箱に入った色とりどりのケーキ
おめざ
いつもより少し早く目が覚めた、6時7分前。
携帯のアラームをオフにしようとして、あ、と思う。
熱帯夜の気だるさが抜けきらない部屋で
いきなり正気になった。
めずらしく、メールが来ている。
私が寝たのは2時だったから、
それから朝までの間にメールを送ってくる相手など
相当な夜型の人か、早起きの人だ。
正解は、夜型の人からだった。
梅雨が明ける前に会って、それ以来
ずっと音沙汰なかったのに、
こんな風に、ふらっとバーへ立ち寄るみたいに
私のことを思い出すみたいだ。
目が冴えてしまったから、送ってきたらしき
他愛もないメール。
夜明け前の暗い部屋で
液晶の明かりに目を細めつつ、何を考えていたんだろう。
淋しい気持ちは、少しぐらいましになったのかな
ずっとずっと昔に
早起きした朝、母からもらえる一粒のチョコレートが好きだった。
そんな、甘いものを口に含んだ時のような気分なのに
今日の“おめざ”は、少しほろ苦かった。
nude
裸のまま、
あなたは気まぐれにスケッチブックを取り出して
わたしを描いた。
そんな日がときどきあると
わたしは芯から幸福に満たされ、
パステルで引かれていく自分の曲線を眺めては
しずかに余韻に浸っていた。
黄味がかった紙の上で
平たい胸や骨ばった身体は
命を吹き込まれたように伸びやかで美しく、
すみずみまで愛おしさを纏っていた。
わたしの抱えていたあらゆるコンプレックスを
「全部、僕のたからものだ」とあなたはいい、
小さな特徴の一つもこぼさないように
やさしくほほえみながら
わたしを描いた。
裸のまま、
静かな部屋にパステルが走る音がする。
その瞬間がどれほど純粋で穏やかだったことか
いま ひとり思い返している。
退屈じゃない不毛じゃない
ただの1回も言葉を交わさない君
それでも 信じるというより感じる
僕だってたまには 彼女と遊ぶし
それなりに恋を楽しんでるけど
ずっと遠くで何をしていても
君が生きてさえいれば 毎日が余計に愉快だ
君からの連絡は
一言だって胸にしみて
活字からは声が聞こえて
おかげで今日は少し機嫌がよくて
「何かいいことあった?」って
彼女は僕以上に嬉しそうだった
少し苦しい気分まで快感だなんて
インカパープル
「たまには手料理をふるまうから。」と、
気が利く男気取りで買い物に出て行った。
帰ってきて、ゴソゴソと袋から取り出される、
エンゲル係数が高そうな食材たち。
使いかけがあるのに、わざわざ塊のパルメザンチーズ。
ちゃんと揃っているのに、瓶入りのハーブが3種類。
サラダにしか使えなさそうなエキストラバージンオリーブオイル。
これだから男の料理って。
冷蔵庫から目的不明の材料を出す。
とりあえず、切って火にかけている。
一体、何を作っているのかわからないけど
イタリアン・・・よね?
途中で気になって、キッチンに近づくと
「まあ座ってて!」と追い返される。
かすめ見た鍋の中には、鶏肉を焼いたものと
人参とタマネギ、インカパープルなる、紫じゃがいも。
一体、これは何というんだろう、名も無き料理。
それにしてもインカパープル。
なぜ見慣れた野菜を選ばなかったのか・・・
(まさか「響きがいい」とかいう理由で選んだんじゃ!?)
味付けも勘、調理時間も勘。
炒め煮にして、にんにく醤油ひと匙たらし、
白ワインを差してからコトコト。
少しは期待できるかと思いきや、すぐに前言撤回。
コトコトコトコト火にかけすぎて
すっかりとけて姿を消したインカパープルと、
やけに紫がかった煮物が完成。
おまけに、味が、薄すぎる・・・
「色が変な病院食みたい」といいかけて、理性で言葉を飲み込む。
そこからは、最初の勢いはどこへやら。
極めつけに、パスタの湯切りに失敗して
鍋をシンクにひっくり返した。
水ぶくれになった手首に氷をあてて
「慣れないことはするもんじゃないね」とふてくされる始末。
プライドが高い人には、何も言わないけど
肩を落とす様がなんだか無性にかわいくって、可笑しい。
ひりつく火傷のそばに、そっと唇を触れると
柔らかくて冷たかった。
懲りずにまた、手料理作ってよ。
あ、でも今度は買い物から一緒に連れてってもらいます。



