サクラノオカ
「抱きしめるからね」と宣言したと思ったら
あっという間に、間合いを詰めて
答えも聞かずに、私をギュウとした。
こちらは及び腰になっているのに
我関せずという、そ知らぬ顔で
それはそれは自分勝手なタイミングで
強く抱きしめられたのだ。
日暮れのころは寂しかったのに
古びた校舎がとても好きで
正門まで、街灯のない道のりも
一緒なら怖くなかった。
今はもう無くなってしまったあの場所で。
★
懐かしい、
桜の古木が見事な並木道を久し振りに走った。
揚げたてのコロッケを売っていた肉屋はシャッターを閉めて
バス停の名前も変わっていた。
大切な思い出ばかりの町並みは、昔と違って見えた。
また私たちの存在が不確かになっていく。
記憶の中だけに、辛うじて残った思い出だけが頼り。
心にはいつだって、切ないほど高い青空が広がり
秋風が吹けば、乾いた桜の葉が吹雪になる。
トンネルの向こうにはあなたがいる。
その表情がはっきり見えないのは、
流れてしまった時間のせい。
スプリンクラー
今日は、昨日と打って変わって暑いです。
連日夜ふかしのしすぎで、今ごろ眠くて、思考回路がぶつぶつ切れる。仕事中なのに集中力低下してしまうので、少し気分転換をば。
午前中に、斜め向かいの家が水撒きを始めました。蛇口を全開にして噴出すスプリンクラーの音と、水しぶきが地面や木にあたる音。これで涼しくなるかな?なんて思っていたら、10分経っても、15分経っても、水が止まらない。
なんだかおかしい気がして、出窓からチラッと外を見ると
あれ・・・人がいない!?
おせっかいな私はよれたタンクトップに膝の飛び出たヨガパンツ、すっぴんにボサボサ頭という姿で、シャツを引っ掛けて外に出てみました。(余談ですがヨガはしません、単なる家着です)
さっきから水が噴出しているのはスプリンクラーではなく、なんと水道管でした。
こ、これってもしかして、非常事態!?
すっかりぬかるんだ人の家の庭先を乗り越えて、呼び鈴を押し、「斜め向かいに住んでる者ですが、お庭が水浸しになってます」と、ご報告。
バタバタと、これまた超リラックスウェアの年季の入ったスッピンさんが登場し、大騒ぎ。私のお役はそこまで。また庭を横切って、巣にもどりましたとさ。
気ままな音楽を聞いて、携帯のアラームをセット。お昼過ぎに、15分の昼寝。申し訳ないぐらい贅沢です。それでも去らない眠気に、フリスク攻撃。続いてボリボリいう衝撃が脳に響く、硬すぎる八ツ橋をひたすら食べて、やっと集中!仕事に戻りました。
最近、ふつふつと意欲がわいてきて、意味もなく楽しいです。
まだまだやりたいことがあるし、一人ひとりの「やれること」には際限がなく、細かく挙げたら尽きることがありません。
「限界」なんて、あるのでしょうか。そんな高レベルまで、永遠にたどりつける気がしません。私なりに、ただベストを尽くすまで。
見えないところで力をくださる皆さんに、心からのありがとうを。
目を閉じれば
渇ききった校庭でゆっくり円を描くスプリンクラーと
追いかけっこした子ども時代。
わざと中心を飛び越えたり、服を濡らして声をあげて。
そんな単純なことに、たまらなくワクワクしていたものです。
一番星
あなたは記念日をきちんと憶えていて、
何かほしい、どこへ行きたいと訊きますが
わたしはいつも、とても悩みます。
ほしいものなど何もありません。
高価な石も、鞄もいらない。
ホテルの食事も、特別なワインも、
おしゃれなスーツも車も、何にもいらない。
いつもとおなじ一日であれば、それでいいのです。
たとえばふたりでずいぶん寝坊をしてから
コーヒーをポットに入れて、お昼ぐらいにでかけませんか。
いい匂いに誘われて、焼きたてのパンを買ったら
眺めのいいベンチにでも座って、半分こして食べましょう。
あなたは照れていやがるでしょうが
