逢海司の「明日に向かって撃て!」 -8ページ目

逢海司の「明日に向かって撃て!」

ご注意下さい!!私のブログは『愛』と『毒舌』と『突っ込み』と『妄想』で出来上がってます!!記事を読む前に覚悟を決めてくださいね(^^;。よろしくお願いします☆

『神様は異世界にお引越ししました 日本の土地神様のゆるり復興記』(著/アマラ)

いわゆる「なろう系」と呼ばれる作品。一昔前の言い方をすれば『ラノベ』だろうか。

アラマさんが原作の『猫と竜』のコミカライズ版を読んでいたことが有り、猫と竜、そして人間の交流が楽しく愛おしいものだったのでこちらも読んでみた。

 

遥か昔、日本の小さな村を救った武芸者がいた。彼の形見である赤鞘を祭っているうちに武芸者の魂が土地神様になったのだが、時は流れ・土地神『赤鞘』を知る者も減り、自然消滅を待つだけの身となってしまった。そんな赤鞘の元に異世界の神アンバレンスが現れ、自分が治める世界『海原と中原』の一柱になって欲しいと誘いをかける。

かくして、日本で忘れられ消えゆく運命だった土地神様が異世界救済に乗り出すのだった。

 

この作品は壮大な物語の序章だったらしく、ストーリー展開には大して影響のないやり取りがダラダラ続いたり作業的なシーンばかりで特に大きな事件が起こるでもなく主要登場人物が揃ったくらいで終わってしまった。

またWEB発の小説にありがちだが、ギャグっぽい過剰表現が多くて作品に集中しきれなかった。やり過ぎて妙に間延びした感じになるのだ。

過去にも「なろう系」やWEB発の小説はいくつか読んでいて、こういった軽いテイストも経験してるのだが・・・。

コミカライズになればまた違うかもしれないが、(実際にコミカライズしている)小説で続きを読む気にはイマイチなれなかった。

 

私もいい歳なので、ファンタジーは卒業しろということなのか(苦笑)

 

書籍化してるだけで6巻まで出ており、サイトのほうには昨年まで新規掲載されている。

通して読んだら面白みが違うかもしれないので、異世界が好きという方は『神様が異世界転移』という新ジャンルに挑戦してみるのはいかがだろうか。

 

 

 

 

『窓の向こうのガーシュウィン』(著/宮下奈都)

私の読書時間は通勤電車の中である。

故に読解しやすそうな本を選びがちで、爽やかな表紙のこの本もそういった理由で選んだ。

結論を言えば今回の私の選択は失敗である。隙間時間に読む本ではなかった。

じっくり、心と腰を落ち着けて物語の世界にどっぷり漬かりながら、言の葉の一つ一つを噛み締めて読むべき本であった。

 

主人公の佐古は未熟児で生まれたのに親の(間違った解釈で)保育器に入れて貰えず、何かと欠けたまま大人になってしまった。

自分にいろいろと足りない自覚がある佐古は、理解できないなりに周りの空気を悪くさせない処世術を身に付けていく。

彼女は負の感情を知らない。知ろうとしない。知ってしまったら悲しみや寂しさがそこにあると自覚してしまうから。

同時に、幸せにも距離を置いてるようだった。幸せを知ってしまったら、失った時に哀しいから。

とても哲学的で普遍的で、そして新しい感覚に満ちた本であった。

心に刻むべき名言がいくつも出て来たように思う。

電車の、限られた時間で文字だけをすいすい追い掛けて読み終えてしまう本ではなかった。と読了してから気が付いた。

 

哀しさの中に柔らかな優しさが満ちている宮下作品ではあるが、少々特殊であったかも。

人によっては共感しにくい話でもあるが、今の自分に何か欠けているように感じている人は佐古さんと一緒に自分探しをしてみてはいかがだろうか。

 

 

『小鍋屋よろづ公事控』(著/有馬美季子)

一人鍋専門店『小鍋屋よろづ』は夫婦で営む小さな飯屋だ。

昼時と夜に店を開けるが店内は常連客でいつも満席。

夫の銀二は元板前で、何故だか今は包丁を持つことを己に禁じている。

しかし目利きは厳しく的確で、出入りの八百屋や魚屋が持ってきた食材でも気に入らなければ買い取らない(そして嫁のお咲に『今日の鍋の材料が無いでしょ!』と怒られる)

板場を切り盛りしているのが、この嫁であるお咲。

彼女の造る滋養強壮に秀でた鍋は大人気だ。

また彼女はよろず問題事を双方納得する形で収める公事師であった。

今は飯屋の女将だが、以前の腕を買われて常連客が相談事を持ち込んでくる。

 

