システマティックレビューとは?…エビデンス(科学的根拠)の頂点である理由
こんにちは。橋本です。
「この手術は、あの手術方法よりいいのか?」
「この治療法は、本当に効果があるのか?」
「この薬を飲むことに意味があるのか?」
そんな具体的な疑問に対して、世界中の研究データ(論文)をくまなく探して、内容をまとめ、大きな結論を出したもの。
それをシステマティックレビュー(Systematic Review)、または日本語をあてて、系統的レビュー(けいとうてきレビュー)とよんでいます。
システマティックレビューは、「この治療法は本当に効果があるのか?」を証明するエビデンス(科学的根拠)としては、もっとも信頼できるものだといわれています。
ランダム化比較試験でさえも、得られる結論はさまざま
「でも、治療法に本当に効果があるのかを調べるには、ランダム化比較試験の結果をみればわかるんじゃないの?」
たしかに、そうなんですが、通常、1つのランダム化比較試験の結果だけでは、「この治療法は本当に効果があるのか?」について、決定的な答えがでるわけではありません。
なぜなら、同じテーマでも、それぞれのランダム化比較試験によって、結果に違いが出るのはごく当たり前。
時には、正反対の結論になることがあります。
たとえば、浅い切り傷は、縫ったほうが治りがいいのか?接着したほうが治りがいいのか?といったテーマの場合。
「縫ったほうが、はるかに治りがいい」という結論が出る場合もあるし、「縫ったほうがわずかにきれいに治る」といった結論が出る場合も考えられます。
「どちらでも、そんなに変わらないよ」という場合もあるだろうし、「縫合したほうが治りが早かったが、接着したほうがきれいに治った」と真逆の結果になるかもしれません。
科学には、ただ1つの正解がある。
そう習ってきた学校の勉強、テストからすると、ちょっと意外かもしれませんが。
これが、現実の世界。
真実をゆがめてしまうようなバイアスをなくすよう、よりシビアに設計された試験、ランダム化比較試験であっても、結論にバラつきがおこってしまうのです。
なぜ、同じテーマにもかかわらず、バラバラな結論が出てしまうのかというと。
それは、体質、患者の選び方、測定方法など、偶然によっても、データにバラつきが出てしまうからなんですね。
そこでその異なった結論をうまくまとめていってくれるのが、システマティックレビューです。
では、どうやって、バラバラな結論をまとめていくのか?
システマティックレビューはどやって作られていくのか?
カンタンに流れをみていきましょう。
システマティックレビューができる手順
システマティックレビューを作るには、専門的な知識と、用意周到な計画が必要です。
ここでは、そこまでテクニカルな話には触れずに、システマティックレビューを作る手順を全体的にみてみますね。
1) テーマを絞る
システマティックレビューの作成は、具体的なテーマを決めるところから始まります。
たとえば、
打撲(だぼく)はすぐに冷したほうがいいのか?
