恋愛小説家 -18ページ目

新月の夜

食洗機のまわる音

暗闇で光るモニター

花の匂いととぼけた寝言

私はもう少しだけ起きていて

月のない夜を静かに感じながら

訳もないのに

しくしく泣きたくなった


何一つだめじゃないはず

だけど心許なく不安定な想い

ひどくちっぽけで

糸が切れたようにへたり込んで

もう動けない気がしたから

部屋の隅で小さくなっていた


でも朝が来れば立ち上がれると

ちゃんと自分でわかっている

思い出した

私はそういう女だったもの

haru

階段を上りきると大きな池のある公園があります。

桜は、三分咲きほどでしょうか。

蒲の小島で甲羅干しをしている亀を見つけました。

まるまるとしたカモの家族が日向ぼっこ。

反対岸にも、同じように池を眺めている人が立っていて

一瞬、それがあなただったらと

いつかの花見を思い出したのです。


あなたはいつも

同じものに視線をとめていたり

同じセリフを同じタイミングで口にしたり

同じことを考えてやっていたりするから

偶然この場所に居てもおかしくないと思ったのです。


ああ、春。

新しくなった手帳。

お気に入りだったシャーペンはなくしてしまいました。

カバーの裏に挟んだたからものだけは

何年も変わらないままです。







とうとい

3月が終わろうとしています。

早いものです、本当に。


振り返ると

11日に震災が起こってからは、毎日が飛ぶように過ぎていくようです。

現実だと信じがたいほどの、「現実」を突きつけられたとき

暢気にフィクションを考えてばかりいられなくなり

暗い街中、入場制限された駅、戦後みたいに早い夜を

ただ勤勉に、できるだけいつもどおりに生活していました。

新しい事態に直面しては、戸惑いながらも適応していき

また新しい事態に直面しては、また戸惑い、適応していき、

何度となく同じことを繰り返しながら、数週間が経っていました。

いつもどおりではない、でもそれが「日常」であること。

そもそも、いつもどおりとか普通って何だろうと思いながら。


一昨日、福島に住む母に電話をかけて、誕生日おめでとうと言いました。

母の家にはテレビがありません。

情報が必要なときは、ラジオを聴いているそうです。

テレビ、無くてもいいと思います。


「アーミッシュの暮らしがいいね。」「ほんとよ。」

陽が昇れば働き、夜が来れば休む。


自然に囲まれていると、その雄大さ、美しさに

いま日本が、(そして福島が)陥っている困難や悲劇が

嘘みたいに思えるわ、と言っていました。

でも、同じ町の公民館などに、避難してきている人もいるそうです。


当たり前ですが、ひとは尊い。

いのちも、精神も、愛情も、優しさも、あらゆる感情も、

日々の営みも、他愛ない一日も、尊いものです。








随想 110326

恋愛小説家


何ていうバラでしょう、とても甘い香りがします。

先週はずっと、沈丁花の匂いを感じながら歩いた道を

今日は花束を抱え、同じように歩きました。

大きな手提げが重たく手腕がしびれても、花たちをやわらかく抱いて。


「おばあちゃんのぽたぽた焼き」の知恵袋にかかれていた

『花瓶に少し砂糖を入れると切り花がもつ』というのを試してみました。

少しでも長く、この香りとしあわせな気持ちに包まれるように。


まるっきり余談ですが、

ぽたぽた焼きはリニューアルする前の方が美味しかったです。

現行品はソフトにしたそうですが、

煎餅らしいばりばりした食感が損なわれてしまいました。

同様に、チョコボールのキャラメル味も、前の方が美味しかったです。

キャラメルが柔らかすぎて、まったくもって物足りません。


・・・このように、世界にはときどき

元に戻してしてほしいと思うことがあるようです。


誓わない

 
永遠はないから誓わないけど
終わりがくるなら約束するよ
わずかでも離れるときには
二人が交わす別れの挨拶は優しく
遠ざかる手は振りあって
振り返り振り返り
笑いあいたい
あの時ああしておけばよかったと
戻らないものを悔やまぬように
けんかしていても
優しくありたい

Wait a second.

