人生をアートで埋める -2ページ目

松尾清憲『One More Smile』

松尾清憲のニューアルバム『One More Smile』を聴いた。
予想通り、大傑作だった。そうなのだ。彼のファンになって20年以上経つが、ぼくは松尾清憲に裏切られたことがない。
アルバムのどこを切っても美しいメロディーが贅沢に詰め込まれている。
聴いた印象として、いつも以上に明るい。得意のマイナー調のしっとりとした曲が少なく、全編が明るい幸福感に満ちている。ビーチ・ボーイズ及びブライアン・ウィルソンを彷彿させる曲にストレートに挑戦したような曲もあり、思わずうれしくなった。相変わらず、自分の信じる音楽に誠実な人だな、と思う。
年齢について言うのもつまらないが、恐らく松尾清憲はもう60歳ぐらいではないだろうか。ルックスも含めて、この若々しさというの一体何なんだろう。どこまでもロマンティックで優しい歌詞世界にも驚く。
ポップスが好きで好きで、ただひたすらそれを楽しんで、ワクワクドキドキといった純粋な気持ちを永遠にキープし続けて、カラフルで夢のある音楽を創り続ける天才、松尾清憲。憧れても憧れきれない。
そして、ぼくはもう一人のポップスの天才を知っている。それが杉真理。BOXやピカデリーサーカスなどで松尾清憲と活動を共にする杉真理だが、今回の『One More Smile』でもコーラスと作詞でいい仕事をしている。松尾清憲と杉真理の二人はぼくにとって永遠の指針だ。
それにしても『One More Smile』、これで少なくとも一ヶ月は幸せな気分で過ごせる気がする。何があっても。

photo:01


渋谷で伊藤銀次

1泊2日で東京に出張した。22日は渋谷で仕事をしたのだが、丁度その日、渋谷のタワーレコードで伊藤銀次のインストアライブがある、という情報を知り、なんとかその時間に合わせて仕事を調節した。
80年代に伊藤銀次が東芝EMIに所属していた頃に発表された5枚のアルバムが紙ジャケ、リマスターで先日リイシューされたのだが、それに合わせてのライブイベントだった。
少しのトークのあと、弾き語りで7曲披露された。どれも今回の5枚のアルバムからの曲だった。少しギター演奏に難が合ったものの、とてもいいライブだった。個人的には大好きな「Monday Monday」という曲が聴けたのはうれしかった。終演後サイン会などもあったのだが、さすがに仕事の時間が気になり足早に出てしまった。

その5枚のアルバムをぼくも買った。5枚のうち、『GET HAPPY』(1986)『Nature Boy』(1987)『Hyper/Hyper』(1988)という3枚は、もちろん以前出たCDを持っていたのだが、ほとんど聴き返すことのないアルバム、つまりあまり好きではないアルバムだった。何曲かはとても素晴らしい曲もあるのだがその印象は変わらない。
ぼくが初めて聴いた伊藤銀次のアルバムは『山羊座の魂』(1990)で、これはほぼリアルタイムで聴いた。とても好きなアルバムだ。その前の『ドリームアラベスク』(1989)も大好きなアルバムで、何度聴いたかわからない。アルバム『Hyper/Hyper』あたりまでは、どうしても当時の音楽シーンの流行が取り入れられ、今聴くと古く感じてしまう。また歌詞はほとんど外部の作詞家が提供しているのだが、これがつまらない。佐野元春の歌詞世界からの強い影響も感じるが、とにかく何も心に残らない。『ドリームアラベスク』になって大半の曲を伊藤銀次が歌詞も書くようになって、すごくよくなったと思う。伊藤銀次の歌詞世界は本当に素晴らしい。楽曲はどれもポップで粒ぞろいだし、この『ドリームアラベスク』『山羊座の魂』でようやく伊藤銀次のオリジナリティというものが確立したのだと思う。この後1993年に『LOVE PARADE』という傑作アルバムが出るのだが、それが未だに伊藤銀次のソロアルバムとしては最新作となっているのが残念過ぎる。

photo:01


37歳

37歳になった。
10年前の27歳になった時、ぼくはそれまで続けていたアルバイトを辞め、完全に無職の状態だった。これからの人生、どうなっていくんだろう、と思いながら、毎晩ひたすらウイスキーを飲んだものだ。金もなく、将来の展望もなく、周りには誰もいなかった。
あれから10年か、と思うと感慨深い。
37歳。がんばって仕事しよう。

