深沢七郎原作の小説「楢山節考」の最初の映画化作品。 オール・セットで撮影され、全編を通じて邦楽を流し、幕あきに定式幕を使うなど歌舞伎の様式美的な雰囲気の演出となっている。

 

 

 

 

 

                  -   楢山節考  -  監督・脚本 木下 惠介

 

  出演 田中絹代、高橋貞二、望月優子、宮口精二、伊藤雄之助、東野英治郎 他

 

こちらは1958年制作の 日本映画 日本 です。(98分)

 

 

 

 

 

  舞台は山また山の奥の日陰の村 70歳になると人減らしのため楢山で姥捨を行う楢山まいりという風習が行われる村がありました。 69歳になるおりんは、息子の辰平とその子供達たちの世話しながら、去年妻に先立たれていた辰平の後妻を探していました。その傍らで働き者のおりんは楢山まいりの支度に余念がありません。 

 

 

 

 

 年に一度の楢山祭りの日、辰平は隣の村から妻を迎えることができました。 おりんはこれで安心して楢山へ行けると安心し、楢山へ行く準備を始めますが、もう一つしなければならない事がありました。 おりんの歯は子供たちの唄にうたわれるほど立派なもので、歯が丈夫だということは、食糧の乏しい村の年寄りとしては恥かしいことだったのです。

 

 

 

 

そこでおりんは自分の歯を石臼にぶつけて欠きました。 これで支度はすっかり出来上り、あとは冬を待つばかりでしたが、息子の​辰平は母の楢山まいりには気が進みませんでした。 そんな時、辰平の息子のけさ吉が村の女性をはらませた事で、一緒に暮らす事になります。 

 

 

 

 

家族が増えるという事は、それだけ食いぶちが増えるという事で、家族を心配したおりんは冬を待たずに「明日山へ行く」と言い出すのでした、、。

「姥捨て山」 の伝説を元にした、原作小説の映画化作品です。 1983年の 今村昌平の 「楢山節考」がカンヌ映画祭に出品され、同じ日本作品である「戦場のメリークリスマス」 とパルムドールを競合しました。

 

 

 

 

結果、今村昌平監督作に軍配があがり、グランプリを受賞。

その作品によって、この物語を知った方も多いと思いますが、 その25年前に、この木下恵介監督作の 「楢山節考」があったという事を知りませんでした。今村作品と、どのような違いがあるのか、興味が湧いたので、レンタルしたのですが、、何故、今まで知らなかったのだろう?という位に驚く程の凄い作品でした。

 

 

 

 

オープニング、幕前に居る黒子が、「東西、東西~!」と語りだし、拍子木を鳴らして物語が始まります。 クレジットが終わると、幕が引かれ、映画が始まるのですが、画面が出て来た瞬間、その映像の特殊性にまた驚かされます。なんと本作はオールセットで撮影されています。 手前部分は、凝って造り込んだリアルな装飾なのですが、背景はあえて、と思われる書き割りのような物で表現されています。それは正に歌舞伎や舞台を意識した映像表現の中で物語が進行していくのです。

 

 

 

 

それに合わせ、音楽は三味線といった和楽器の音が効果的に使われ、そこに流れる

浄瑠璃が演者の細やかな心情や、場面状況を唄うという構成になっていて、この物語の独特な世界感に観客は引込まれていきます。 物語の根幹は、貧しい村で生まれた家族の存続と、継承。親である故の、子供である故の愛情、情愛 自己犠牲と責任が、濃厚に描かれます。 

 

 

 


今村昌平版 ではオールロケで、リアリティを追及した作りになっていますが、この 木下恵介版の今作は、お話自体がとても残酷な為か、寓話的に描きたかったのか、全てが独特で特殊です。 セットをはじめ、場面展開もセットが二つに割れて舞台が変わったり幕引きでセットが変わったりと、古くから舞台等で使われていた技巧が、映画という枠組みの中で観るとかえって新鮮に映る不思議な現象が起こります。

 

 

 

 

それが全く安っぽく感じる事なく、後半の、山へ母親を背負って登って行く場面では、湧き水の流れている崖や、山頂の厳然たる風景と雰囲気など、素晴らしいの一言です。ほとんどのシーンがワンカットで撮影されていて、そのまま場面転換したりする面白さ。照明も、場面によっては、真っ赤になったり、自然ではあり得ない色を使って特殊な世界観と人物の感情を斬新に表現しています。

 

 

 


主演の 田中絹代 さんは本作の為、前歯を抜いたそうですし、他の出演者の方々も、その世界に溶け込むような見事な演技と佇まいが素晴らしい作品です。
この 木下恵介 監督の 「楢山節考」のように、昔の巨匠と呼ばれる監督さんは、意外にも型にはまらない斬新な作品を作っておられます。 黒澤明 の 「どですかでん」原色でセットを塗って、表現主義のような画面で撮ったり、市川崑の 「新選組」 では全編、マンガの切り抜きを動かして1本の映画を作ったり、今村昌平 の 「人間蒸発」 はドキュメンタリーと映画とを融合したような作品を撮ったりと、実験的でアートフィルムのようでありながら、大衆にも受け入れられる挑戦的な作品を作っていましたね。

 

 

 


映画はアート(芸術)だ!とまでは良い切れませんが、最近の日本映画に携わっておられる方々は、あまりにマンガ的な大衆に目を向き過ぎているようにも感じるこの頃、。 勿論、楽しい作品が多くあるのが良いのですが、「こんなのが作りたいんじゃい~!」という、映画製作者の方が出て来られるのを祈るばかりでござりまする。 皆さんはどうお考えでしょうか? ついつい、つまらない独り言を言ってしまいましたが、、、たまにはこういった力強い、時代物の日本映画をご覧になるのも面白いと思いますので、この機会にでもご覧になってみてはいかがですか、です。

 

では、また次回ですよ~! パー

 

 

 

 

 

 

 

映画のオープニング映像です。 世界観が伝わるかと思いますので宜しければ。 キラキラ