この小説の見どころの一つは、季節折々の旬の食材で作られるお鍋である。韮や筍、葱に春菊など季節の瑞々しさを感じさせる野菜に、活きの良い魚や貝、時には肉などが合わさり、それを豆腐が優しく包み込む。

読んでいるだけで優しいお味の身体に良い鍋なんだろうな、とよだれが出てくる。

 

もう一つの見どころは、お咲の名裁きだ。

また公事師の仕事は、問題事を起こした双方の話を聞いてどちらも納得する落としどころを提案することだ。

つまり事件の犯人はすでに確定されている。

犯人捜しではなく、如何に償うかというところが焦点なのが面白い。

 

全体的に(小鍋料理のように)ほっこりと温かい内容である。

銀二とお咲の娘のお玉が妙に耳年増で聞き分けが良すぎるのが気になるが、話の邪魔をするほどではない。

銀二が包丁を持たなくなった理由や、お咲の母親のことなど細かく語られなかった事案が多いので、今後もシリーズ化していくと思われる。

とはいえ、次作を読むことが前提ではないので、要である銀二の過去は少し触れておいて欲しかった。

 

『江戸は浅草4 冬青灯篭』(著/知野みさき)

六軒長屋の住人達がお江戸は浅草の難題を解決していく短編連作シリーズ。

主人公の真一郎をはじめとして、みな個性豊かでそれぞれ特技を持つ。故に一癖も二癖もある連中が集まっている長屋は、何故が持ち込まれた揉め事が絶えない。

 

長屋の住人、大介の幼馴染の遊女、冬青の身請けが決まったと思ったら何故か別の遊女の足抜けを追うことに。

他にも屋敷にひっそり居ついたのは猿を捕まえてくれと頼まれたり、江戸の観光案内だけのはずが賭場に絡んだ物騒な案件が持ち込まれたり。

しまいにはお武家さまの騒動にも巻き込まれる始末。

馴染みの登場人物に加え、過去作に登場した者も多数でてくるのだが、前作を読んでから間が空いてしまった為、「これ、何をした人だっけ?」となってしまう私の拙いおつむが憎い。

一度登場したキャラクターが忘れられずに再登場するのは、彼らの『生』を感じられて嬉しいことなので、過去本片手に復習しながら読破。

 

読み口軽く、読後感もすっきりしている作品ばかりなので読みやすい。

また前作で多香の出自が判明し、それに伴い真一郎との関係性にも微妙な変化が訪れている。

二人の行く末も暖かく見守りたくなる。

『誰かが足りない』(著/宮下奈都)

タイトルと一昔前風のテーブルセットの表紙からホラーかと思った本。

(↑失礼極まりない)

実際は、自分に欠けている『誰か』を待つ人たちの物語だった。

 

それは自分の元を去った恋人だったり、亡くした大事な人だったり、離れ離れになった人だったり、まだ出会ってない誰かだったり。

そんな、自分が失くした誰かを待つ人たちの連作短編集である。

全く別の話なのだが、共通しているのは最終的にみな、同じレストランを目指すことだ。

暖かなマダムの居るとびきり美味しいレストラン『ハライ』。失った、或いは見失った幸せを求めるように、登場人物たちは『ハライ』に予約を入れる。

 

各話の登場人物たちは人生に悲観している。

絶望というほど強くはない。だが、何故こんなことになったのかと一抹の後悔を抱きながら生きている。

そんな人たちが救いを求めるように、或いは新しい自分を始めるために『ハライ』に足を運ぶ。

美味しい食事というのは生きる希望を与えてくれる場所に。

 

待ち合わせをしたことがある人は経験したことがあると思う。

店に人が入ってくるたび、自分の待ち人が来たのかとソワソワと扉を確認してしまう、あの寂しさと期待の入り混じった気分を。

私達は人生の中でも自分に欠けた誰かが現れるのを、寂しさと期待を抱きながら待っているのかもしれない。

 

物語の結末ははっきりとは描かれていない。

だけど希望の灯る未来が待っているのだと、そう信じられる空気がそこにはある。

 

今、自分の心が寂しさを感じている人には読んで頂きたい一冊である。

 

 

 

 

『マヨナカキッチン収録中』(著/森崎 緩)

(注:感想を書く前に本を図書館に返してしまったので記憶違いがあってもご容赦ください)

舞台はテレビ番組制作会社、つまりはテレビ局の下請け。

主人公の麻生霧歌はこの会社『チルエイト』のアシスタントプロデューサーだ。

ハードで目まぐるしい職場だが、熱意と愛情を持って仕事に励んでいる。

彼女が手掛ける深夜番組『マヨナカキッチン』は、かつてのスキャンダルで干されていた俳優・文山遼生がメニューを考え作るお料理番組だ。

文山はプロ顔負けの料理の腕前を披露する。対して霧歌は料理の手際こそ良いが包丁を使わずキッチンバサミで全てを済ますズボラ料理の申し子だ。

霧歌は問題にぶつかった時や困ったときなどに、文山が番組で紹介した料理を作りやすくアレンジして周囲に振る舞い、幾度となく問題を収拾してきた。

それがこの物語の肝である。

 

