人生をアートで埋める -7ページ目

佐野元春「ザ・ソングライターズ」を見る

今年の7月から毎週土曜日の夜にNHKで放送されていた佐野元春の「ザ・ソングライターズ」というテレビ番組が終わった。立教大学内の講堂を使って、観客の学生達を前にゲストのソングライター1人と佐野元春が、主に歌詞について語りあうという対談形式の番組で、時に観客である学生達からの質問にゲストが答えたり、学生達が投げかけた言葉を元に、曲作りを試してみたりするという内容だった。

1人につき2週に渡って放送され、全12回の放送でゲストは計6人であった。小田和正、さだまさし、松本隆、スガシカオ、矢野顕子、kj(ドラゴンアッシュの降谷健志)という豪華な面々だ。その全ての回をぼくは見た。率直に言って、大変面白い番組だったと思う。

音楽や言葉というものについて、極めて真面目に語り合う番組内容はとてもよかったし、学生達が書いた詩について批評しあったり(スガシカオの回)、そこにメロディーをつけて「歌」にしていくという課程を実際にパフォーマンスするという企画(さだまさし、矢野顕子の回)はとてもスリリングだった。
ただし、ゲストによっては少し難のある場合もあった。小田和正については、言葉を主要なテーマとするこの番組において、何故ゲストとして選ばれたのか不可解だった。彼自身も番組中で歌詞を書くのが好きじゃない旨の発言しているが、ぼくが彼の音楽を聴く限り、言葉にこだわっているとはとても思えない。陳腐な歌詞という印象しかないし、彼自身の番組中の発言も概ね凡庸なものでしかなかった。松本隆についても不満が残った。「作詞には技術もある程度必要なのでは?」といった質問に対し、「技術はまったく必要ではない。大事なのは感性だ」と回答していたが、少しがっかりした。言葉というものを精選し、魅力ある歌詞として組みたてていくためのプロセスについてもっと具体的に解説してほしかった。
とはいえ、どれもこの番組でしか引き出せない内容だったことは否めない。全体としてとてもいい番組だったし、意義もあった。

佐野元春ファンとしてのぼくとしては、最後にこの番組における佐野元春の役割についても大きく評価したいと思う。自身もソングライターとして実績を作ってきたベテランであるが、そういった自己主張を極力抑えて、司会者として聞き手に徹し、真摯にゲストや学生の発言に聞き入る姿はとても好感が持てたし、これ以上紳士的な司会者もいないな、と思った。また、対談中メモを見る時などに眼鏡(恐らく老眼鏡)をかけるのだが、それをすぐはずしたり、またかけたりする仕草がとてもかっこよかった。新たな佐野元春の魅力に気づいた番組でもあったわけだ。

韓国へ行く

9月の中旬、珍しく長い休暇をとって、妻と韓国に行ってきた。丁度一週間の滞在だ。

今回は初めて妻の実家に宿泊した。ホテル代の節約という意味もあったが、家族には大いに歓迎され、毎朝豪勢な食事をごちそうになった。
妻の家族と一緒に出かける機会も多かったので、これまでに比べて関係は親密になったような気がする。特にエバーランドという大型の遊園地に行ったのは楽しかった。みんなでジェットコースターに乗ったり、サファリパークで動物を眺めたりした。まるで幼い日に戻ったような気がした。
妻の母からは、「私には娘しかいなかったから、新しい息子ができてとてもうれしい」といったようなことを言われた。義母は50歳ぐらいなので、ぼくの年齢からすると母というより姉に近い気もして恐縮してしまった。
結婚して一年半以上の時間が流れた。新婚という言葉がそろそろ縁遠くなってきたが、まだなんとなく初々しさは残っているような気がしている。結婚というものに相変わらずとまどう瞬間がある。新しい家族ができたという事実もそうだ。
義母は最近日本語を習っている。勉強の成果を披露したくてぼくに積極的に日本語で話しかけてくれた。「孫ができた時のために日本語を習っているの。孫と話がしたいから」と彼女は語った。なるほど、と思った。なんだか感動した。家族、絆、血のつながりというものに。

