ファーストフードネイション
リチャード・リンクレイターの新作「ファーストフードネイション」をみてきた。
2時間、かなりの集中力でみた。みごたえがあった。今年みた中ではいまのところ一番。
しかし、この監督は器用だなあ。撮る映画のジャンルがいつも違う。
それなのに、どれもおもしろい。「ビフォアサンライズ」なんか特に好きだ。
映画は、アメリカのハンバーガーチェーン、ミッキーズのハンバーガーのパテの中に
牛の糞が混ざってたことから始まる。
原因はなんなのか、マーケティング部長ドンが精肉工場を調査しにいく。
工場ではメキシコからの密入国者が厳しい労働条件で働いている。
ドンは知らなかったハンバーガーの裏事情を知っていく。
映画は、ドンの視点だけではなく、メキシコ人の労働者、ミッキーズの店員の女子高生の視点でも描かれる。だから映画に厚みがあって、目が離せなくなるのだ。
単なる、ミッキーズ=悪みたいなものじゃなくて、どうしようもない負の連鎖にみている側も
じゃあ、どうすればいいのだろうと真剣に考えざる得なくなる。
その負の連鎖は、企業が強くなりすぎた今、世界共通にある問題だ。
利益を追求するあまり、人間のいのちが脅かされる。
本末転倒なこのしくみをこのまま続けていったら、利益を得る方の人の首も絞めてしまう日が来ると思うのだけど。でも、知らない間に自分もその負の連鎖の中に入っているのだ。
メキシコ人の視点もまたつらい。メキシコでは1日働いても、4ドルにしかならない。
だから、アメリカに夢を見てやってくる。けれど、賃金はよくても実際は人間以下の扱いだ。
あまりにつらいため、薬をやりながら働いていたりする。
メキシコ人のシルビア役を演じたカタリーナ・サンディノ・モレノが素晴らしい。
「パリ・ジュテーム」で初めてみたときも釘付けになったし、
「そして、一粒のひかり」でもやられた。
今回も、いい。すごく美人ではないけれど、映画の空気感が一気に変わる。
ただ、こちらをみつめてくるだけで、いっぱい喋るよりも多くが伝わる。
こういう人が本物の女優なんだと思う。
ラストの方で店員の女子高生が、ミッキーズの不正を訴えるため牛の柵を取って、牛を放そうとする。
牛が逃げて町がパニックになったら、問題が明るみにでるのではと考える。
けど、牛は全然動かない。そこにいれば、遺伝子組み換えの餌をもらえるし楽だから。
それって、アメリカ人のことを象徴してるのだろうな。アメリカ人だけじゃなくて、私たちも。