前回の記事で相当な文字数制限があることが判明したので、遊んでないでさっさと本編に入ります。
前回までの記事はこちら→
順位については読んだ時点でのもの。
次の記事以降で順位は上下していきます。
※一部、内容に詳しく触れている部分があります!
作品を読む前に知っちゃうと読み方が変わっちゃうほど触れちゃってるところもあります。
ミステリー作品もあり、結論にも触れたりするので要注意。
1位 彩瀬まる「新しい星」(文芸春秋)
2位 逢坂冬馬(あいさかとうま)「同志少女よ、敵を撃て」(早川書房)
3位
4位
5位
◇◆
第11回アガサ・クリスティ大賞受賞作品でもある。
だが私、正直最初はこちらの作品にあまり期待していなかった。
だって表紙がこれだしぃ〜
いかにも早川書房って感じ〜と思って渋々読み始めたのだが、これがなかなかどうして面白く、読み終えてみれば大満足であった。
そしてちょっとそこの奥様聞いてくださる?
この作品、なんと作者のデビュー作なんですってよ!まさかの新人にして直木賞候補にのし上がってくるとはこりゃすごい。
しかもその内容もデビュー作とは思えないほどの充実っぷりである。こりゃすごい。
とはいえまあ先に結論から申しますれば、このあとはずるずる下がる一方なんですけども。
でもでも!それは相手が悪かっただけ。作品そのものが悪かったわけではないのだ。
推しが3人もいて、しかも逢坂さん除く4人全員が直木賞候補経験あり、という悪条件の中で逢坂さんは善戦したと思う。
実は逢坂さんを強くではないものの、多少推してくる選考委員(特にジジ衆)がいるんじゃないか、とまで思っていたりする。それくらい魅力ある作品であった。
舞台は第二次世界大戦のロシア。
主人公はイワノフスカヤ村というロシアの片田舎の少女セラフィマ。貧しいながらも母親と共に狩猟をしながら村のみんなと仲良く暮らしていた。
そこへドイツ軍がやってくる。
セラフィマと母はたまたま狩猟に出かけていて村にはいなかったが、戻ってくる途中で異変を感じ、木の影から村の様子を伺う。
そこはもう地獄絵図。
ドイツ軍兵士により女性は乱暴され殺され、男性は惨殺されている。
母は村人を助けようと銃を構えるも、人を撃ったことがない母は躊躇する。そんな銃を構える母に気づいたドイツ軍の兵士が母を撃った。この距離で。木陰にいる母を撃てるその腕前。
そこへロシア軍がやってきてセラフィマは間一髪助けられたのだが、村人はセラフィマを除いて皆殺しであり、村はロシア軍によって燃やされた(死体を弔う時間も道具もない中で疫病を蔓延させない方法)。
ストーリーは至って単純、自分の家族や村を全滅させたドイツ軍、そして母を殺した狙撃兵を見つけて仇をとり、戦争で苦しむ女性を救い、さらには自分を狙撃兵に育てた女軍曹イリーナを殺す、ただそれを果たすために強くなって戦火を生き抜いていく・・・というもの。
単純なストーリーではあるが彼女を取り巻く極限の環境、また日々戦争という非日常の世界の描写、そして人間がいかに脆く、危ういものか、というものがこれまたシンプルに描かれていた。
戦況の描写など大変細かく、銃撃戦とか知らないことも多くて、へ〜と思った。細かい戦場の描写も大変上手に丁寧にされていることでわからないところは全くなかった。
ミルなど銃の距離の単位などは全然ちんぷんかんぷんだったが、わからなくても全く問題なし。
戦時下という極限の状況の中、それぞれがそれぞれの倫理観や思惑の中で生きざるを得ない、そういう特殊な環境も読み手に納得できる描き方をしていて好印象。
物語はとにかく面白かったし、女性ばかりの狙撃隊を取り上げて描く、というのも大変面白かった。
また貴族出身の女性が狙撃隊にいるのだが、貴族出身であることを隠し、それを知ったセラフィイマが「共産主義のロシアにおいて生きにくかろう」と思っている場面を読んで、あの頃のロシアにおける「貴族」ってそういう立ち位置なのか、と新鮮な思いで読んだ。
今、ちょうどラフマニノフの曲を弾いているのだが、ラフマニノフも貴族出身。チェーホフの「桜の園」だねえ・・とか勝手にラフマニノフに思いを寄せていたのだが、時代はむしろこちらの方がドンピシャ。
貴族ってこの当時は生きづらい存在だったのかあ。
そんな中、いろいろ問題点もあったと思う。
まずセラフィマの行動が引き金となって死ぬ人続出(あ、ちょっと盛りました)。
一度ならずも二度までも・・ええ加減学習せい。
結果的にそれがロシア軍の早い戦勝をもたらしたり・・ということで結果オーライ的になっていたが、もやもやが多少残る。
あんなにこれ以上死なせたくない、とか言ってたのに。そこらへんにもう少し折り合いが付けられたらな、と思う。
あとは女軍曹イリーナがカッコよすぎ。
こりゃあ百合たちがざわめいちゃうよね。カッコ良すぎて漫画的というかアニメ的というか、表紙もアレだし、このかっこよさが仇となってそこに文句つける選考委員がいるやもしれぬ。
そして物語全体の構成。
ものすごくわかりやすいのだが、それにしてもちょっと単純すぎかな。
あまり複雑にするとわかりにくい話・・というほどでもないので、もう少し時系列とか人間関係とか描写を複雑にしてみるとさらに面白かったかも。
解散した狙撃隊の隊員のそれぞれのその後・・・がものすんごく丁寧に書かれていて、読者は100%納得!満足!だとは思うのだが、あまりに丁寧すぎてもう少し隠した方が焦ったくていいのでは?と懇切丁寧な書き振りに逆に文句をつける、という異常事態(笑)
まあこれは経験則がものをいうところなので、これからすごく上手くなっていくはずだから改善点というほどでもないと思う。
さらにいうと、他の4人の候補者がいずれも手練れなので余計にそう思えたのだと思う。
どうでもいいけどこの作品、ミステリー作品扱いなんだと思うが(アガサクリスティ大賞受賞だし)、どこらへんにミステリー要素が・・・?
今の時代、作品を単純にカテゴライズするのも難しくなっているのかもしれません。
ビバ!多様性!←多様性言いたいだけ。
彩瀬さんの「新しい星」にこの作品が続いた。どちらも形は全く違うが「死」を扱っている。
死と常に隣り合わせにあると思われる戦時下において、こうも死に抗おうとするものか、と思う中、平時に病気により生が消えつつある茅乃は死を受け入れる準備を始めている。それも大変穏やかに、大変静かに。
突然手からこぼれ落ちる戦時下の命と平時に少しずつ形を消していく命。
その二つの命の扱いの違いの描写を思い、そして二人の作者に感動を覚えながら読み進める私であった。
ー途中経過3ーに続く・・