霧歌のアレンジ法を見ていると、難しかったり面倒だったりなレシピに出会っても作りやすく省略すればよいか、と気持ちが楽になる。

また彼女の年齢が三十代半ばというのがリアルだ。少し前なら女性の主人公は多少設定に無理がきても二十代に納めただろうに。

尊敬する先輩、切磋琢磨する同僚、まだ目が離せないけど成長を願う後輩。

それぞれを見詰める霧歌の想いがこの年齢であるからこその重みが出てくる。

主人公の年齢をどこに設定するかは、物語を通して伝わるものに大きな影響が出てくるのだ。

ふと我が身を振り返る。

自分は年齢に相応しい中身を伴っているのだろうか。

まあ霧歌はフィクションの人だしと言い訳しつつ、年相応の立ち居振る舞いを心掛けようと誓うアラフィフであった。

 

 

 

『ヘンたて 幹館大学ヘンな建物研究会』(著/青柳碧人)

「赤ずきん、旅の途中で死体と出会う」で一躍注目を浴びた青柳氏作品。

晴れて女子大生になった中川亜可美が憧れのりサークル活動を通し、恋に友情に悩みつつ成長していく青春ストーリーである。

と、書くと一見まともだが、彼女がうっかり入ってしまったサークルが問題である。

ヘンな建物研究所、略してヘンたて。

例えば窓が潰されたのに庇だけが残っていたり、たった三段しかない階段だったり。

本来の役目を果たせずに存在する『トマソン』な建物などを見て回り研究するという奇怪なサークルだったのだ。

ありえへん建物が舞台のミステリー、青柳節炸裂である。

短編連作となっているこの本にはいくつかの『ヘンな建物』が登場する。

この程度なら実在しても無理はないかな?と思うものから、いや、推理先行で建物考えたでしょ?っていう無理な建物まで色々と登場する。

推理のほうは(少々屁理屈っぽいが)納得できる筋書きになっているのでそこは青柳ワールドに没入してお楽しみ頂きたい。

なにせこの話、ミステリーだが本物の殺人事件が起きない。

メンタル弱ってる(人が死ぬ話すらきつい)ミステリー好きには有り難い設定なのだ。

ヘンたて研究会のメンバーも個性豊かで、彼らとのサークル活動は楽しそう。

ただメンバーの名前に中途半端に魚の名前(すしネタ)が入っていたのが気にかかる。

全員が魚関係の名前でないのに、無理にすしネタっぽい名前にしたような不自然な名前もある。

このあたりが狙ったことなのか、はたまた偶然のことだったのか是非とも作者さまにお伺いたい。

 

 

『心とろかすようなーマサの事件簿-』(著/宮部みゆき)

続けて宮部みゆきの現代ミステリー。

読了済みの『パーフェクトブルー』の続編(短編集)で、引退した警察犬マサと、マサの飼い主である蓮見探偵事務所一家が事件が事件の謎を解き明かす。

(下に『パーフェクト・ブルー』の感想記事のリンク貼っておきます)

『パーフェクト・ブルー』は人間視線とマサ視線が融合した話だったが、今回はほぼマサ視点。

マサの魅力や人柄(犬柄?)が充分に知れた。

(しかし人目を避けたとはいえ、こんな勝手気ままに大型犬が歩き回って良いのだろうか)

 

この作品、表題の柔らかなタイトルに惹かれて手に取ったのだが、どうしてどうして。

『心とろかすような』の真の意味が判明したとき、「こわっ」となった。

人の暗部というか闇の部分というか、奥底に渦巻くどす黒いものを表すことに宮部みゆきは容赦ない。

それでも比較的初期の作品のためか、凄惨な描写が控え目だったり悪行を尽くした者にはそれなりの罰が与えらえていた。が、やはり救われない話や箇所もいくつかあった。

話は魅力的で読み進める手が止まらないが、虐げられた者が報われないと事件が解決しても読後感は寂しい。

前記事にも書いたように物語の幅を利かせる為には不幸も必要不可欠な要素なのだが、私は分かりやすく『勧善懲悪』、もしくは『ざまぁ』な話が好きなようだ。

 

もちろん一冊全体が暗い話であるわけではなく、『悪者』を懲らしめる行程など楽しく読める話もある。

魅力的な登場人物も多いので、次は加代ちゃんの頭脳が冴えマサが大活躍するような胸のスカッとする話が読んでみたい。

 

 

 

 

『過ぎ去りし王国の城』(著/宮部みゆき)

