忘れられない夜 | 人生をアートで埋める

忘れられない夜


今夜は、忘れられない夜になりそうだ。
仕事を終えて、ぼくの働いているギャラリーの社長から誘われて、東京駅地下の居酒屋へ。仕事でお付き合いさせていただいている、某有名ギャグ漫画家の方とそのスタッフの方々と食事をした。
某有名ギャグ漫画家の方は、長いキャリアを持ち、作品も多数あって漫画界に独自の地位を獲得している。いや、ぼくはそれほど熱心な読者でもなかったのだが、とにかくすごい漫画家であるという認識は揺るぎない。
そんなお方と食事を同席し、お酒を飲みながらお話させていただけたことに、年甲斐もなく胸がときめいてしまった。夢のような時間だった。
彼は漫画の枠を飛び越えて、アートの世界でも様々な活動を展開している。そのユニークなアイディアと膨大な作品量に圧倒される。が、大物的な素振りは一切なく、気さくでとてつもなく優しい方だった。
「村上隆や奈良美智はすごいな、と思う」と彼は語った。ものすごい仕事量ですよね?と問うと、「頼まれた仕事は断らないんだ」と答えた。「アートって、よくわからないんだよね」と彼は笑った。何か面白いことをずっとひたすら追及して、ここまで来た人なんだ、とぼくは思った。震災後、一ヶ月後に被災地に差し入れのケーキやシュークリームを沢山持っていったらしい。その行動力にも驚いた。「現場を見とかないと何も描けないでしょ?」と言っていた。ぼくはバカみたいに、ただただ関心していた。
ぼくも昔、漫画を描いていた。そんなどうでもいい話もさせていただいたのだが、「また描いてみたら?」という言葉をもらい、泣きそうになった。
彼にとって、ぼくは付き合いのあるギャラリーのスタッフであり、それ以上でもそれ以下でもなかった。それは当たり前のことだ。いわばどうでもいい存在だった。彼の記憶にぼくは残らないだろう。その現実を思った。卑下するわけでもない。これは単なる現実だった。
解散し、一人でホテルに向かう途中、何か胸の中に熱いものが込み上げてくるのを感じた。この現実から始めるしかないじゃないか、と思った。何をすればいいのかわからない。明日もまた仕事だ。くだらないことも多い。でも、何かしたい、と強烈に思った。何かしたい、と。
それにしてもぼくという人間は、今まで適当に、流されるままに生きてきたのだが、こんな夜もあるのだな、と思う。この仕事をしていなければ絶対に会えない人だった。この仕事をしていてよかった。

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