手をつないで歩きませんか。
つながった影が、夕陽に照らされて長く伸びるころ
この街の空に一番星がみえたなら
美しさに泣いてしまっても、笑わせてください。
それから夕飯の買い物をして
鼻歌で、あなたの好きなものを作りましょう。
一日の終わりには、
わたしをやさしく抱いてください。
いつもとおなじ明日がきて
あなたがそこに居てくれるならば
どれだけしあわせであるか知っていますから
ほしいものなど何もありません。
shampoo
髪がだんだん伸びてきて
埃っぽい空気を吸収すると
あなたのことを思い出す
逢うたびに私の髪に染み付いていた
煙草の匂いが フラッシュバックする
ひざを抱えて湯船につかると
毛先に鼻を近づけて
煙たさ具合を確認してしまう変なクセ
長かった髪を洗う前に 何回も
あなたの気配に包まれていたころ
この髪を撫でた手はあたたかかった
茶色になった壁にもたれかかるあの人が
まだ側にいるような気がした
思いもさっぱり洗い流せたらいいのに
すぐさま
心にもないことだと苦笑いする
木蓮の道
夕暮れの家路をとぼとぼと
急に秋めいた空気で
メールを打つ指がつめたくなる
言いたいことは沢山あるはずなのに
何をどう伝えたらいいのか分からない
いっそ電話をかけてしまおうかと思い立つけれど
そんな勇気も用事もなく
あなたの声が聞きたいなぁと思うだけ
それもまあ用事といえば用事なのかな
ふとした拍子に何度も思い出して
こんな風に今もあなたを考えている
そのことをそのまま伝えてみたい
自分に猶予を与えるように
わざと足を遅らせて
ゆっくりゆっくり歩いたのに
ほらもう最後の曲がり角
書きかけては消し 書き直しては消し
結局送らない言葉たちが
木蓮の落ち葉の上に降り積もる
まどろみつつ。
木曜日、ランチミーティングで重めのハンバーガーを食べて
もうこれ以上何も食べられない!と翌朝まで水で過ごし
金曜日、打ち合わせの後にインド料理で遅めのランチ
またしばらくは何も食べられない!と思ったのに
夜がきたらしっかりサンドウィッチとコーヒーを
何時間もかけてゆるやかに味わい
土曜日、水とチョコレートをひとつまみ
夜になってから編集部時代の酒豪スタッフとともに
ディープな沖縄・奄美料理。
食べた!食べた!!食べ過ぎた!!!
(おまけに呑んだ!)
こんなにもたくさん、しっかりと食べ続けているなんて
私にしてはめずらしいことなのです。
これも何かの思し召しか、未来への蓄えか。
でも、エネルギーを十分にチャージしたときは
自動的に抑制がききはじめ
トータルで見れば帳尻が合うように
体内計算機が働いているようです。
けっこう便利にできてます。
それだけでなく、
いろいろな動植物から命をいただき、心なしか元気です。
早くも秋の夜長。
「Les Miserables」を久しぶりにかけました。
感動で鳥肌のたった腕を抱きしめつつ、劇場に通いつめ
聞き取れない英語でも、何度も繰り返し聴いた音楽。
ミュージカルでは聖人の色濃い、主人公のジャン・ヴァルジャン。
ユゴーの原作では、より人間臭く
ずるさやエゴ、深い葛藤、自問自答、醜さも描写されています。
誰もが持っている「人間」の部分は、聖人とはほど遠い。
それでも、いざ選び取らざるを得ない選択を迫られると
自分の愛するものを見捨てられず、身を捧げてしまう。
悩みも嘆きも、どうしようもなく「人間」らしい。
美しくあることよりも、泥臭い部分にある本質に心震えます。
話変わって、今日は選挙でしたね。
一票を投じるためには、その価値があると信じられなければ。
(こまったな・・・どこにも期待できない!?)
もう一度新聞を読みこみますか。
ヘビーな胃袋のままで夜明け前。
そろそろ休みましょう。
おやすみなさい、長いつぶやきでした。
為すがまま
あなたにとって、私って何?