宮部みゆき氏の作品は好んで時代物ばかり読んでいる。

以前は現代物も読んでいたのだが、登場人物たちが現代ならではの理不尽・不条理に晒されるのが辛くて敬遠するようになってしまったのだった。

主人公たちが不幸であればあるほど、逆境に打ち勝った時の達成感が増幅するのは分かっているけど、不遇な扱いをされているのはやはりいい気分ではない。

今回の主人公の尾垣真と城田珠美も恵まれない学生生活を送っている。

真は周りの生徒から『壁』と揶揄され、珠美は『ハブられ女子』として孤立している。

とはいえ、真のほうは家庭環境は良好だし現状を「そんなもの」と受け入れて(受け流して?)いる節があるのでこちらが同情したり怒ったりするほど不幸ではないかもしれない。

問題は珠美だ。

家庭でも居場所がなく、気に入らないとカースト上位の生徒たちから卑劣な扱いを受けている。

読むのも胸糞悪くなるようなこの同級生たちに『ざまぁ』することなく終わってしまったのが私としては納得いかない。

 

私の心情はさておき。

 

真が一枚の精巧な絵を手に入れたことから始まる。

その絵からは不思議な息遣い、木々の匂いや風の流れを感じるのだ。

その絵の中に入ってみたいと思った真は絵の上手な珠美に自分のアバターを絵の中に書きこんでくれるように頼みこむ。

絵の中に入ることに成功した二人は、別の方法で絵の中に入り込んでいた『パクさん』と出会うこととなり、この絵に隠された意外な秘密に少しずつ近付いていくのだった。

 

思った以上に結構なファンタジーだった。

読んでいた時期の少し前のドラえもん映画が『のび太の絵世界大冒険』だったのも妙な偶然である。

無事に絵の謎を解き明かした三人は、それぞれの生活に戻っていく。

真は自分の目標を見付け、パクさんは後悔を振り切り次に向かう。

珠美の状況だけは好転しなかったが、彼女はそれでも強さを失わずに生き切る覚悟を決めた。

 

真と珠美はよくある恋愛対象とはならず、それどころか距離を開けることを選んだ。

これは多分に珠美の希望であったが、その意図を汲んだ真も彼女の提案を受け入れる。

だけど二人の絆が切れたわけではなく、寧ろ心の繋がりは強固なものになった。

いつか珠美が自分の困難を乗り越えて二人が笑顔で向き合う日が来るだろう。

この二人の別離が力強く引き立つのは、珠美が逆境の中に身を置いているからだ。

 

悔しいが、良い物語には憎たらしい悪役が必要なのだ。

『おでかけ料理人 ふるさとの味で元気になる』(著/中島久枝)

前回に引き続き、おでかけ料理人佐奈の物語である。

続きが気になっていたら図書館に並んでいたチョキ

 

主人公の佐奈は元は大店の娘だったが、父が急逝した後に店が立ち行かなくなってしまった。

祖母と二人、ひっそりと神田で暮らす佐奈はおかねの煮売り屋で働く傍ら、依頼されたお宅で料理を作る『おでかけ料理人』として働いている。

健気で真面目で、少しばかり気の強い佐奈が頑張る姿はつい応援したくなる。

店の常連に「おばあさんは正月のえび、あんたは切り干し大根だ」と言われてムッとするが、切り干し大根は水で戻すだけで旨味のある甘い汁が出るし、油揚げと煮れば立派なおかずになるし酢の物にもなる。と切り干し大根の利点を数えるうちに『いいじゃかないか、切り干し大根。上等、上等』と上機嫌になるのだ。

素直で前向きで大変好ましい。

 

今作は心の残る思い出の味、懐かしい味が物語のポイントになる。

自分が幸せだった頃の味。豪華で無くても自分の根本を育ててくれた料理。

その料理が、思い出が、佐奈の手によって振る舞われる。

そもそも佐奈が作る料理は高尚だったり奇抜なものであったりしない。

当たり前に食卓にあった食事を、ただ真摯に真っ直ぐに作っていくのだ。

素材が秘めている本当の味の力を呼び起こしてあげる。佐奈の作る料理にはそんな魅力がある。

 

佐奈のおばあさまと言う人も博識で女将然とした雰囲気と上品さを持つのだが、大店育ちのせいかたまに佐奈よりも世間知らずなのでは?と思うところがある。

そのくせ情よりも理を第一として非情とも思える決断を迫る。

かと思えば、慣れない謡を必死に学ぶ男たちに感激して心昂らせたりする。

(少し前まではその人たちの不出来さを不快に思っていたのに!)

ある意味、料理を依頼して来るお客よりも佐奈を振り回しているおばあさまだが、今回は最後にビシっと問題を解決して物語をまとめてくれる。

 

佐奈とおばあさまの凸凹コンビの活躍をどうぞその目でお確かめくださいませ。