赤い頬
英文学の講堂に、彼はいつも2番目にやってくる。
やけに背筋を伸ばして歩く教授は、得意のイングリッシュ・ジョークを飛ばすけれど、紳士の冗談は高尚すぎて、笑いどころがさっぱり分からなかった。
私は人前で話すのがとても苦手で、いつだって紳士に当てられないように隅の方にひっそり座っていた。「Yes/No」で答えられることを聞かれても、声が震えて全身汗まみれになってしまう。呆れる小心ぶりを何とかしたくて選択したディベートの講座も、たった3回目でドロップアウトしてしまい、自分なりに落ち込んでいた。
一昨日の授業で紳士の標的になったのは、彼だった。クラスメイトの四方山話どおり、彼はとても優秀だったから、紳士が「ある複雑な英詩についての解釈」を訊いたところで、その回答は非の打ち所がなく、完璧な文法を操る低い声が静まった講堂を満たすと、学生はみな舌を巻いた。
でも私は見てしまった。一息に喋って着席したとたん、その美しさとは対照的に、彼は耳まで赤くなった顔を手のひらで隠すように、深呼吸でゆっくりと身体を揺らしていた。肘をつき、平然と窓の外を眺める振りをして。彼に心を奪われたのは、まさにこの瞬間だったと思う。
(ああ、このひとは私とおんなじ。)
顔を上げた彼とうっかり目が合って、今度は私が慌てて目を伏せた。視線の先でほんの一瞬、バツが悪そうにはにかんだ彼の笑顔が胸に突き刺さり、もう他のことなど何一つ頭に入ってこなかった。淡々と進む紳士の講釈が遠くの世界から響く呪文みたいに流れていた。
もういちど
むくむく湧いてくる、好奇心の波。
もう一度、何か一曲弾けるようになりたくて
ヘッドホンを買いました。
部屋の隅で、荷物置き場と化していた
古いエレクトーンに再び電気が流れました。
端の黄ばんだ楽譜を開くと湿気た紙のにおいがします。
窓を全開にして、真夜中に弾いてもいいし、
同じ場所で何度つまずいても気にならない
大きな音だけ聞きながら
自分が辿っている旋律に集中できるから
へたっぴでも、しあわせです。
まずは、何か一曲。
だって音を楽しむから、「音楽」っていうんですよね?
ついでに
ヘッドホンで聴いてみたLenny Kravitz の 「Again 」。
リリースされたころ、MTVを惚れぼれしながら見ていました。
王道ロックのバラード、セクシーな声、
頬ずりされたい口元、ちらっと見える美尻も(笑)
PVのラストがちょっと切ないのです。
I've been searching for you
I heard a cry within my soul
I've never had a yearning quite like this before
Know that you are walking right through my door
All of my life
Where have you been
I wonder if I'll ever see you again
And if that day comes
I know we could win
I wonder if I'll ever see you again
discoverable
居眠りしていると思われてしまうかしら
でも目を閉じて その声にじっと耳を傾けていたい
私の好きな音が すとんと心に落ちてくる
そうです
私は好きなのです
誰かのことを
「何もかも知っていなきゃ不安」なんてほど
もう若くはありません
とはいえ
その正体を知りたいというより
もっと掴みたいと思うときがあります
どんなに強い人にだって
か弱い一面はあるもので
忙しいときほど一人きりは身に染みる
人の温もりが大好きなくせに
私と似ている部分があるような気がして
だから信じてほしいと思います
笑っちゃうぐらい毒されているので
愛されていることに
傲慢でいていいですよ
9.鶴屋千年堂
<バックナンバー>
卒業式の日は晴れだった。こんな日でも、やっぱり遅刻しないように、クミコさんと待ち合わせて電車に乗った。「横浜駅で、初めて会話をしたこと、思い出すね」と、何度も話しながら。
★
同じ景色を見ているようでも、その中にある「何」を見つめているのかは十人十色だと思う。ただ、クミコさんと私は、その点がとても似ていた。
あるとき、東横線の窓を流れていく変わり映えしない町並みをぼんやり見ていたら、ふたりの声が完全に重なったことがあった。
「鶴屋千年堂!見た!?」
