映画と私 -604ページ目

「牡牛座 レーニンの肖像」と権力者4部作について


「牡牛座 レーニンの肖像」が、東京に先駆けて上映ということで、
シネヌーヴォーに行ってきた。

この映画は、レーニンの死の間際の生活を描いている。
雨の音を聴き、独り言をいいながら、全裸で体にシーツを巻き付けているレーニン。
でかい赤ちゃんのようだ。半身が麻痺し、記憶がだんだん薄れて行く姿が、淡々と描かれる。
そして、ソクーロフらしい淡い色調の映像が、
レーニンをもう既にこの世のものではないような不思議な存在にしている。
実際、表舞台から消えていたこの頃のレーニンは死んでるような存在だったのかもしれない。
歴史的な人物としてイメージするレーニンとはかけ離れている。

ソクーロフは同じように、権力者4部作としてヒトラーや、
天皇裕仁を歴史的なイメージとは、かけ離れた一人の人間として描いている。
「モレク神」では、ヒトラーを愛人エヴァの前で子供のように感情を露にする一人の人間として、
そして「太陽」は昭和天皇を神ではなく、苦悩するひとりの人間として描いている。

それは、見てはいけないものを覗きみているかのような、生々しさと同時に、
この世の出来事ではないような不思議さがある。
相反するものが共存している。
それは、イメージというフィルターを通して、レーニンやヒトラー、昭和天皇を
自分たちとは違う存在としてみているからだ。

しかし、ソクーロフはそれらのイメージを覆すことで、生身の人間として浮かびあがらせる。
そして、自分たちと変わらない人間として、
もう一度違う視点で歴史的な出来事を見つめることを強いてくる。

レーニンやヒトラーよりも日本人として、やはり昭和天皇が興味深かった。
人間でありながら、神と呼ばれた存在。
日本中の人々に崇められながらも、そのイメージで生きる意外許されない存在。
誰よりも孤独だったことがしみじみと伝わってくる。
皇后の胸に顔を埋める天皇の姿が特に印象的だった。
権力者4部作の最後ファウストもどんなのか楽しみだ。
     
             
                  

ヴァレリー・アファナシエフ ピアノリサイタル × 塩田千春

私の好きな人同士のコラボレーション。
アファナシエフとの出会いは、たまたま図書館でシューベルトの幻想ソナタを借りたことからだ。
なんとなく聴いてみよぐらいの気持ちで借りたら、涙がでるぐらいよかった。
なんと言ったらいいのか、哲学的でもありこの世のものとは思えないような演奏。
私の秘かに好きなもの同士が合体するなんて!!
しかもこの二人。みる前からいいものになるのがわかってるような取り合わせ。
どちらも、明るいとか楽しいとかとは、全く反対のイメージ。
みる方も娯楽ではなく真剣勝負しないといけないような緊張感がある。
そしていよいよその時が。
前半はショパンのワルツから。鳥肌たった。そして泣きそう。
無表情なアファナシエフだけど、紡ぎだされる音は不思議なちからでもあるかのように
私の体にどんどん沁み込んでいく。特に好きなワルツの第7番が聴けた時は本当に至福のときだった。
後半は、ポローネズ。しびれた。英雄は圧巻。
全ての演奏が終わったとき、少しはにかんだような顔をしたのがとっても素敵だった。
会場に居た人々もみんな感動したようで、拍手はなかなか鳴り止まない。
その度に現れるアファナシエフ。アンコールはイ短調マズルカ。やっぱりいい。
ところで、塩田千春の美術だが、これはちょっと残念だった。
展示作品を映像にとって、プロジェクターで映すというだけのもので、
なくてもいいのでは?と思ってしまった。
私の中ではピアノを毛糸ではりめぐらせてくれるのかと思ってた。
まあ、でもヴァレリーのピアノは最高だったし、会場からでたら満月で
山下公園から見える海と月はかなりきれいで夢うつつで大阪へと帰ることができた。

               

沈黙から 塩田千春展

先月5日、神奈川県民ホールの塩田千春展をみてきた。
この人との出会いは、横浜トリエンナーレのあのでっかい服から水が流れてるのをみたときから。
あれは印象的だったけど、それから振り返ることはなかった。
それから2年後ぐらい、たまたまオペラシティでダムタイプの展示をみたかえり、
近くのギャラリーで塩田千春の作品と再会した。
錆びた鉄製のベッドに天井から水が漏れている。
心臓つかまれたくらい、がーんとなった。
なんか自分の生理的なもの全部を刺激された感じ。
それからはもう塩田千春に夢中になった。
だから、こんな大々的な展示を見逃す訳にはいかない。
大阪から、駆けつけた。
この大きな空間丸ごと塩田作品というのには、もう感動した。
あの神経症的なまでに、毛糸をはりめぐらせた部屋。焼けたピアノ。
そして夥しい数の窓枠。ケチ臭いとこがなく、徹底してやってくれるとこが好き。
この空間がもう何日かしたらなくなってしまうなんて!!とその場から立ち去りたくなくなる。
なんでこんな好きなんだろう。それは体が覚えてる記憶、
日常生活では潜んでて忘れてしまってる記憶を掘り起こされたような気がするからなのかもしれない。
大阪からくる価値大いにあり。そして来年は大阪で展示があるそうで、楽しみな限り。
そして、これまた驚いたのが、私の好きなピアニスト、ヴァレリー・アファナシエフが
塩田千春の美術でコンサートするですって!全く知らなかったのでびっくり。
しかし、その日から20日後。どうしよう・・・。
でもやっぱり見に行く!!次はこの二人のコラボについて。