消化性潰瘍(しょうかせい・かいよう)……ステロイド薬の全身的な副作用(5) | 子肌育Blog アトピーに負けない生活。

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消化性潰瘍(しょうかせい・かいよう)


こんにちは。橋本です。


ステロイド薬を多量に長期投与すると、消化性潰瘍をおこすことがあるといわれています。


ただし、この意見には賛否両論がある状態です。


胃潰瘍:十二指腸潰瘍


 


消化性潰瘍とは?


消化性潰瘍とは、十二指腸(じゅうにしちょう)の粘膜、さらに深いところまでが傷いた状態になる症状です。


粘膜だけが傷つくのを、びらん(ただれた状態)といいますが、潰瘍(かいよう)は、さらに深くダメージを受けた状態です。


潰瘍になると出血することもあり、ときには胃に穴が開くこともあります。


長く潰瘍が続くと、胃がんになることもあるので、消化性潰瘍には大きな注意が必要です。


 


消化性潰瘍がおこる原因


消化性潰瘍がおこる原因は、バランス説が一般的です。


胃酸の分泌をうながす機能。


それと、胃や十二指腸の粘膜を保護する機能。


この2つの機能がバランスが崩れ、胃酸の分泌のほうが、まさってしまうと、消化性潰瘍がおこってしまうのではないかという説です。


胃酸がないことには、食べたものをうまく消化できないのですが、それ以上に胃酸が多く出過ぎてしまうと、今度は粘膜を攻撃してしまいかねません。


現在では、そのバランスを崩す最大の原因は、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の感染といわれています。


とはいうものの、日本人の約4割、50歳以上の8割近くは、ピロリ菌に感染しているという報告もあります。


そのため、潰瘍になるかどうかは、喫煙、飲酒、食事内容やストレスなど、ほかの原因も関係すると考えられます。


 


ステロイド薬が、どんな作用をおこすのか?


ステロイド薬を投与していると、胃酸の分泌がされやすくなる反面、胃粘膜の防御能力が低下し、粘膜が傷ついた場合でも再生能力が低下する。


そのため、潰瘍のリスクが高まるとされています。


ステロイド薬による潰瘍は、ステロイドの服用をはじめると、比較的早くあらわれます。


ステロイド薬使用中におこった潰瘍患者の約3割が、ステロイド薬の投与開始から1か月以内に発症したという報告もあります 1)


消化管障害は、胃と十二指腸が大半ですが、小腸や大腸にみられるケースもあります。


 


どんな症状が出るの?


胃潰瘍や十二指腸になると、みぞおちなどの腹部に、チクチクとした痛み、吐き気、嘔吐などの症状が出ることがあります。


消化性潰瘍:症状


胃潰瘍では食事後に痛みがおこります。


その一方、十二指腸潰瘍では空腹時に痛くなるが多く、食事を摂った後によくなる傾向があります。


夜間寝ている時に痛みがおこることもあります。


これは空腹時、夜間にも強い胃酸分泌がおこるためです。


しかし、自覚症状を感じる例は半数以下と意外に少なく、ステロイド薬開始後、1~3か月で突然、吐血、下血をすることで、初めて診断されるケースもあります。


 


NSAIDs(非ステロイド薬)が潰瘍のリスクを高める


ステロイド薬単独では、消化性潰瘍のリスクは低く、実際には、NSAIDs(非ステロイド薬)の併用が消化性潰瘍のリスクを上昇させるとみられています 2)


NSAIDs というのは、「エヌセイド」とよばれる、非ステロイド薬


Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs の頭文字をとった略称で、ステロイド薬以外の抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用をもった医薬品全般をひっくるめて指す言葉です。


NSAIDs(非ステロイド薬)には、消化性潰瘍の副作用があるため、この副作用が出にくいタイプのNSAIDs(COX-2選択的阻害薬)も使われています。


ステロイド薬を使用すると、消化性潰瘍のリスクを2倍程度高める 1) という報告がある一方。


6,602名の患者を含むメタアナリシスの結果では、ステロイド薬の投与のためにおこる消化性潰瘍はまれであると報告されています 3)


そのため、消化性潰瘍があるからといって、必ずしも、病気の治療に「ステロイド薬を使えない」とするべきでないというわけです。


 


消化性潰瘍を予防するには?


消化性潰瘍を予防するのに、必要に応じて、胃酸の分泌をおさえる薬(製品名:タケプロンなど)を服用します。


しかし、ステロイド潰瘍の予防的治療による効果は、十分な検討までされていないのが、実際のところです。


そのため、現在の健康保険では、ステロイド潰瘍発症を予防する目的で、処方が認められている薬はありません。


過去に消化性潰瘍があった場合では、ステロイド薬による治療は慎重におこない、治療中も検査で、潰瘍がないかチェックする必要があります。


 


 


 


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参考文献:

1) 木下 芳一, 古田 賢司: ステロイド療法の実際:ステロイド潰瘍. Modern Physician 29(5): 683-686, 2009.


2) Piper JM, Ray WA, Daugherty JR, et al: Corticosteroid use and peptic ulcer disease: role of nonsteroidal anti-inflammatory drugs. Ann Intern Med 114: 735-40, 1991.


3) Conn H, Poynard T: Corticosteroids and peptic ulcer: meta-analysis of adverse events during steroid therapy. J Intern Med 236: 619-632, 1994.