丁度韓国で開催されていた二つのアートフェアにも行ってみた。考えてみると仕事以外で海外のアートフェアを見るのは初めてだ。版画や写真に特化したSIPAというアートフェアでは、去年東京のアートフェアでぼくが作品を購入した韓国人のアーティストの特別展示が行われており、作家本人ともお会いして少し話をすることができた。とても気さくな女性だった。また作品を買いたくなったが我慢する。
もう一つのアートフェア、KIAFにも行った。こちらは例年通り国際色豊かである。韓国やその他のヨーロッパのギャラリーなどよりも、日本のギャラリーの方が面白いという印象。何人か知人と顔を合わせ雑談などしながらまわってきた。

有意義な旅行だった。日本に帰りたくない、と思った。韓国という国を舞台に何か自分にもできることがあるのではないか、ということを考え始めている。

BOXのライブを見て、人生を振り返る

1990年4月、ぼくは高校一年生だった。テレビのコマーシャルで流れるある曲が気になっていた。コンタクトレンズのコマーシャル、画面の右下に「Song by 杉真理」とあった。それが「杉真理」という名前との出会いだった。同じ時期に、杉真理が松尾清憲と組んだバンド、BOXの曲「Journey To Your Heart」をラジオ番組で偶然耳にした。とてもいい曲だと思い、きちんと聴いてみたいと思った。近所のレンタルCDショップに行き、そこで見つけた杉真理のソロアルバム『Ladies&Gentlemen』とBOXの『BOX POPS』をとりあえず借りてきて、ぼくは家で聴いた。『Ladies&Gentlemen』からは「歴史はいつ作られる」という曲、『BOX POPS』では一曲目の「Temptation Girl」という曲に衝撃を受ける。なんてかっこいい曲なんだろう、という感動だった。それはぼくにとって、本当の意味でのポップスとの出会いだったと今のぼくは振り返る。メロディーと歌詞が胸に沁みこんで、気持ちよく、この曲が永遠に続いてほしい、というような至福の時間を味わった。以来、杉真理と松尾清憲という二人のシンガーソングライターとの付き合いが始まる。

2009年8月14日、東京は表参道のライブハウスでBOXのライブがあった。ぼくは仕事で東京に来ており、そのライブを見ることができた。
実は今年の1月も渋谷で彼らのライブを見た。その時も仕事で東京にいた。名古屋ではなかなか見れない彼らのライブを1年に2回も見れるというのはとてもラッキーだった。
もともとビートルズを代表とするブリティッシュポップを自身の音楽に昇華させていた杉真理と松尾清憲という二人のソングライターが出会い、意気投合し、思いっきりビートルズっぽい音楽をやってみようというコンセプトで結成されたのが、BOXというバンドだ。1988年に『BOX POPS』を、1990年には『Journey To Your Heart』という2枚の傑作アルバムを発表した。以後、企画もののオムニバスアルバムなどへの参加はあったものの、アルバムはこの2枚しか出していない。このアルバムをぼくは何度聴いたことだろう。今でも聴いている。そして、すべての楽曲の歌詞はもちろん、すべての音を正確に頭の中で再現する自信すらある。特に『BOX POPS』は、杉真理、松尾清憲二人の数多くのソロアルバムよりも、そして彼らが影響を受けたビートルズのどのアルバムよりも、ぼくにとっては最高のアルバムなのだ。

今回のライブもとてもよかった。会場は満員。若い人も多い。1曲目から新曲を初披露するあたり、本当にたまらない。彼らは決してビートルズのパロディバンドではない。彼らのすごいところはビートルズを下敷きにし、新たにまったくのオリジナリティをもって日本語のロックとして成立させている点だ。英語と日本語が入り混じった歌詞というのは、日本のポップスの中では当たり前だが、ぼくは彼らの歌詞こそがその最高峰だと思っている。
「Temptation Girl」も当然披露された。もてないダメな男がある魅惑的な女性に恋をする。決してその恋はうまくいかない。でも最後に「だけどいつか ものにしてみせる」と歌われる。この曲はぼくにとって、あらゆる思想の基盤となっている。大袈裟に言ってるのではない。この曲はぼくが世界で一番愛している歌だ。
ライブは楽しいMCとともに進む。杉真理も松尾清憲も本当に仲がいい。このコンビは最強だ。過去の曲をやっていても未来を感じさせるライブだった。どうにか3枚目のアルバムを作ってほしいものだ。

