同志少女よ、敵を撃て | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

 

 

 

(あらすじ)※Amazonより

独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。

「戦いたいか、死にたいか」

そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。

母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。

同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。

おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵"とは?

 

(注)以下、ちょっとネタバレしてます。

 

◇◆

 

第166回直木賞候補作である。

↓あもる一人直木賞(第166回)選考会の様子はこちら・・

あもる一人直木賞(第166回)選考会ースタートー

あもる一人直木賞(第166回)選考会ー途中経過1ー

あもる一人直木賞(第166回)選考会ー途中経過2ー

あもる一人直木賞(第166回)選考会ー途中経過3ー

あもる一人直木賞(第166回)選考会ー途中経過4ー

あもる一人直木賞(第166回)選考会ー結果発表・総括ー

本物の直木賞選考会(第166回)ー結果・講評ー

 

こちらの作品、第166回直木賞候補作であると同時に第11回アガサ・クリスティ大賞受賞作品でもある。

だが私、正直最初はこちらの作品にあまり期待していなかった。

だって表紙がこれだしぃ〜。

なんかライトノベルっぽい感じなんじゃないの〜?

とか

いかにも早川書房って感じ〜

などと思って渋々(笑)読み始めたのだが、これがなかなかどうして面白く、読み終えてみれば大満足であった。

これがあるから直木賞選考会はやめられない。

これ、選考会をやっていなかったらミステリー初心者あもちゃん、絶対この作品を読んでなかった自信ある。

 

そしてちょっとそこの奥様聞いてくださる?

この作品、なんと作者のデビュー作なんですってよ!

まさかの新人にしてアガサ・クリスティ大賞受賞だけでなく、直木賞の候補にのし上がってくるとは、こりゃすごい。

しかもその内容もデビュー作とは思えないほどの充実っぷりで、こりゃすごい。

 

とはいえ私の中では直木賞候補作の中では最下位だったわけだが、それは単に相手が悪かっただけ。作品そのものが悪かったわけではない。

私の中の推しが3人もいて、しかも逢坂さん除く4人全員が直木賞候補経験あり、という悪条件の中で逢坂さんは大変善戦したと思う。

実は逢坂さんを強くではないものの、多少推してくる選考委員(特にジジ衆)がいるんじゃないか、とまで思っていたりする。それくらい魅力ある作品であった。

と思っていたら、本物の選考会ではまさかの決選投票まで残るという事実に逆に驚く私。

いやいや実際私も上記のように「面白い」と思ったし、この作品が高く評価されたのは大変喜ばしいことではあるが、さすがにちょっと評価が高すぎやしませんか?とか思ってしまう。

本当に面白かったは面白かったんですけどもね!

 

「今回の「次点」とも言える逢坂作品は、強く推す選考委員もいました。」

 

強く推したのは一体誰なんだろう。

私と腹の底から分かり合えない人・・・ってことはさては伊集院静だな!!←決めつけ。

オジキは今村さん一筋に決まってるし笑、時々トンチキで面白いこと言ってくれるから、嫌い嫌いも好きのうち。

これでしをんちゃん(三浦しをん)だったらどうしよう・・・ショック死するかもしれん。

寺号のオール讀物を読むのが怖い(笑)

頼む!「何かしらの賛辞」程度に留めていてくれ!!

 

選考会の話はここまでにして、本編について。

 

舞台は第二次世界大戦のロシア。

主人公はイワノフスカヤ村というロシアの片田舎の少女セラフィマ。貧しいながらも母親と共に狩猟をしながら村のみんなと仲良く暮らしていた。

そこへドイツ軍がやってくる。

セラフィマと母はたまたま狩猟に出かけていて村にはいなかったが、戻ってくる途中で異変を感じ、木の影から村の様子を伺う。

そこはもう地獄絵図。

ドイツ軍兵士により女性は乱暴され殺され、男性は惨殺されている。

母は村人を助けようと銃を構えるも、人を撃ったことがない母は躊躇する。そんな銃を構える母に気づいたドイツ軍の兵士が母を撃った。この距離で。木陰にいる母を撃てるその腕前。

そこへロシア軍がやってきてセラフィマは間一髪助けられたのだが、村人はセラフィマを除いて皆殺しであり、村はロシア軍によって燃やされた(死体を弔う時間も道具もない中で疫病を蔓延させない方法)。

 

ストーリーは至って単純、自分の家族や村を全滅させたドイツ軍、そして母を殺した狙撃兵を見つけて仇をとり、戦争で苦しむ女性を救い、さらには自分を狙撃兵に育てた女軍曹イリーナを殺す、ただそれを果たすために強くなって戦火を生き抜いていく・・・というもの。