東京や神奈川に住んでいればきっと、「亀屋万年堂」を知らない人はいないだろう。(※「お菓子のホームラン王」、和洋菓子ナボナが有名な和菓子チェーン。)
ところが、その名に酷似した謎の店が、ほんの一瞬、目の前の車窓をかすめていったのである。直後、私たちは顔を見合わせて大笑いした。涙がでるほど、周囲の迷惑も考えないで笑い転げた。
瞬時に同じことを言ったからでも、同じものを見ていたからでもなく、むしろ“亀が鶴になって、万年が千年に減っていること”が面白くて仕方なかった。あえて言わなくたって同じことを考えていることは、クミコさんのニヤニヤした瞳に映っている。だから、笑わずにおれなかった。
息も絶え絶え、お互いの肩をたたき合うころには「あれ・・・!?今の、どこだったか憶えてる?」となって、また笑えた。
その日から、私たちの「鶴屋千年堂」捜しが始まったのである。
手がかりは、藍色のシェードに白い文字で書かれた屋号のみ。
「妙蓮寺は越えていた気がする」
「綱島までは来ていなかった」
「こっちの窓から見えたよね」
試験前の一夜漬けよりも集中して、鶴の文字に目を光らせた。行きは混雑して窓際がキープできなかったし、帰りは日が暮れて、なかなか思うようにはかどらなかったから、「見間違いじゃないよね」と弱気になりながら、一週間は費やしただろうか。
「鶴屋千年堂」は、大倉山から少し離れた線路沿いにあった。
ほんの一瞬、小さな店構えが高架の下を流れていったとき、クミコさんと私は、キュウと抱き合った。家路に向かう人々が電車に揺られていて、怪訝そうな視線で睨まれたって関係ない。
何だか、とても「ありがとう」と思った。
とにかく、「鶴屋千年堂」はそこにあったのだから。
★
クミコさんは青みがかった緑のシャンタン素材のジャケットと、まっすぐな線がきれいなワイドパンツ。髪を一層短く切って、上品な少年のように決めていた。私は編み上げブーツに赤茶の小花模様のツイード、ちょうちん袖のスーツで赤毛のアンに倣い、おさげ髪。
袴を着たハイカラさんの集団に囲まれたおかしなふたりは
車をぶつけた桜の前で写真を撮った。
こんな調子で、私たちは学生時代を卒業した。
タイトル「お誕生日(^o^)」
日付が変わってすぐケーキが届きました。
{~~~~}
Happy Birthday
おめでとう!!!
体調はどうですか?
早く元気にねo(^-^)o
これは、これは・・・
嬉しい贈り物でした。
憶えていてくれてありがとう。
長引いていた風邪も、吹き飛びました。
ふさぎこんでいた悩みも、取れない疲れも、
目下抱えていた問題までも
紅葉のころ、また一つ歳をとります。
半分ぐらいは期待しながら、待つことにします。
もう半分は、「期待すると落ち込むぞ!」と
偶然ひろい
恋に発展するかどうかも分からないけれど
「気になる人」がいたりすると、
小さな偶然の一致までも
運命じゃないかと思えたりするものですね。
ちなみに・・・これまでに私が出逢った中で
とっておきのシンクロニシティは、
「気になる人」がつけていた腕時計。
もしかしたら誰かからのプレゼントなのかもしれませんし、
どういう経緯でその時計を手にしたのか
聞いたこともありませんが
何年落ちだか分からないそのマイナーな腕時計と
サイズ違いのペアを、まさに「私」が持っていたことは、
何かの運命か暗示ではないかと思ってしまいます。
間違って洗濯したり、踏んづけられたり、
ひどい目に遭っているのに壊れない腕時計。
ひどい目に遭っても、壊れないrelationship。
そして私が、一回り小さな腕時計を
どのように手に入れたのかは、
今も昔も、ちょっとした秘密のままです。
コレクターズアイテム
日通の引越しダンボール、一つ。
どこへ越してもついてきて、クローゼットの奥に鎮座する
それは私の思い出箱。
意味難解なアイテムがぎっしりつまっていて
一度開くと、1時間は座り込んで吟味してしまうパンドラの箱。
たとえば、午後の紅茶プレミアムの空き缶・・・。
なにこれ??
大好きだった人がくれたミルクティの缶だ。
絶対忘れられない恋が終わった日、投げてよこした薄紫の缶。
彼の手を離れて、私の手中に納まるまでのモーション。
回転しながら弧を描くミルクティが、
やけにゆっくり脳裏に焼きついている。
その引導は、凍えた指先が痛いぐらいに熱かった。
捨てるタイミングを逃してしまった
コレクターズアイテムの一つひとつを吟味して
思い出感傷・・・もとい、鑑賞。
案外、今ならばリサイクルできるかもしれないわ。

