『窓の向こうのガーシュウィン』(著/宮下奈都)
私の読書時間は通勤電車の中である。
故に読解しやすそうな本を選びがちで、爽やかな表紙のこの本もそういった理由で選んだ。
結論を言えば今回の私の選択は失敗である。隙間時間に読む本ではなかった。
じっくり、心と腰を落ち着けて物語の世界にどっぷり漬かりながら、言の葉の一つ一つを噛み締めて読むべき本であった。
主人公の佐古は未熟児で生まれたのに親の(間違った解釈で)保育器に入れて貰えず、何かと欠けたまま大人になってしまった。
自分にいろいろと足りない自覚がある佐古は、理解できないなりに周りの空気を悪くさせない処世術を身に付けていく。
彼女は負の感情を知らない。知ろうとしない。知ってしまったら悲しみや寂しさがそこにあると自覚してしまうから。
同時に、幸せにも距離を置いてるようだった。幸せを知ってしまったら、失った時に哀しいから。
とても哲学的で普遍的で、そして新しい感覚に満ちた本であった。
心に刻むべき名言がいくつも出て来たように思う。
電車の、限られた時間で文字だけをすいすい追い掛けて読み終えてしまう本ではなかった。と読了してから気が付いた。
哀しさの中に柔らかな優しさが満ちている宮下作品ではあるが、少々特殊であったかも。
人によっては共感しにくい話でもあるが、今の自分に何か欠けているように感じている人は佐古さんと一緒に自分探しをしてみてはいかがだろうか。