■ Elmer Gantry
エルマーはセールスマンをしていたが、ある宗教団体のシスターに一目ぼれして、組織を手伝い始めた。
組織は発展し、またシスターもエルマーに好意を寄せるようになった。しかしエルマーの過去を知る女性が現れた。


製作:1960年、原作:シンクレア・ルイス、脚本、リチャード・ブルックス、監督:リチャード・ブルックス


■ はじめに

登場人物(キャスト)
 エルマー・ガントリー(バート・ランカスター)
 シャロン・ファルコナー(ジーン・シモンズ) シスター
 ウィリアム・L・モーガン(ディーン・ジャガー) 組織の管理者
 シスター・レイチェル(パティ・ペイジ)
 ジム・レファーツ(アーサー・ケネディ) ゼニス・タイムスの記者
 ルル・ベインズ(シャーリー・ジョーンズ)
 


■ あらすじ

◆ エルマーはやり手セールスマン

エルマー・ガントリーはやり手セールスマン。全米14州を旅して、いろいろなものを売っている。

エルマーは口から先に生まれたような男である。いわゆる口八丁。それから言うまでもないが酒好き&女好き。

だがなぜか金はあまり持っていないようである。

たまたまいた酒場にシスターが寄付を募りに来た。酒場に来るのが少々間違っているのだが。

みんなに邪険にされて、出て行こうとしたところ、エルマーが声をかけ、代わりに客を一人一人回った。若干強引ではあったが、結果はそれなりの寄付が集まり、シスターは喜んで出て行った。

付言しておけば、エルマーは神学校に通っていたが、途中で退学したという経歴。退学の理由は、想像通りに女性問題である。

どのような風の吹き回しなのかは不明だが、次の日には、ある教会に出かけた。そこにいるのはみんな黒人ではあったが、みんなと一緒に聖歌を斉唱した。

◆ シャロン・ファルコナーがエルマーをノックアウト

また別の日、泊ったホテルの前の広場。テントが張られてキリスト教の団体の集会が開かれていた。エルマーは見学に出かけた。

幹部と信者がイスに座っている間を一人の女性が歩いて登場した。シスター、シャロン・ファルコナー。

シスターの服装と言えば黒や紺だが、シャロンは長めのヒラヒラした明るい色のスカート、わりと可愛い大きめの帽子とシスターらしくない服装。左手をみんなに振って笑いながら歩いた。そしてなぜか右手にバケツを持っている。

信者の前まで進んで、わりと楽しそうにみんなに話しかけた。信者もリラックスして笑顔で聞いてる。説教も古臭いものではなく、親しみやすい内容である。

「神は全能だけれども、お金だけは作れないんです」と言って、持ってきたバケツで寄付を集める。

エルマーはシャロンを好きになった。いやノックアウトされた。

エルマーは信者の後ろでシャロンの話を聞いた。話が終わった後、許可を得てみんなの前で話をした。神学校中退なので、キリスト教の話はできる。そして仕事のことなどを例にして話を展開した。大きな声、大きなジェスチャー。

前に座っている幹部は、エルマーの話に顔をしかめたが、信者からは大きな拍手。肝腎のシャロンは、わりと肯定的な表情。

幹部とシャロンの評価が違ったが、シャロンがトップなので、エルマーは組織にかかわることになった。

◆ シャロンもエルマーを好きになった

シャロンの組織は、固定的な教会を持たず、いろいろなところを回って、空き地にテントを設定して、集会を開いている。シャロンたちのスタイルでもあり、まだ組織が大きくないせいでもある。

エルマーと一緒に回っているうちに、シャロンは次第にエルマーに影響されてくる。話し方も、以前のように優しそうな話し方から、力強い説得調の話し方になってきた。服装も軽い感じのものから、落ち着いた服装になってきた。

そしてここが重要なところだが、シャロンはエルマーが好きになってきた。しかしみんなの手前があるので、大っぴらにはできない。

そしてシャロンと幹部の間には若干の隙間風が吹き始めた。

◆ ゼニスの町に進出した

いままでは大きな町ではなく、わりと小さな町を回っていた。

大きな町の住民は、小さな町の住民とは気質が違っており、シャロンたちのスタイルに合わないからである。またこれは彼らの自信のなさの表れでもあった。

シャロンは「本当は都会の人が怖いの」と白状する。幹部は「(大きな町は)まだ早い」。

しかしエルマーは独断でゼニス市の商工会に連絡を取って、集会の場所を確保してきた。

幹部たちは反対するが、シャロンは乗り気になり実現する。

ゼニスでシャロンはオープンカーに乗ってパレードする。車の上からみんなに手を振る。聴衆は大歓迎。今までにはまったく考えられなかったことである。

一方で「信仰復興反対」のデモも起きる。

ゼニスでの集会、さすがのシャロンも不安そう。しかしシャロンは立派にやり遂げる。

シャロンはみんなの前に歩いて行って立った。そして今までとは違って、顔を少し右上に向けてじっと空を見る。みんなは何事かとシーンとする。そして左上に顔を向けて、また間合いを取っている。