こんな台詞を いい大人が言うものではありません
どうしても確認せずにはいられない心情でも
その場凌ぎの口約束を期待するぐらいなら
そっと人差し指をあてて黙っておきましょうか
いつかそんな風に訊いた私に
シンプルな人は苦笑いしました
「一緒にいたいから一緒にいるんだ
それ以上、何が知りたいの?」
たしかに
それ以上何もいらないと思いました
だから返事のかわりに口づけをして
それきりつぐみました
「一緒にいたくなくなるまで一緒にいましょう」
為すがまま
そうやって 今日までやってきたように
8.あのころ見た将来
<バックナンバー>
★
将来の夢なんてもの、30をとうに過ぎた今でも分からない。
ずいぶん時間を費やして、どんなことをしていれば幸せを感じられるのか、いい加減に判断できるようになってきた程度のことだ。先のことはすべて未知の世界で、今もなお「将来のまま」。当然、10年前の私たちに卒業後の進路をどうすれば良いのかなど分かるはずもなく、社会に出るまでのしばらくの間、身の振り方に悩んでいた。
就職を意識する時期は、人それぞれ違う。それでも一人がいそいそと動き出せば誰もが後に続き、いつの間にかそれが当たり前になっていく。身勝手だった私も、だんだんと成績の甲乙を気にするようになり、かわいい不良は不良でいられなくなり、横浜を歩いた気ままな放課後は遠ざかっていった。個性のかけらもないスーツに身を包めば、履きなれないパンプスで靴擦れをこしらえる。落ち着きを手に入れるために、自分の特長さえ失われていくように思えた。
クミコさんは、就職と自分とは「無縁」と最初から決め込んでいるようだった。「とりあえずバイト続けて、やりたいことを見つけられるまで、のんびりやるからいいよ」。堂々として、やたら潔い言葉は聞いていて羨やましかったけれど、実際のところ私がそんな風に生きられるかといえば無理な話で、不確定な進路には不安があった。
教務課に貼り出される、代り映えしない求人情報を眺める毎日は、他力本願で、与えられたものの中から、なんとか社会人になるための受け入れ先を選び取るようなものだ。何一つ手ごたえのない貼紙を見るために、少し進んでは立ち止まるのを繰り返す私を、クミコさんは待っていて、ご機嫌な声で「いいのあった?」と聞いてくる。
私は、公務員の安定したイメージに憧れを抱きつつ、なんとなしに就職活動を続けていた。公務員試験の模擬テストは苦手で、特に割合や数の分布の問題でてこずっていた。勉強につきあってくれるクミコさんの方が、よっぽど正解が多かったりするのだから、やりきれない。
「1組の子どもたちに、うどんとそばのどちらが好きかを聞いたところ、うどんが○名で、そばが○名、どちらも好きが・・・」面倒くさくなってペンを放り投げ、教務課の新着情報をぷらぷら探し歩く。
卒業したら何になりたいという目標よりも、なりたくないと条件を挙げることの方が明確で簡単だ。現実はそれほど贅沢は言っていられないのに、誰かの就職が決まったと聞けば、夢も希望もはっきりしないくせして焦ってばかりの日々だった。
何のために就職するんだろう。
本当にやりたいことは何だろう。
勉強はもうしたくないのかな。
そもそもなんでここにいるんだろう?
結局、何一つわからない。
進路の悩みについて、クミコさんに相談するのは気が引けた。どうして彼女が就職しないのかすら、本当の理由を聞いたことがなかったし、聞かれたくもない話題のような気がして、避けておこうと思っていたからだ。
かなしいからじゃない
ふとした瞬間に泣けてきた
ぼろぼろ涙で ぐちゃぐちゃの顔を見せて
どうしてあんなに泣けたんだろう
いつ以来のことだろう
はっきりとした理由も分からずに
溢れる涙がとまらない
子どもに戻ったように泣きじゃくって
ゆっくり呼吸を整えて
ああそうか 答えは簡単
私はこの人の前なら
安心して泣けるんだ
たったそれだけの理由なんだね
くすぶり続けて肩に積もった灰も
化粧も一緒に流れ落ちるほど
愛ってものに心が震えて
わんわん泣いた
曇った世界から視界がひらけたら
隠すものなど何一つない
心晴れやかに また歩き出そう
