いざ内容を観たらその邦題の当てずっぽうなこと。
しかしながらこのタイトルとジャケットからして雰囲気よさそうな近未来SFを想像してしまい、観ずにはいられない。
『プロトタイプA 人工生命体の逆襲』(2020年 監督:キャサリン・ハードウィック 出演:ヘレナ・ハワード、ドン・チードル、エミリー・モーティマー、エマ・ホーヴァス、ジャン・ルイス・カステヤノス、ベリッサ・エスコベード 他)
【あらすじ】──高校生のアイシャ(ヘレナ・ハワード)は、転んで負った腕の傷口により、自分が人間として育てられたアンドロイドであることを知る。
操作され消されていた断片的な記憶を取り戻しながらアンドロイドとしての能力を解放していく彼女は、真実を隠してきた父親やカウンセラーに怒りを覚え制御不能になる。──
☆高校生の友情や親子愛を描いた青春ドラマ
まずこの邦題に騙されましたね。
逆襲と言われたら、アンドロイドが人間に攻撃してくるような内容を想像してしまいます。
実際そういうSF映画はよくありますが、本作は違います。
近未来SFと言っても、アンドロイドが学校内にいて生徒と共存する描写はあるものの、普通に現代と変わらない世界観です。
そして物語の中心は人間として育てられたアンドロイドが、自分の正体を知ってしまったことにより苦悩するところにあります。
彼女の周囲の者たちも基本的に善良な人たちです。
主人公・アイシャが人間的すぎて、ますます人間ドラマ色が強い作品です。
彼氏がいて、親友の女の子がいて、良き父親がいて、知らずにいれば普通の人間でいられた女子高生です。
こういう人間っぽいアンドロイドでいつも思うのだが、食事も普通にやるんだなと…
しかしそうでもあらないと人間らしくならないですね。
そしてもちろん人間らしい感情があるがゆえに、自分がアンドロイドであることを知ったことによる苦悩も大きいわけです。
しかもそれまではカウンセラーに記憶を操作され、アンドロイドであることを知ってしまう状況に遭遇してもその記憶は消されて覚えていなかったという酷い扱いです。
カウンセラーも父親も悪い人間ではないですが、こんな騙し方をしていたからそら彼女も怒ります。
本当に悪いのはこんなアンドロイドを作った企業なんですけどね。
しかし、自分を人間だと思い込むほどの人間らしい自我を持ったアンドロイドなんて実在したら恐ろしい話です。
★身近な環境にいるアンドロイドとの距離感
本作の舞台となっているのは近未来ではありますが、だからと言ってめちゃくちゃサイバーパンクな世界というものではなく、現代と変わらない学校があり、そこにアンドロイドが普通に歩いてしゃべっています。
現代の私たちが暮らしている日常にアンドロイドによる便利さが所々に加わっているということです。
現実味があるようですが、実のところおかしいかもしれません。
人工知能が発達したところで、それらは例えば車とか家電とか、そういう周辺の道具に搭載されて便利になっていくのは考えられますが、いきなり人間みたいな姿のロボットから先に開発が進むとは考えにくいからです。
本作のアンドロイド以外の機器の発達はあまり描写されていないのでわかりませんが、とにかく現代とあまり変わらない世界で、身近にアンドロイドが歩いているといった具合です。
残念なのはそのアンドロイドたちの社会的な役割がはっきりしていないことですね。
一際人間らしすぎるアイシャ以外のアンドロイドたちの役割と言えば、様々な情報提供といったところでしょうか。
わざわざ人の姿をしているのだから、それらしい役割がもっと前面にあっても良かったと思います。
──その点で本作はアンドロイドが一般化した近未来といっても、よくある近未来SFというよりは、女子高生の姿をした極めて人間的なアンドロイドの目を通した青春ドラマに焦点が置かれています。
ブレードランナーや攻殻機動隊のようなサイバーパンクな作品を期待して観てしまうとがっかりするかもしれません。
いかにも派手な未来社会を描いたSFの世界観とは違う視点で、人間らしく発達した人工知能を描写しています。
純粋に自分がアンドロイドであることに気づいた女子高生が起こす行動による成り行きを描いたストーリーとしてはおもしろい作品と思います。