そして顔を正面に向けた。ここでレイチェルの指揮でみんなが歌いだす。するとシャロンは大きな声で「歌うのは止めなさい、祈りなさい」と指示する。歌は止められる。

さらにみんなに「イスから下りてひざまづきなさい」と指示する。信者は指示に従うが、幹部連中はそのまま。シャロンは後ろを向いて幹部にも同じことを言う。今までにはなかったことだが、幹部も指示に従う。

それからシャロンは、自分もひざまづいて、今までとは違った仕方で祈った。結果は大成功。

◆ 教会の建設を進める

このあたりでメディアが教会を攻撃し始める。それはメディアの常である。

シャロンとエルマーは新聞社に抗議に出向く。エルマーは若干屁理屈ぎみに新聞社を論破する。

そしてラジオ放送をすることになった。費用は新聞社がだす。ラッキー。

シャロンは大喜び、帰りの車の中でシャロンはエルマーに抱き着いてキスをした。

シャロンはエルマーを車に乗せてある場所に案内した。実は以前より教会を建設しているとのこと。「これこそ私が望んでいたもの」と言う。

すでに教会の十字架が建っている。

ここでシャロンは自分の身の上話をする。スラムに生まれて貧乏をしたことなど。

◆ ルルに嵌められた

さて、ルルと言う女性。かってカンザス市でエルマーと付き合い、今はで娼婦になっている。ルルがエルマーの神学校の退学の原因である。

ルルはエルマーがキリスト教関係者として、聖人ぶった顔をしてメディアにでていることに怒った。

ルルはエルマーと連絡を取って自分のアパートに誘った。そして下着姿の自分とエルマーが一緒にいるところを秘密裏に写真に取らせた。

その写真でエルマーを脅した25000ドル。

シャロンが出向いて、その写真とネガを買い取ることになった。シャロンは要求された金を持っていったが、ルルはその金を受け取らなかった。

そして新聞に漏らした。新聞に大きく写真が掲載された。注、ルルは新聞社からも金を貰わない。

集会を開いたが、ごくわずかの人しか集まらず、しかも敵意を持った目つき。

シャロンが話し始めたが、たちまちモノが投げつけられた。シャロンや幹部たちは避難した。

シャロンがいなくなった後にエルマーが前に立った。エルマーにモノが投げつけられた。エルマーは直立して、じっとそれに耐えた。

◆ ルルが真実を告白した

さてルルは写真を新聞社にタダで渡してしまった。ルルを取り仕切っている娼婦の元締めは、それを知ってルルを殴った。

そこにエルマーが来てルルを助けた。傷の手当てをした。

ルルは新聞社に対して「エルマーとは何もなかった」と話した。

◆ 奇跡が起こった

再び集会が開かれた。建設が進んでいた教会が完成して、そこで開かれた。

以前と同じように、いや以前よりも多数の人が集まった。しかしエルマーはどこかに姿を消している。

シャロンは前回のことがあるので緊張している。ここでエルマーが戻ってきた。そしてシャロンは流星が空を横切るのを見た。

シャロンは覚悟を決めて舞台に進み出た。堂々と説教をした。以前のような大拍手。

聴衆の中に耳が聞こえない男性がいた。「嵐の夜の雷で聞こえなくなった」とその男性の妻が説明した。

男性は前に進み出てシャロンも近寄った。シャロンは男性の耳に手を当てて「神を信じなさい」と言った。そのままじっとして、また言葉を繰り返した。

みんなは黙って注目している。シャロンと男性もじっとそのまま。

突然男性が、涙を流しながら「耳が聞こえるようになった」と叫んだ。周囲は感動の叫び声と拍手が巻き起こった。

◆ 火事も起こった

その間に、みんなは気がつかないが、我々には、誰かのタバコの火が他に燃え移って、燃え始める様子が示される。

それは徐々に燃え広がった。その炎は引火物質に接触して巨大な炎になった。

人々は叫び声をあげて逃げ出した。柱が燃えて、屋根が落ちる。人々は逃げ惑う。完成したばかりの教会が燃えて行く。

しかしシャロンは、その混乱で倒されるものの、すっくと立ちあがって、元の場所に立っている。そして熱心に祈っている。他の人が避難するように言っても、そのまま祈っている。