Wait a second! (ちょっと待って!)なんて、

1秒で終わるはずがないのにね。

・・・そんなことをぼやきながら、1人反省会をする。


この間の、出かける前のこと。

準備万端、すっぴんで行こうとして、ふと思い立ち

「数分だけ待ってもらってもいい?」とあなたに訊いてみた。

そうして、数分でうねった髪をまっすぐにして、化粧を少ししてみたら

何もしないよりも、ちょっとだけきれいになった。

よそ行きの私を見て、あなたも、ちょっとだけご機嫌になった。


うれしい。


いつも私は待たせることの方が悪い気がしていたのに

でも、あなたは少しぐらい待ったって気を悪くすることなどない人で

待つことよりも、むしろ、きれいにしておいた方がよいと言ってくれる。

せっかく一緒に出掛けるんだからさ、と。


ありがとう。


馴れ合ってはいけないと、胸に刻むんだ。

お昼にどこかの駅で待ち合わせするみたいな気分で

知り合って間もないころのように緊張感を持って

隣で、いつもきれいでいよう。

偶然会ったあなたの友達に、お世辞でも褒めてもらえるように。

ぴかぴかに磨いていよう。


ちょっと待ってと、ちゃんと言うから。

トゲ

恋愛小説家


種から育てたサボテンが、

まさかこんなに大きくなるとは思いませんでした。

植え替えるときには軍手と割り箸が必須のトゲトゲ具合。

しかし愛らしい。どこか癒される、多肉植物の存在感。

植物のある暮らしが存分にできるなら、

日当たりのよい窓辺を温室みたいにしたいと思います。



次に会ったら言おうと思っていたのに

また言えないまま後で肩を落とす

綿密に予習やシミュレーションしたって

目の前にあなたがいたらもう

戦略的な話し方なんてできない

そのくせ売り言葉に買い言葉で

棘のあるセリフばかり飛び出してくる

本当は違うのそうじゃないの

分かるかな分かってよ

すらすら言えることの方が

作り物みたいなものだってこと




随想 110317

恋愛小説家


生まれたばかりの私を見たときに

祖父母をはじめ、長生きしている諸先輩たちは

未来を担う子どもだと思ったでしょうか。


あれから30余年、

私もいつしか社会の中心となって動く真ん中の世代に入っていました。

大丈夫、上手くいくから大丈夫だと、

向こう見ずに邁進してきた結果として

積み上げられた宿題や後回しにされた面倒ごとがあるようです。

直面せねばならない、真ん中の世代。


開店休業になったがらんどうのスーパーを見て途方に暮れました。

何も並んでいない棚は無機質で冷たく

空虚な人の心と重なって見えるのです。

そこに物が一つもないということよりも、

そうしてしまった人の弱さが残念でなりません。


けれど見回すと

周囲にはたくさんのやさしさや思いやりも溢れていて

昔ながらのご近所づきあいのようなほっとする瞬間もあって

同じ人の持つ強さや温もりに心底安心するのです。


リレーのバトンを渡すのは、今の子どもたち。

無邪気な笑顔を眺めては

彼らが大人になるころの世界に思いを馳せます。

今の子どもたちがいつしか親となり

ひ孫に看取られるころの世界に思いを馳せます。

バトンと一緒に宿題まで渡したくはありません。

これ以上増やしてはならないし、減らさなければなりません。


私が知る由もない新しい世紀は

長い歴史から見ればそれほど遠い未来ではないのでしょうが

たった今、真ん中の世代にいる人間の一人として

未来が希望にあふれた豊かなものであってほしいと思います。


大切な人を、たいせつに。

明かりを消して

恋愛小説家


がらんとしたスーパーの棚

悲惨な状況を示す数字

次の余震への恐れ

計画停電も発表されて

大地震があってから時間が経つほどに

事態の深刻さを肌に感じるようになりました。


連絡の取れなくなったひともいます。

どうか無事でいてと、祈る気持ちで

今夜はキャンドルを灯しています。


花よ咲け

恋愛小説家


かたまって かたまって

みんなでかたまって一つ

同じ土に根を下ろした

つぼみの数だけ花よ咲け

つぼみのままで終わることのないように