あもる一人直木賞(第166回)選考会ー途中経過3ー | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

今年に入ってアメブロの仕様が変わったのか、文字数制限(アマゾンリンクなんぞ使ったらどえらい文字数を食う模様)があることが判明したので、遊んでないでさっさと本題に入ります。

 

前回までの記事はこちら→

あもる一人直木賞(第166回)選考会ースタートー

あもる一人直木賞(第166回)選考会ー途中経過1ー

あもる一人直木賞(第166回)選考会ー途中経過2ー

 

順位については読んだ時点でのもの。

次の記事以降で順位は上下していきます。

 

※一部、内容に詳しく触れている部分があります!

 作品を読む前に知っちゃうと読み方が変わっちゃうほど触れちゃってるところもあります。

 ミステリー作品もあり、結論にも触れたりするので要注意。
 

1位 柚月(ゆづき)裕子「ミカエルの鼓動」(文芸春秋)
2位 彩瀬まる「新しい星」(文芸春秋)

3位 逢坂冬馬(あいさかとうま)「同志少女よ、敵を撃て」(早川書房)

4位 

5位 

 

◇◆

 

 

本命中の本命、推しの中の推し、柚月裕子が・・・私の柚月裕子がとうとうきましたでぇぇ・・チョンチョン・・・・(歌舞伎風に)

 

と思わずかぶいちゃうくらい柚月さんがやってくれました。

この作品でとらせてあげていいんじゃないでしょうか。

いや、この作品でとらせてあげたい。

「孤狼の血」(広島暴力団抗争)や「盤上の向日葵」(将棋界)など幅広いジャンルの作品を数多くこの世に送り出してきた柚月さんが今回描いたのは医療ミステリー。

どんだけ守備範囲広いのよ。

色々な作品を、しかもどの作品も常に一定以上の高いクオリティで書いてくる。読んでいるこちらが安心して楽しめる。

柚月さんの作品に出会ったのはちょっと前という気がするけれど、その筆致はもう完全にベテランの域に達している。

ミッチミチに高い緊張感で描いていた頃に比べて、今回は余白というか遊びの部分も時折差し込まれており、緊張と緩和が上手に描かれている。

おばちゃん、最近老眼が進んじゃって。時々緩和ポイントでおやすみしたいお年頃(笑)

 

謎の男性が冬山で遭難しかけているところから物語は始まる。

彼は何かを必死に探している。何を・・。

 

印象的なプロローグが終わり、舞台は北海道の大学病院。

天才心臓外科医の西條は手術支援ロボット「ミカエル」を使って、心臓手術を行なっている。

西條のミカエルを操る手技はうっとりするほど美しく、驚くほど正確である。

冒頭だけじゃなく手術シーンの描写は難しい単語も使っているのにどの場面も大変わかりやすい。そもそも手術支援ロボット(ミカエル)なんて見たことないのに、なんとなくこういう感じのものかな、と読者がそれぞれ想像できるよう細かく気を遣って描写してある。

その描写は丁寧すぎず、それでいて想像するために必要な言葉を最低限ちゃんと順序よく選んで使っている。

また手術のシーンなどはこちらがスッと理解できるほどシンプルな描写であるせいか、手術の緊迫感もそのままわかりやすく伝わる。

どの手術のシーンも良かったなあ。

 

また主人公である西條の人間性についても絶妙に仕掛けて書いてくる。

こういう大病院の出世争いで出てくる医者とか病院長って、野心満々で、高慢ちきで、医者以外は人にあらず的な、思わず日本語がおかしくなっちゃいそうなくらい偉そーな感じの人がいたりするじゃないですかあ。

西條もそんな人間・・のようなところがあるようでなくて、ないようであるような、そのわからなさ加減がすごくいい!

看護師との関係性もとてもいい西條。

とにかく自分の担当する手術の成功は自分の技術と人間関係の良さが大事、と助手の医師や看護師、どの人間に対しても人当たりのいい西條。

とか言っちゃって野心みたいなものを抱えている・・と見せかけて、そりゃ人間ですもの、多少の野心はありますわな・・みたいなところも見せておきながら、やっぱり医者として正しい姿であり続けた西條の描写。

そこに見え隠れていていた野心のようなものも、ただただ人の命を救うために「ミカエル」というロボットをいかに日本、そして世界に今後普及させていかねばならないか、ただそのために西條は邁進しており、単なる「手術バカ」(・・という言葉でいいのか知らんが)でありました。

そういう細やかな描写が私の中で好感度爆あがり。

 

ところがドイツ帰りの医者である真木が同じ病院にやってきたことで、西條の緊張感が上がる。

出世を邪魔される・・?いや出世などはともかく、なぜ今この時期(ミカエルを使った手術を病院の目玉として今以上に大々的に売り出していく!病院長もミカエル推しだし!)にミカエルを使わない真木が外部ではあるものの重要ポストに迎えられてきたのか。

ミカエル推しだったはずの病院長も何か腰が引けているのか、以前ほどの積極性が見られない。

その頃から妙なジャーナリストが西條の周りと彷徨き始める・・・

そして自分を慕ってくれていたミカエルを使っての手術の大変上手な若い医者が自らの命を絶つという事件が起こるのであった。

 

何かがおかしい・・歯車が狂い始めている。

ドキドキしちゃうううううううう。

 

しかしどうでもいいけど、帯に「・・・西條を慕う若い医師が自らの命を絶った」と書いてあったら、序盤にそういう事件が起こるんだと思うじゃないですか。

ミステリーだし。

でも実際読んでみたら、この事件が起こるの、だいぶ先の出来事なの。

てっきり西條を慕う若い医師って序盤に出てくる星野くんだと思って「ああ〜こんなに誠実な若い子が死ぬのね・・・」といつ死ぬのかと読んでいたら、全然別の人物だった(汗)

帯に先のことを、しかも詳細に書きすぎ。と文句を言いたい!