単純なストーリーではあるが彼女を取り巻く極限の環境、また日々戦争という非日常の世界の描写、そして人間がいかに脆く、危ういものか、というものがこれまたシンプルに描かれていた。

 

戦況の描写など大変細かく、銃撃戦とか知らないことも多くて、へ〜と思った。細かい戦場の描写も大変上手に丁寧にされていることでわからないところは全くなかった。

ミルなど銃の距離の単位などは全然ちんぷんかんぷんだったが、わからなくても全く問題なし。

 

戦時下という極限の状況の中、それぞれがそれぞれの倫理観や思惑の中で生きざるを得ない、そういう特殊な環境も読み手に納得できる描き方をしていて好印象。

物語はとにかく面白かったし、女性ばかりの狙撃隊を取り上げて描く、というのも大変面白かった。

 

小説の最後にも出てくるのだが、500人以上の従軍女性から聞き取りをおこない戦争の真実を明らかにした、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの「戦争は女の顔をしていない」という作品に触発されて(もしくはそれを基礎or資料にして)書いていると思われる。

 

 

500人の中にセラフィマやイリーナがいるんだなあ・・と思うと、この作品も読んでみなければ・・と思う。

 

また貴族出身の女性が狙撃隊にいるのだが、貴族出身であることを隠し、それを知ったセラフィイマが「共産主義のロシアにおいて生きにくかろう」と彼女の環境を慮る場面を読んで、あの頃のロシアにおける「貴族」ってそういう立ち位置なのか、と新鮮な思いで読んだ。

今、ちょうどラフマニノフの曲を弾いているのだが、ラフマニノフも実は貴族出身。

その境遇はチェーホフの「桜の園」そのものだねえ・・とか勝手にラフマニノフに思いを寄せていたのだが、時代はむしろこちらの方がドンピシャ。

貴族ってこの当時は生きづらい存在だったのかあ。

 

そんな大絶賛の小説ではあったが、いろいろ問題点もあったと思う。

まずセラフィマの行動が引き金となって死ぬ人続出(あ、ちょっと盛りました)。

一度ならずも二度までも・・ええ加減学習せい。

結果的にそれがロシア軍の早い戦勝をもたらしたり・・ということで結果オーライ的になっていたが、もやもやが多少残るし、ご都合主義で展開し過ぎる。

あんなにこれ以上死なせたくない、とか言ってたのに。そこらへんにもう少し折り合いが付けられたらな、と思う。

 

あとは女軍曹イリーナがカッコよすぎ。

こりゃあ百合たちがざわめいちゃうよね。しかもラストはセラフィマと二人暮らし、とか百合が喜んじゃう〜。

女軍曹イリーナがカッコ良すぎて漫画的というかアニメ的というか、表紙もアレだし、このかっこよさは諸刃の剣。

私みたいに好意的に受け入れる人もいると思うが、ダメな人はダメかも。

 

そして物語全体の構成。

ものすごくわかりやすいのだが、それにしてもちょっと単純すぎかな。

あまり複雑にするとわかりにくい話・・というほどでもないので、もう少し時系列とか人間関係とか描写を複雑にしてみるとさらに面白かったかも。

解散した狙撃隊の隊員のそれぞれの人生のその後・・・もものすんごく丁寧に書かれていて、読者は100%納得!満足!だとは思うのだが、あまりに丁寧すぎてもう少し隠した方が焦ったくていいのでは?と懇切丁寧な書き振りに逆に文句をつける(笑)

まあこれは経験則がものをいうところなので、これからすごく上手くなっていくはずだから改善点というほどでもないと思う。

さらにいうと、他の4人の候補者がいずれも手練れなのでそういう技術的なことが今回は余計に強調されて私の目についただけのようにも思う。

 

どうでもいいけどこの作品、アガサクリスティ大賞受賞だしミステリー扱いなんだと思うが、どこらへんにミステリー要素が・・・?

今の時代、作品を単純にカテゴライズするのも難しくなっているのかもしれません。

ビバ!多様性!←多様性言いたいだけ。

 

 

あもる一人直木賞選考会において、彩瀬さんの「新しい星」に続いてこちらの作品を読んだのだが、どちらも形は全く違うが「死」を扱っている。

死と常に隣り合わせにあると思われる戦時下においてこうも死に抗おうとするものか(「同志少女よ、敵を撃て」)、と思う一方、平時に病気により生が消えつつある茅乃は死を受け入れる準備を始めている。それも大変穏やかに、大変静かに(「新しい星」)。

突然手からこぼれ落ちる戦時下の命と平時に少しずつ形を消していく命。

その二つの命の扱いの違いの描写を思い、命は平等とかってやっぱり嘘だよな〜、と思い、そしていろいろな表情を見せる命の描き方をしてくれた二人の作者に感動を覚えながら読み進めた私であった。