギクの8,300万本、スプレーマムの5,600万本に比べると、1ケタ少ない(図4)。

 


図4 国産キク類の入荷量と単価(2023年)

   全国主要7社 日農ネットアグリ市況

 

輪ギクは2010年には7社で1億5,600万本の入荷がありました。
13年間で約5,000万本、年に約400万本減ったことになります。
減った5,000万本のうち、ディスバッドマムとピンポンマムに転作したのは1,000万本強。
のこりの4,000万本の多くは、花づくりから撤退、あるいは農業をリタイアしたと考えられます。
マーケットが小さくなるということは、いす取りゲーム。
残念ですが、いすに座れない生産者は退場することになります。

単価はディスバッドマム90円、ピンポンマム86円で、輪ギク68円、スプレーマム60円より高い。
しかし、生産コストは輪ギク、スプレーマムよりずっと多くかかる。
〇つぼみで出荷する輪ギクに対してディスバッドマム、ピンポンマムは満開まで咲かせるので、生育期間が10日~2週間長くかかる。
〇花びらが傷みやすいので、ネットなどで保護しなければならず、手間がかかる。

 


画像 香川県ほわいとマムさんのハウス

 

〇輪ギクなら1ケースに100本~200本を詰めることができるが、ディスバッドマムはバラ、ダリアのように10本~50本で、出荷コストが大きい。
〇輪ギクのように機械選別ができないので、選花に手間がかかる。
2021年11月21日「輪ギクの転作を難しくする重量選花機と固定観念」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12711383298.html


輪ギクより手間がかかるので、平均単価は3ケタないと経営がしんどいでしょう。
供給(生産)が増えると市況が下がるのが市場経済。
このまま順調に生産が増えると輪ギク、スプレーマムの単価に近づくことが予想されます。

では、ディスバッドマムが高単価を維持するにはどうすればよいのか?
どんな品目でも高単価を保つには需要を拡大することが必須。
加えて、ディスバッドマム特有の問題。
それは、ディスバッドマムとは何者かを花業界で共有すること、
名称を統一すること、
そして消費者に向きあう花屋さんが腹をくくることです。
そうでないと、特殊菊のままで終わってしまいます。

このことを次回深掘りします。

 

宇田明の『もう少しだけ言います』(No.413. 2024.1.28)

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