ミステリー要素における中村義洋の世界──『白ゆき姫殺人事件』 | Blu-ray DVD Amazonビデオ 劇場最新作より、映画の感想・レビュー!

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☆ミステリーという軸で魅了する中村義洋監督の作品



私は『予告犯』と『残穢 ─住んではいけない部屋─』を劇場で観て魅了された後、過去作も気になって『アヒルと鴨のコインロッカー』と『フィッシュストーリー』をDVDで観ました。

中村義洋監督の映画は、それぞれ話のシリアスさの度合いや細かいジャンル分けは別にして、ミステリーという大まかな軸として秀逸さを誇っています。

いや、こういう場合は監督よりも、それぞれの作品の脚本の腕が反映されるはずなのですが…。

もちろんシナリオで良いと思わせているなら、そこは脚本に携わる者、更には原作があるならその作者の力によるものなのでしょう。

しかし、中村義洋が監督した作品にはやはり中村義洋の持ち味、それもシナリオの運びの方に独自の共通点を感じずにはいられません。

そうそう!

『予告犯』を観に行ったとき、その余韻で早速、家で観たこちらの作品も。

『白ゆき姫殺人事件』(2014年 監督:中村義洋 出演:井上真央、綾野剛、蓮佛美沙子、菜々緒、金子ノブアキ 他)



【あらすじ】──化粧品会社のOL・三木典子(菜々緒)が何者かに滅多刺しにされ殺される。

ワイドショーの制作を請け負うディレクターの赤星雄治(綾野剛)は知人の狩野里沙子(蓮佛美沙子)の証言から、犯人は失踪している典子の同僚・城野美姫(井上真央)と断定し、取材を始める。

美姫に関する周辺の情報や実名までが暴露される中、典子と会社の同僚たちとの思わぬ関係が明らかになっていく。──

アウトローな作品、コメディタッチな作品、ホラーとさまざまなジャンルはあるにせよ、主軸としてミステリー色を持ってくる中村監督の作品。

この『白ゆき姫殺人事件』は正統派に殺人事件を描いたミステリーです。

しかし、人間の醜い嫉妬やSNSの情報の残酷さ、テレビが持つ危ういほどの影響力を現代的な視点に描写しているところに惹かれます。

そして主人公が謎を追っていく中で、だんだんと事がややこしく奥深く、複雑になったかと思えば最後に全てが1本の線としてつながる心地よさ。

中村義洋が監督する映画の共通点はここなんですね!

いや、だからやっぱりこういうのって脚本や原作者の実力が反映されるはずなところだと、さっきから述べてるのですが…。

不思議です。

私は映画業界に携わるわけではないので詳しい事情を知ってるわけではありません。

ただ、──作品による多少の違いはあるとしても──だいたい監督の与える影響というと、もっと映像から直感的に伝わる演出やカメラワーク、場合によっては言語レベルでは表しにくい"絵"といった部分だと私は勝手ながら思っています。

ジョン・ウー監督作品の白い鳩とか。

(↑バカモン!こりゃ単純すぎるだろ!)

しかし、中村義洋の作品はもちろんこの"絵"的なところでも彼の持ち味はあるのですが、それらがうまく脚本にまで影響し溶け込んでしまっているという見方ができます。

だからこそ、それぞれ作者の違う原作小説があり、そして作品ごとに違う脚本家がいても、やはり「中村義洋監督の映画」という持ち味がシナリオも含めて表れるのでしょう。


★俳優たちが演じるキワ立つ人物像

この作品における井上真央はホント、悲劇のヒロインですね。

彼女のファンなら愛しくてたまらないのではないでしょうか。

この城野美姫という人物の薄幸な人物像が思いもよらず井上真央の魅力を映えさせています。

私は特別ファンというわけではないですが、それでもこの劇中における彼女を見ていると、心の中でひたすら彼女の味方をしてしまいますね!

ラストに向けていい具合にダサく、ドツボにはまるディレクターの赤星は綾野剛が演じています。

この感じ、今思えば『日本で一番悪い奴ら』を観たときの感覚に近いです。

調子にノッてきてからの見事な転落。

こんな彼をたぶん誰も同情できない、文字通り"情けない"人物ですが、綾野剛が演じたらピカイチですね。

社内でアイドル扱いの美人OLである三木典子は菜々緒が演じていますが、以前からの彼女のイメージにぴったしで、こちらは逆にややベタな配役だったかなという気がします。



そんな彼女以上に、そして登場人物の中ではある意味一番、現実にいそうなキャラというと、蓮佛美沙子が演じる狩野里沙子。

内心は嫉妬に燃えていて、なんだかんだ言って最後はサイコパスは性格を発揮しています。

で、これだけ言って実は私が一番好き…というより、うれしい存在が金子ノブアキです。

城野美姫が恋に落ちる相手で、会社の係長・篠山聡史の役です。

彼との恋も三木典子に奪われてしまう憐れな美姫ですが、この係長の方はというと決して嫌な人物ではないんですね。

金子ノブアキが普通にいい上司を演じているのは別におかしくはないのですが、とにかくこの図が好きです。

それにしても、今さらですが金子ノブアキはすっかり俳優ですね。

RIZEの『Why I'm Me』のPVを知ってる世代としては随分と雰囲気変わったなと思います。

しかし俳優としての彼もステキだと思います。

『東京無国籍少女』ではちょっと嫌な教師の役でしたが、おかげさまで主演の清野菜名の可憐さが際立っていました。

ドラマーとしてのカッコよさもそのままに、俳優としての活躍にも注目していたいですね!


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【追記】──後になってから更に考察してみたのですが──

中村義洋監督の映画はたとえ精巧に作り込まれたミステリー要素があっても、それを決して重々しく見せない作風が基本的に見受けられます。

「このミステリーがすごいんですよ」

というような気構えや空気感は決してありません。

俳優たちの演技にしても、サラっと軽やかな台詞が飛び交い、映像からもどこか日常の世界からの地続き感があります。

作品のテーマやストーリーの内容に対するこのギャップが、原作や脚本が元々持っている凄みをむしろ対比的に際立たせているのではと、私は思えてきます。

これが原作者や脚本家の書いた世界を100とした場合に、それらを"中村義洋"流の120%に持ち上げていると言えます。

もちろんこの辺りの評価は観る人によって賛否両論があるでしょう。

特に、先に原作を知ってる人からしてみれば、作品の持つ本来の魅力を台無しにしているという意見もありそうです。

それを感じさせる意見が、『予告犯』の劇場公開当時にいくつか見受けられました。

小説や漫画を原作にした映画は、原作を知ってる人のほうが確かに造詣の深い意見が言えるものですが、場合によっては原作を知らないほうが楽しめるということですね。