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放射性物質のラジウム、ガイガーカウンター、それらに連動する青酸ガス発生装置を入れた箱に猫を閉じ込める。
1時間以内にラジウムがアルファ崩壊してアルファ粒子が放出される確率が50%とする。
アルファ粒子が放出されればガイガーカウンターの検知によって青酸ガス発生装置が作動──
即ち、箱を開けたときの猫の生死の確率もそれぞれ50%である
物理学に詳しい人ならよく知っているこの「シュレーディンガーの猫」
量子力学において、ミクロの物質の位置の観測における矛盾を示した思考実験の話しです。
ここではアルファ粒子が放出されたか否かは、観測した途端に決まるとして──
ではその因果で起きるマクロの現象、つまりは「猫が生きているか死んでいるか」ということもまた、箱を開けてから決まる(開けて観測するまでは生きている場合と死んでいる場合の重ね合わせの状態)ということなのか?という疑問。
そんな小難しい物理学の話しから着想を得たSFスリラー映画がこちら──
『ランダム 存在の確率』(2013年 監督:ジェームズ・ウォード・バーキット 出演:エミリー・バルドーニ、モーリー・スターリング、ニコラス・ブレンドン 他)
【あらすじ】──ミラー彗星が地球に最も接近する夜。
エム(エミリー・バルドーニ)とケヴィン(モーリー・スターリング)のカップルは、友人のホームパーティに招かれる。
男女8人のパーティで、彗星の話題に盛り上がっていたそのとき、突如の停電で家の中が真っ暗になってしまう。
外の様子を見に行った8人であったが、そこで彼らは自分たちと全く同じ人間が、全く同じ家でパーティをしているのを目撃する。──
☆シュレ猫+多世界解釈によるSFスリラー
はい、ややこしいことになってきます!
ひとつ屋根の下で繰り広げられる、なんとも頭が混乱するような事態。
この状況の中で、1人の友人が口にする「シュレーディンガーの猫」の話し。
先ほども述べたこの思考実験から示される疑問。
──「原子核崩壊が起きてアルファ粒子が飛び出すか、もしくは原子核崩壊は起きずアルファ粒子は飛び出さないか」、というミクロの現象における2つの結果は、観測されるまでは重ね合わせの状態にある。
すると、ミクロの現象の因果にある"マクロの現象"="猫の生か死かの結果"もまた、箱を開けて観測するまでは重ね合わせの状態にある──
という、我々の日常の常識では考えられないこの量子論特有の世界で産み出されるパラドックス。
実はこの疑問には、とある解釈があります。
それが「多世界解釈」というものです。
「この世界は可能性の分だけ枝分かれした状態が並行して存在する」
よくSFに使われるパラレルワールド理論です。
この実験で言えば、「猫が死んでいて、それを観測している自分がいる状態」と「猫が生きていて、それを観測している自分がいる状態」のことになります。
ミラー彗星がどのように影響したのか。
この映画の人物たちは、本来は干渉し合わないはずの分岐した向こうの世界の自分たちと遭遇してしまったわけです。
それも分岐した世界は2つどころじゃなさそうです。
さあ、家に戻ってきた。
しかし、何か様子がおかしい。
今、自分は元の場所に戻れたのか?
そうです!
だんだんややこしくなっていきます。
観ているこちらは、よほど集中力を持っていないと、状況がつかめなくなります。
ご安心ください。
人物たちもそれは同じなのです。
彼らのおかれている状況を、皆さんも疑似体験してください。
★ほぼワンシチュエーションで魅せる展開
スペクタクルなVFXを駆使しているわけでもなく、ロボットが登場するわけでもありません。
恐ろしい未知の生物を相手に戦うわけでもなければ、近未来が舞台というわけでもありません。
場所は普通の家の中と、そこから少し出た周辺。
いつものありふれた光景の中に、不可思議な現象が起き、そこで限られた登場人物たちがやり取りするシンプルな場面設定。
しかしだからこそ、この科学的な概念を駆使したシナリオが見事に映えるのです。
物理学の理論や解釈からストーリーを広げていくというSFの根元的な醍醐味がよく示されている作品です。
混乱する中で、元の状態に戻れないという、ジワリとくるスリルを、知的好奇心をそそる概念とともに描く鋭さがあります。
さて、先ほどから、やや難しいと思われる説明を取り入れましたが、特に物理学に普段から触れることのない人にはさっぱりなところもあるかと思います。
私自身、専門でもなく趣味的にこういった物理学に関する書籍を読むときがある程度で、量子論などについて、何から何まで知っているわけではありません。
ただ、とても興味深い世界だと思わないでしょうか?
それこそ専門的なことに携わらなければ、こういう分野につきものの難しい数式なんてチンプンカンプンでしょう。
(私もさっぱりです…)
それでもやはり、物理学というのはどこかワクワクさせられる魅力ある学問だと私は思います。
非日常的な理論も登場しつつ、それでいて私たちのいる日常に無関係ではない。
そんな物理学の魅力を交えて、以前に取り上げた、三池崇史監督の『神様のパズル』の記事も、もしよければご覧になってください(→記事参照 ※FC2ブログに移動します)。
また、難しい専門的なことや数式のことはよくわからないけど、物理学ってなんかおもしろそうだなと思った方は、関連の書籍を読んでみてはいかがでしょうか。
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【追記】──「シュレーディンガーの猫」について、アルファ粒子がどうとか、ミクロの世界がどうたらと述べました。
しかし映画の中ではこの思考実験についてそこまで詳しい説明はありません。
「50%の確率で毒ガスが発生する装置が入った箱に猫を入れる」
という簡潔な説明を人物がするだけです。
「ミクロの世界では(1つの)粒子の位置がどこにあるかを確認する際、それは観測されるまでは複数の結果が重ね合わせになっている」
という考えを、我々が目で見えるマクロの世界においてはどう説明できるのだ?
マクロの物質だってミクロの物質から構成されてるわけだから、マクロの世界でもそんな信じられない現象が起きているということなのか?
という不可解さをわかりやすく指摘するために生まれた思考実験であることを、劇中ではふれていません。
なので知らない人がこの映画を観ても、すでにこの思考実験の話しの段階でなんのことやら?と疑問になってしまうと思われます。
そこで、この記事ではその「シュレーディンガーの猫」という思考実験の背景を少しでも知ることによって、映画を観た際に
「ああ、あのパラドックスを表した実験のことね」
と反応できれば、作品の見方も違うものになっておもしろいと感じられるかもしれないと思い、映画よりは少し詳しい説明を入れました。