『誰かが足りない』(著/宮下奈都)
タイトルと一昔前風のテーブルセットの表紙からホラーかと思った本。
(↑失礼極まりない)
実際は、自分に欠けている『誰か』を待つ人たちの物語だった。
それは自分の元を去った恋人だったり、亡くした大事な人だったり、離れ離れになった人だったり、まだ出会ってない誰かだったり。
そんな、自分が失くした誰かを待つ人たちの連作短編集である。
全く別の話なのだが、共通しているのは最終的にみな、同じレストランを目指すことだ。
暖かなマダムの居るとびきり美味しいレストラン『ハライ』。失った、或いは見失った幸せを求めるように、登場人物たちは『ハライ』に予約を入れる。
各話の登場人物たちは人生に悲観している。
絶望というほど強くはない。だが、何故こんなことになったのかと一抹の後悔を抱きながら生きている。
そんな人たちが救いを求めるように、或いは新しい自分を始めるために『ハライ』に足を運ぶ。
美味しい食事というのは生きる希望を与えてくれる場所に。
待ち合わせをしたことがある人は経験したことがあると思う。
店に人が入ってくるたび、自分の待ち人が来たのかとソワソワと扉を確認してしまう、あの寂しさと期待の入り混じった気分を。
私達は人生の中でも自分に欠けた誰かが現れるのを、寂しさと期待を抱きながら待っているのかもしれない。
物語の結末ははっきりとは描かれていない。
だけど希望の灯る未来が待っているのだと、そう信じられる空気がそこにはある。
今、自分の心が寂しさを感じている人には読んで頂きたい一冊である。