サクラノオカ | 恋愛小説家

サクラノオカ

「抱きしめるからね」と宣言したと思ったら
あっという間に、間合いを詰めて
答えも聞かずに、私をギュウとした。
 
こちらは及び腰になっているのに
我関せずという、そ知らぬ顔で
それはそれは自分勝手なタイミングで
 
強く抱きしめられたのだ。
 
日暮れのころは寂しかったのに
古びた校舎がとても好きで
正門まで、街灯のない道のりも
一緒なら怖くなかった。
今はもう無くなってしまったあの場所で。
 

 
懐かしい、
桜の古木が見事な並木道を久し振りに走った。
 

揚げたてのコロッケを売っていた肉屋はシャッターを閉めて

バス停の名前も変わっていた。

大切な思い出ばかりの町並みは、昔と違って見えた。

 
また私たちの存在が不確かになっていく。
記憶の中だけに、辛うじて残った思い出だけが頼り。
 
心にはいつだって、切ないほど高い青空が広がり

秋風が吹けば、乾いた桜の葉が吹雪になる。

トンネルの向こうにはあなたがいる。

その表情がはっきり見えないのは、

流れてしまった時間のせい。