人々はすべて外に避難した。教会は完全に焼け落ちた。シャロンは亡くなった。

焼け跡の前で、エルマーは幹部から「シャロンの後を引き継いでくれ」と言われる。

しかしエルマーはその場から立ち去った。シャロンのいない教会は意味がないからである。
 


■ 補足

シャロンの組織の名称は示されない。

シャロンは本名は「ケイティ・ジョーンズ」。ケイティも愛称なので、本当の本名は「キャサリン」あたりか?シャロンは「本名は嫌い」と言う。

シャロンは服装や説教の仕方が次第に変化してくる。これはかなり明確に示されるので、脚本/監督は意図して行っているものと思われる。

ジム・レファーツはゼニス・タイムスの記者だが、いつも教団にくっついていて記事を書いている。

エルマーとレファーツは「キリスト教や聖書を信じているか?」という話をする。二人とも直接には回答しないが、お互いに、それらを信じていないことが分かりニヤニヤ笑いを交換する。

ついでにシャロンはどうか?これも明示はされないが、シャロンも信じてはいない。しかし最後の目が見えない男性の奇跡で回心する。

本作は「信仰復興運動/リヴァイヴァル」を描いたものである。キリスト教の変質を批判し、「本来の信仰」あるいは「昔の信仰」を蘇らせようとする、自然発生的あるいは組織的な運動である。この運動は熱狂を伴って展開された。シャロンの組織は、この一派である。当然既存の宗派からはリヴァイヴァルに対して批判が行われるが、リヴァイヴァルの流れに乗ろうとする宗派も存在する。

本作はバート・ランカスターが設立した会社が製作しており二時間半の長さでちょいと長い。気合いが入っていたのだろう。アカデミー賞主演男優賞。

レイチェル役は歌手のパティ・ペイジ。映画出演は少ないようである。

本作冒頭のナレーションを紹介。以下に見るように本作は既存の宗派に対して挑発するものである。

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信仰復興は皮肉にも伝統的キリスト教観と慣習化された宗教儀礼の滑稽さを露呈した。
誰しも良心に従い信仰を貫くのは自由だが、信教の自由とは他人の信仰を操ることではない。
信仰復興のもう一つの側面を描いた本作は、子供たちに見せるのがはばかられる問題作である。
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■ 出演作

バート・ランカスター
(1947)真昼の暴動/Brute Force
(1947)暗黒街の復讐/I Walk Alone
(1948)私は殺される/SORRY, WRONG NUMBER
(1949)裏切りの街角/Criss Cross
(1952)真紅の盗賊/The Crimson Pirate
(1953)白人酋長/His Majesty O'Keefe
(1954)アパッチ/Apache
(1957)OK牧場の決斗/Gunfight at the O.K.Corral
(1960)許されざる者/The Unforgiven
(1960)エルマー・ガントリー/魅せられた男/Elmer Gantry
(1951)復讐の谷/Vengeance Valley

◆ ディーン・ジャガー
「頭上の敵機/Twelve O'Clock High(1949)」
「シエラ/Sierra(1950)」
「四十挺の拳銃/Forty Guns(1957)」

◆ アーサー・ケネディ
(1941)ハイ・シェラ/High Sierra
(1941)壮烈第七騎兵隊/They Died with Their Boots On
(1966)ミクロの決死圏/Fantastic Voyage
(1949)窓/The Window
(1949)ウォーキング・ヒルズの黄金伝説/The Walking Hills
(1946)まごころ/Devotion
(1947)影なき殺人/Boomerang
(1952)無頼の谷/Rancho Notorious
 

ジーン・シモンズ
(1947)黒水仙/Black Narcissus
(1948)青い珊瑚礁/The Blue Lagoon
(1949)アダムとエヴリン/Adam and Evelyne
(1950)The Clouded Yellow
(1952)天使の顔/Angel Face
(1953)悲恋の王女エリザベス/Young Bess
(1960)エルマー・ガントリー/魅せられた男/Elmer Gantry
(1960)スパルタカス/Spartacus