ここ最近で、一番聴いていたアルバム。ライ・クーダーの新作『プル・アップ・サム・ダスト・アンド・シット・ダウン』、これは本当に名盤。素晴らしいアルバムだった。
photo:01


ブリジット・バルドー

東京の日々が続いている。
今夜は仕事帰りに大きな書店に行った。いくつかの本を物色していたら、ブリジット・バルドーの本を見つけたので思わず買ってしまった。
ブリジット・バルドーは、昔から大好きな女優で、その出演作も何本か観ている。欧米の女優で好きなのは、彼女だけだ。近年の女優にはほとんど興味がなく、もはや伝説となった彼女だけが、ぼくにとっては特別な存在だ。
その悪魔的な魅力がたまらない。歌手としての彼女、もちろん、セルジュ・ゲンズブールとの仕事も大好きなのだ。彼女の表情は、アートだと思う。ぼくの好きな画家、金子國義も確かブリジット・バルドーを称讃していたような気がする。
一人ホテルで静かにこの本を見ている。彼女の写真が満載だ。彼女の内面になんて何の興味もない。現在の彼女がどうなっているのかも、どうでもいい。妖艶で我儘そうな彼女の存在は、創造力を掻き立てる、非常に文学的なものだ。

ちなみに日本人でぼくが好きな女優は、鈴木砂羽や川原亜矢子なのだが、どことなくブリジット・バルドーを感じさせる雰囲気があるような気がする。もう少し若い世代だと深田恭子もいい。
若くして華々しい世界から身を引いたブリジット・バルドーだが、彼女の存在は、例えばこの本の中で永遠に魅力を放っている。
photo:01


photo:02

忘れられない夜


今夜は、忘れられない夜になりそうだ。
仕事を終えて、ぼくの働いているギャラリーの社長から誘われて、東京駅地下の居酒屋へ。仕事でお付き合いさせていただいている、某有名ギャグ漫画家の方とそのスタッフの方々と食事をした。
某有名ギャグ漫画家の方は、長いキャリアを持ち、作品も多数あって漫画界に独自の地位を獲得している。いや、ぼくはそれほど熱心な読者でもなかったのだが、とにかくすごい漫画家であるという認識は揺るぎない。
そんなお方と食事を同席し、お酒を飲みながらお話させていただけたことに、年甲斐もなく胸がときめいてしまった。夢のような時間だった。
彼は漫画の枠を飛び越えて、アートの世界でも様々な活動を展開している。そのユニークなアイディアと膨大な作品量に圧倒される。が、大物的な素振りは一切なく、気さくでとてつもなく優しい方だった。
「村上隆や奈良美智はすごいな、と思う」と彼は語った。ものすごい仕事量ですよね?と問うと、「頼まれた仕事は断らないんだ」と答えた。「アートって、よくわからないんだよね」と彼は笑った。何か面白いことをずっとひたすら追及して、ここまで来た人なんだ、とぼくは思った。震災後、一ヶ月後に被災地に差し入れのケーキやシュークリームを沢山持っていったらしい。その行動力にも驚いた。「現場を見とかないと何も描けないでしょ?」と言っていた。ぼくはバカみたいに、ただただ関心していた。
ぼくも昔、漫画を描いていた。そんなどうでもいい話もさせていただいたのだが、「また描いてみたら?」という言葉をもらい、泣きそうになった。
彼にとって、ぼくは付き合いのあるギャラリーのスタッフであり、それ以上でもそれ以下でもなかった。それは当たり前のことだ。いわばどうでもいい存在だった。彼の記憶にぼくは残らないだろう。その現実を思った。卑下するわけでもない。これは単なる現実だった。
解散し、一人でホテルに向かう途中、何か胸の中に熱いものが込み上げてくるのを感じた。この現実から始めるしかないじゃないか、と思った。何をすればいいのかわからない。明日もまた仕事だ。くだらないことも多い。でも、何かしたい、と強烈に思った。何かしたい、と。
それにしてもぼくという人間は、今まで適当に、流されるままに生きてきたのだが、こんな夜もあるのだな、と思う。この仕事をしていなければ絶対に会えない人だった。この仕事をしていてよかった。

iPhoneからの投稿