ぼくが杉真理を知るきっかけになったコンタクトレンズのコマーシャルに使われた曲は「Rainbow in your Eyes」という曲で、これはBOXのアルバムにも入っている。ライブでもこの曲が演奏され、ぼくはいろんなことを考えた。高校一年生の頃から随分と遠くに歩いてきた。でも何も変わっていないような気もする。

まだぼくは何もやっていないじゃないか、と思った。ぼくは何も始めていない、と。ぼくはこれからも「Tenptation Girl」を聴くだろう。この素敵な3分間のポップス。このマジックにぼくはこれからも癒され、鼓舞され、支えられるだろう。何かに向けて、だけどいつかものにしてみせる、といつまでも呟くだろう。

このブログを見ている人がいたら、ぜひ、この曲を聴いてみてください。

http://www.youtube.com/watch?v=VYP0jxKWyIQ




伊藤銀次のライブを、また見る

7月17日、名古屋の今池にあるライブハウス「TOKUZO」で、伊藤銀次のライブを見た。
「I STAND ALONE」と題されたツアーで、タイトル通り、伊藤銀次一人による弾き語りツアーの名古屋公演だ。
アルバムの発表は長年滞っているが、近年では精力的にライブを行っている伊藤銀次。2年前にバンド編成によるライブを見て以来だ。
伊藤銀次に関してはそれほど熱心なファンというわけではない。だが、大瀧詠一や杉真理、あるいは佐野元春といったぼくの大好きなソングライターと密接なつながりがあるだけに、ぼくにとっても重要な存在である。アルバムも全部持っているし、大好きな曲もたくさんある。
今年になって、忌野清志郎やマイケル・ジャクソンが亡くなった。吉田拓郎も体調を崩しているという。不謹慎な言い方だが、いつまでも好きなミュージシャンが生きてパフォーマンスしてくれる、というわけではない。せっかく近くに来ているのだから、見れるうちに見ておこう、という気持ちがぼくの中に芽生えている。
ライブ会場には前回もそうだったが、意外なほどに客がいない。伊藤銀次といえば、日本のポップス史において山下達郎や佐野元春といったビッグネームと肩を並べるほどの存在のはずなのに。90年代中盤以降、プロデュース業に専念し、表舞台から遠ざかっていたことが原因だろうか。いや、それにしてもその注目度の低さに唖然としてしまった。これは名古屋だけのことなのだろうか。
ライブは淡々と始まった。アコースティックギター1本による弾き語り。80年代の楽曲を立て続けに演奏する。サウンドプロダクションに特にこだわってきた楽曲ばかりだから、ギター1本でそれを表現するにはそれ相応の技術が必要だろう。ギター演奏に少々難はあるものの、まずまずのライブだったと思う。歌自体はとてもよく、歌唱力は衰えていないばかりか、以前よりもずっと表現力を増していると思う。
途中、ゲストに、佐野元春の以前のバックバンド、ザ・ハートランドのキーボーディストだった阿部吉剛が参加。初期のハートランドのギタリストでもあった伊藤銀次との久々の共演となり、「ぼく、この曲大好きなんです」というMCとともに佐野元春の「マンハッタンブリッジにたたずんで」をカバーしていた。
ぼくの大好きなアルバム『LOVE PARADE』から3曲演奏され、とてもうれしかった。うれしかったが、しかし、大きな違和感も感じるライブだった。まず、期待していた新曲などの発表はまったくなく、既発曲だけの懐古的な内容に終始していたこと。そして、一部の曲で会場のオーディエンスに一緒に歌わせるようなパフォーマンスがあったことだ。伊藤銀次のファンは、恐らくマニアックな音楽ファンが多いであろう。そういう人たちにとってライブはそこで奏でられる音楽を聴きに行くものだ。会場でみんなと盛り上がりたいという意識は希薄ではないか。少なくともぼくはそうで、無理やりに一体感を煽ろうとするような姿勢にかなり居心地の悪さを感じた。彼の代表曲「Baby Blue」はいい曲だ。ぼくは今の伊藤銀次がその曲をプレイするのを聴きたいのであって、決してみんなで合唱したいわけではない。
ライブ終演後、サイン会があった。ライブ会場だけで限定発売されている、今回の弾き語りツアーをそのままパッケージしたようなセルフカバーによるミニアルバム『I STAND ALONE VOL.1』を購入したぼくはそのブックレットにサインをしてもらい、握手をしてもらった。わずかたが言葉も交わすことができた。伊藤銀次は、誤解を恐れずにいえば、普通のいいおじさん、という感じだった。
帰宅後、そのCDを聴いた。ギターと歌を同時に録ったという話をライブでもしていたが、さすがにそれはまずかったのではないか。プレイとしての出来はあまりよくない。デモテープというか、リハーサルテープのようなものだ。正直言って、プロのミュージシャンとしてお金をとれるような作品であるとは言い難い。
長年彼の音楽に親しんできたものとしては、彼の最近の意欲的な活動はうれしい。しかし、ぼくとしては過去を安易に振り返るのではなく、新しい、今の伊藤銀次の音楽を早く聴かせてほしいと願わずにはいられない。

