『おでかけ料理人 ふるさとの味で元気になる』(著/中島久枝)
前回に引き続き、おでかけ料理人佐奈の物語である。
続きが気になっていたら図書館に並んでいた![]()
主人公の佐奈は元は大店の娘だったが、父が急逝した後に店が立ち行かなくなってしまった。
祖母と二人、ひっそりと神田で暮らす佐奈はおかねの煮売り屋で働く傍ら、依頼されたお宅で料理を作る『おでかけ料理人』として働いている。
健気で真面目で、少しばかり気の強い佐奈が頑張る姿はつい応援したくなる。
店の常連に「おばあさんは正月のえび、あんたは切り干し大根だ」と言われてムッとするが、切り干し大根は水で戻すだけで旨味のある甘い汁が出るし、油揚げと煮れば立派なおかずになるし酢の物にもなる。と切り干し大根の利点を数えるうちに『いいじゃかないか、切り干し大根。上等、上等』と上機嫌になるのだ。
素直で前向きで大変好ましい。
今作は心の残る思い出の味、懐かしい味が物語のポイントになる。
自分が幸せだった頃の味。豪華で無くても自分の根本を育ててくれた料理。
その料理が、思い出が、佐奈の手によって振る舞われる。
そもそも佐奈が作る料理は高尚だったり奇抜なものであったりしない。
当たり前に食卓にあった食事を、ただ真摯に真っ直ぐに作っていくのだ。
素材が秘めている本当の味の力を呼び起こしてあげる。佐奈の作る料理にはそんな魅力がある。
佐奈のおばあさまと言う人も博識で女将然とした雰囲気と上品さを持つのだが、大店育ちのせいかたまに佐奈よりも世間知らずなのでは?と思うところがある。
そのくせ情よりも理を第一として非情とも思える決断を迫る。
かと思えば、慣れない謡を必死に学ぶ男たちに感激して心昂らせたりする。
(少し前まではその人たちの不出来さを不快に思っていたのに!)
ある意味、料理を依頼して来るお客よりも佐奈を振り回しているおばあさまだが、今回は最後にビシっと問題を解決して物語をまとめてくれる。
佐奈とおばあさまの凸凹コンビの活躍をどうぞその目でお確かめくださいませ。