『いつか~one fine day』初日レポート | 拝啓、ステージの神様

拝啓、ステージの神様

ステージには神様がいるらしい。
だったら客席からも呼びかけてみたいな。
観劇の入口に、感激の出口に、表からも裏からもご一緒に楽しんでみませんか。

拝啓、ステージの神様。

似合っていることを書き連ねてみます。

シアタートラムでミュージカルをイメージする人は少ない。

225席のあの劇場では、限られた数の登場人物で見せるストレートプレイが上演されることが多いからだ。
 
11日(木)に初日を迎えたミュージカル『いつか~one fine day』を観た。シアタートラムが似合うミュージカルドラマだ。
 
ほかにも似合うものをたくさん見つけたので書き出してみたい。
 
初日の緊張感と、このドラマの緊張感がよく似合う。それは役者やスタッフだけじゃなくて、観客も。
回を重ねると、リピーターも増えてくるはずなので、このバランスが変わることで、毎回違った緊張感が生まれるだろう。
 
曲数が予想の上をいく似合い方だった。
説明が難しいが、つまり音楽と芝居のバランスが気持ちいいということ。
歌、また歌でもなく、芝居、ずっと芝居、たまに歌……でもなく、絶妙なボリュームなのだ。
 
春真っ只中だけど、夜は冷たい風が吹き、気を抜いたら風邪をひきかねないこの気温と、登場人物たちがそれぞれ抱える凸凹した重さが似合っている。
 
保険調査員の夏目テルを演じる藤岡正明さんの歌声が、劇場の高い天井と似合っていた。
ファンの方が「あ、藤岡さんだ!」という目線で物語を見始めたとしても、始まってすぐにそこにいるのは誰でもなく、テル……と思える感じも。
 
まだまだ似合っていたものは、ある。
テルの亡くなった妻・マキを演じる入来茉里さんは、彼女のセリフと関係の深い色のシャツが似合っていた。
そして、彼女は大人になるのがもう少しゆっくりだったら良かったのにな、そうしたらもっとマキは……と、身内じゃなくても悔しい気分にさせられた。
 
テルの上司、クサナギを演じる小林タカ鹿さんが中堅サラリーマンであることは、やっぱり似合っていた。あ、……。
言わないだけで、皆、いろいろ事情を抱えている。男の人は特にそうかも?
ポロッと本音を出せば、楽になるのかな?とつい想像してみたりした。こういう時、観客は自分の性別とかを超越して想像できるのがいい。
 
性別と言えば、エミの友人、トモヒコを演じた荒田至法さんは、髪型がトモだった。似合っている。
ゲイの自分と、盲目のエミはマイノリティ同士だと語る台詞があるが、それは昔に比べたらオープンだけれど、まだ本人が語る以外には開けていない側面を浮かび上がらせてもいた。
 
タマキを演じる内海啓貴さんの声のトーンが似合っていた。入社2年目の彼に、「ねえねえ、結構おばあちゃんっ子だったでしょ?」と話しかけたくなるようなトーンとテンション。
 
エミの友人、姉のような存在のマドカを演じた佃井皆美さんは、エミに対する思いが強すぎて、一見冷静なつもりでも自分をおさえられなくなる様子が、彼女のスレンダーなスタイルと似合っていた。
 
エミの母、サオリを演じた和田清香さんの歌声には、ハンカチが似合う。というか、必須。
母親という経験をしている人なら、タオルハンカチがきっといい。
 
皆本麻帆さん演じるエミには涙と笑顔が似合っている。その涙と笑顔の裏にある、エミの人生、エミの強さと弱さの混じり合いに、彼女の絞り出すような歌声が似合っていた。
 
いくつもの曲、その歌詞に耳を傾けると、自分になじみのある単語が必ず聞こえてくる。
それは現代というか、現在(いま)に似合っている。
 
「いつか」を生きる人たちの重なる声同士が似合っていた。
それは技術的な、音楽的に「合っている」ということよりも、息があっているということに近い。
 
帰り道、家路を急ぐ人の足取りの速さや遅さが、この舞台に似合っていた。
(ステージ写真提供:conSept)
 
〈公演日程〉
2019年4月11日(木)~4月21日(日)
シアタートラム
 
パンフレットの中にある、作曲・音楽監督の桑原まこさんの文章を読んで、うっすら泣きました。これからご覧になる方、このページだけでも最初に読むことをおすすめしちゃいます。
 
※ご出演の藤岡正明さん、荒田至法さんのインタビューをさせていただきました。
 
※稽古場レポートを書かせていただきました。