新生活が始まる

7月4日(土)
引っ越し当日。当然仕事は休む。午前中、会社から借りたクルマに取り急ぎ必要な荷物を積んで、妻と新居に向かう。新居の掃除をするという妻を残し、ぼくだけクルマで元の家に戻り、荷物の整理などを続ける。予定よりも早めに引っ越し業者が来るが、来たのがたった二人だったため(しかも一人は女性)、予想以上に荷物の搬出に時間がかかる。60箱以上ある本やCDをひたすら運び続ける。夕方終了。空っぽになった部屋に「お世話になりました」と一人で一礼し、クルマで新居へ。さすがに引っ越し業者から追加で応援部隊が来ていて搬入は割と早く終わった。部屋を埋め尽くすダンボール箱に呆然とする。とりあえず晩ご飯を食べようと、近くのスーパー「ヤマナカ」に行き、寿司やビールなどを買って家で食べた。夜、佐野元春がホストを務めるNHKのTV番組「ザ・ソングライターズ」の初回を観る。ゲストは小田和正。小田和正自体にはほとんど何の興味も持てないが、番組としては面白かった。

7月5日(日)
新居で初めて迎える朝。いつもより早めに起きてしまった。妻はものすごい勢いで台所やリビングを整理している。ぼくもとりあえずCDを棚に並べたりする。昼食は近所でケンタッキーフライドチキン。妻と出かけ、会社にクルマを返す。妻のアルバイト先に行くためのバス亭の位置などを確認しながら、バスで戻る。近所の「アピタ」に寄り、いろいろと物色。夕食はアピタ内のレストランでパスタなど。夜、洗濯機の調子が悪いので新しく買うことにする。

7月6日(月)
今日も仕事を休む。妻と前の家に行き、不動産会社の人と部屋の傷などをチェックし、カギを返す。空っぽの部屋はもう他人のような顔をしている。ここに今まで住んでいたという記憶が稀薄になっていく。その後地下鉄で区役所に行き住所変更の手続き。ついでに警察署で免許証の住所変更も。更に地下鉄で「エイデン」に行き、洗濯機とパソコン用のLANケーブルを購入。またアピタに行き、ラーメンを食べたあと、コンポやプリンターを置くための棚を購入。夕方家にもどり、ケーブルテレビの担当者が来訪、予定通り契約をする。NTTに電話しインターネットを接続。慌ただしい1日だった。

7月7日(火)
新居からの初出勤。近くのバス亭でバスに乗り、2つめの停留所で降り、そこから地下鉄に乗って20分ぐらい。通勤は今までより面倒だが、バスというのもなかなか新鮮で楽しい。ぼくは新幹線でも飛行機でも、移動している時間が好きだ。移動している乗り物に乗ることが好きだ。そういうことに改めて気づいた。

7月10日(金)
仕事。某デパートの外商と持ち回り。東海市で待ち合わせることになったのでクルマで向かうが、予定より早く着きそうだったので、途中で見つけた「BOOK OFF」に寄る。ずっと探していたEPOの『DANCE』というアルバムを発見し狂喜する。昔レンタルで借りてMDにダビングしたものしか音源がなくて、CDを探していたのだった。片岡義男の文庫本3冊とともに購入。早速『DANCE』を聴きながら運転。このアルバムの「いとしなみだ」という曲を聴くといつも涙ぐんでしまう。名曲だ。このアルバム全体もとてもいい。午後の仕事は無事に終わる。安い版画だが数点売ることができた。帰りは遅くなったが。