 

とまあ帯にはここまで書いてあったので私も詳しく書くのはここまでとするが(とはいえ、この後、作品の核心部分に触れる箇所があります。ご注意ください‼︎)、人の命をひたすら救いたいだけの「手術バカ」である西條も一応結婚はしているものの、案の定奥さんとこれがまあちっともうまくいってない。子供もいない。過去にいろいろあった西條は子供のいる生活というものが怖いのだ。

看護師との人間関係はうまく築けるのに、家族とはうまく築けない。

奥さんにもだいぶ問題ありだが、西條にも問題ありで、そういう夫婦や母娘の共依存関係のじれったさやモヤモヤの描写もバランスよく差し込んでくる。

 

何事も自分で決めず、決断を常に他人任せの奥さんに対し、西條は自分のことを自分で決められない彼女はどう幸せになるのか・・とか思うの。

冷たっっっっっ。

患者さんにはいつも優しく寄り添っているのに〜。

そうなのだ、患者さんは自分の手術方法にしろ、自分の人生にしろ、いつも決断を迫らせている。たとえ子供であっても。西條はそのことにいつも敬意を払っている。

それに引き換え・・・と体は健康な、いつも母親と依存しあっている奥さんを比べる西條。

この手術バカめ〜!

そういう小さな(小さくないが)家庭内の傷について大胆に切り込み、繊細に描写してくるあたり、もはやベテラン。

 

物語もいよいよ後半、航くん(子供)の心臓手術の方法を巡って真木先生と対立する西條であったが、それもこれもどちらも航くんをよくしたい、という思いであり、そこには野心とかはまるでなく、どっちでもいいから航くんを早く治してあげて〜と読者である私と二人の天才医師と周りにいる医療関係者皆が一致団結する場面が面白い。思惑はいろいろあれど思いはただ一つ。彼の心臓を治してあげたい。

 

最初はミカエルに不具合(欠陥)があるんじゃないか、という根拠はない疑問だったものの、その疑問を晴らすべく全国の医療機関で調査したところ、数件ミカエルの不具合とみられる手術の失敗例がわかる。

その数件の失敗例を知りつつ、ミカエルを使って航くんの心臓手術を行う西條。

その手術はいつも以上に順調である。

ミカエルに不具合など起こらず、西條はこのまま手術を完遂することができるのか。

そもそもミカエルに不具合として報告があったのも、使う側の医者の技術に問題があったのではないのか。←交通事故だって車が悪いわけじゃないからね。使う人が悪い。

 

航くん、とにかく手術が成功しますように。

ドキドキドキドキ・・・・。

 

最終的にやはりミカエルには不具合があることがわかった。

しかし数件の不具合例はあれども、ミカエルは人間の手では及ばない手術を行うことができるロボットであることは間違いない。このミカエルがあれば多くの人間が救われる。ただ数例不運な不具合が起こっただけで。今後も低い確率ではあるが起こるかもしれないし起こらないかもしれない。しかし現時点でのミカエルに不具合は存在する。

ミカエルを使う西條はミカエルの数件の不具合をどう見るか。どうしていくのか。

医者としての倫理とは?正義とは?

西條が出した結論は。

 

西條が出した結論に、ああそうなんだ〜とは思うが、どちらが良かったのか。

私は今でもわからない。

正しい決断ではあると思うが、なんというかそれで良かったのかなあ。

他に方法はなかったのかしら・・とかいろいろ考えてしまう。

(しかもその出した結論が世間に与える影響がデカすぎた。西條も普通に生活するのも大変だったんじゃないだろうか。後日談が書いていないのでわからないが、大変だと思う。。。)

雨宮女史のいうこともわからなくもないのである。

だからって数件の失敗例には当たりたくない。

人間って勝手ね。

正義が必ずしも正しいとは限らないが、やっぱり正義は正しくあってほしいとも思う。

西條も悩んだと思うが読者である私もいろいろと悩ませるいい作品であり、直木賞選考委員は是非ともこのことに触れてほしいものであります。

 

大々大絶賛の作品ではあったが、1つ残念なことがあるとすれば、真木先生にもう少しスポット当てても良かったかも。せっかくのライバルの天才医師ですし。西條とは真逆の人間性の持ち主ですし。なんか粗野で素朴でイケメンぽくて素敵だったし。←結局ココ。

 

そしてエピローグ。

謎の男性が冬山で死にかけている・・・いやいや、ここで死ぬわけにはいかない。と立ち上がる。

俺はやつが見たものを見つけるまでは死ねない。・・そしてとうとう見つけた。

やつが見つけたものを俺も見つけた!

謎の男性の正体がわかり、彼が探していたものを、立ち上がった彼と一緒に私たち読者も見つけることになるのであった。

 

この作品も前の2候補作品と同様、形は違えど「命」を扱うものとなった。

命のあり方、描き方も様々で、重さ軽さもいろいろだな、とそれぞれの作品に思いを馳せた。

 

作品とは関係ないが、白い巨塔とか医療関係の作品を読むといつも思う。

できれば病院にお世話にはなりたくないものであります・・・。

病院側の思惑、そこで働く医師たちの思惑などがドロドロすぎる〜。

保身や出世、派閥争いなんぞはどうでもいいから、医療に全身全霊傾けてくれい笑

 

てなわけで、ー途中経過4ーに続く。