とか、より具体的なテーマを絞り込みます。
「打撲の治療は、何がいちばん有効か?」というような、あいまいなテーマではダメなんですね。
「打撲に対して冷却が有効であってほしい」という決めつけからスタートするのもダメ。
「打撲を冷却しても本当にいいのか?」という、より具体的で、答えをあらかじめ決めつけることのないような疑問からスタートするのが大切です。
2) 研究結果をもれなく集める
はじめに立てた具体的な疑問。
それに答えるような、論文をできる限り収集します。
これもただの収集ではなく、全世界からテーマに該当する論文は、くまなく収集します。
ネットだけでなく、時には手作業で出版物を取り寄せるなどして、その時点で手に入れられる論文を、可能な限り集めるのが大事。
この時の勝負は、集める論文の数です。
3) それぞれの研究の質をチェックする
集めたすべての論文を細かく読んでいくことで、それぞれの研究の質を細かくチェックしていきます。
ここがシステマティックレビューの最大の特徴です。
たとえば、ある薬の効果をみたランダム化比較試験の論文なら、
などなど、嫌味なぐらい細かいところまでチェックします。
ときには、研究の資金がどこから出ているか?とか、著者の経歴を調べたり。
またときには、著者と連絡を取って、研究の内容について確認することもあるようです。
4) 質の悪い研究は除外する
それぞれの論文を細部までチェックして、試験のやり方がずさんなものなど、質の悪い研究は、すべてレビューから、振り落としていきます。
ふるいにかける感じですね。
ほんとうに、ここは疑り(うたぐり)の目を強くして、徹底的に批判的に、ひとつひとつの論文を深く吟味(ぎんみ)していく。
そうしてやっと残った、良質な、バイアスの少ない論文だけを、まとめていきます。
やり方にミスがある、やり方がずさんである研究まで、結果に含めてしまうと最終的な結論まで狂ってしまう恐れがあります。
質の悪い研究は、大きくバイアスがかかっている危険性があるのです。
バイアスが入り込む余地が大きいような質の悪い研究は、ここの時点ですべてふるい落とし、最終的にレビューが出す結論に影響を与えないようにしておくわけですね。
5) データをまとめて分析する(メタアナリシス)
論文のデータがひとまとめにできる内容なら、できる限りまとめていきます。
そのとき使う手法が、メタアナリシスという手法。
メタアナリシスを使って、選別で残った研究結果、研究データを計算して、ひとまとめにしていきます。
内容的にひとまとめにできないようなデータなら、メタアナリシスを使わない場合もあります。
6) 得られた結果から結論を出す
批判的に吟味して残った良質な研究。
その結果をひとまとめにして出たデータ。
それを常識や思い込み、立場などを考えず、中立な視点で、注意深く結論を出します。
以上が、システマティックレビューがどうやって作られるか?のカンタンな流れです。
システマティックレビューがあると、なんで助かるのか?
これだけをみると、
なあんだ、システマティックレビューって、いっぱい論文を集めて、その中からいい論文のデータをまとめただけじゃん?
という見られ方をしたりします。
システマティックレビューは、研究としてはオリジナリティーがなく、人が作ったものを単にまとめただけ。
そう思う人もいるかもしれません。
しかし、誰かがシステマティックレビューをきちんとやってくれることで、実際にはとても助かっています。
何が助かっているか?
世界中で行われている臨床研究のデータを集積しているため、システマティックレビューさえ読めば、多くの文献を読む労力がはぶけるからなんですね。
時には、何千件という文献を集めたシステマティックレビューさえあります。
さらに集めた文献のひとつひとつを、批判的に選別して、良質なデータだけをまとめて結論を出しています。
だからこそ、事実をゆがめるようなバイアスが徹底的に少なくなっているため、信頼性が高いわけです。
世の中には、日々新たな臨床試験の結果が、論文として報告されてきます。
それにもかかわらず、お医者さんは、毎日の治療や診察で忙しく、新たな論文にすべて目を通す時間は、とてもじゃないけどありませんよね。
そこで、「この治療法は、本当に効果があるのか?」という疑問に答えてくれるシステマティックレビューがあれば、現場のお医者さんは助かる。
より少ない手間で疑問が解消され、より適切な治療がおこなえるわけです。
たとえば、一例として、サプリメントの抗酸化ビタミンには死亡率を低下させる効果はなくむしろ有害ですらあるかもしれない、というシステマティックレビューが2008年に出ています 1) 。
これはあくまでもサプリメントへの過剰な期待に警鐘を鳴らす内容ですが、つまり、システマティックレビューをおこなうことで新たに知る、研究が次のステップに進むことにもつながります。
そのほかにも、アトピーの治療ガイドライン、いわゆる標準治療といわれるものも、日本独自でおこなったシステマティックレビューをもとに作られました。
数多くの文献に目を通すことなく、科学的根拠にもとづいた意思決定をすることができる。
それが、システマティックレビューのメリットです。
参考文献:
1) Bjelakovic G, Nikolova D, Gluud LL, Simonetti RG, Gluud C. for The Cochrane Hepato-Biliary Group: Mortality in randomized trials of antioxidant supplements for primary and secondary prevention: systematic review and meta-analysis. JAMA 297(8): 842-857, 2007.