恋愛小説家 -17ページ目

随想 110502

トーストにバターをたっぷり乗せて

レディースデーの上映予定をチェックし「英国王のスピーチ」を予約する。

時間が決まってしまえば、FIXされた予定に合わせて活動。

取材も兼ねてカメラ持参でサイクリング、

ポッキーを買ってから、M14(私の座席)に向かう。

帰りは31%オフのアイスクリームを食べようか。

午前指定の宅配便を受け取り、着替え。

毎日、天気さえよければ1時間は自転車に乗っている。

健康的かといえばそんな気もするけれど

基礎代謝量が上がっているのか、食べる量が増えている。

まあいいや、それでいいや。


遠く、東北地方の天気予報が気にかかる。


そんな月曜の午後であります。

 

五月晴れ

ウグイスの声が聞こえると口笛で真似た

ヤマツツジは磨りガラスの向こうで赤紫の小山になり
蜜を吸い色水を絞ったピンクの指を洗う
オルガンの上に飾られた兜を戯れに被り
音大を出たばかりの先生から5小節も進んでいないと叱られる
お仏壇の柏餅はあんこを抜いたらちょうどいい


ホ、ホ、ホ、ホーホケキョ

雨あがり

黄色い傘を逆さまにする幼馴染を笑う通学路

曇り空でも心は五月晴れだった

冷蔵庫の上にあるもの

3ドアの冷蔵庫は中くらいの大きさで、

踏み台を使わなくても上に物を置ける程度に、やや低く

つま先立ちをすれば薄く積もった埃がみえる。

だから日頃はあまり気にも留めずにいたけれど、

晴天に何となくスッキリしたくなって、古布を切り、拭き掃除を始めた。


拭きながらずっと、あなたのことを考えていた。

私よりも15センチ背が高いあなたには

目線ギリギリのこの埃が、いつも見えていたんだろうなぁと。


そうしたらとても、申し訳ない気がして

冷蔵庫の上にあるものを、一つ一つ手に取った。

パン屑だらけになっていたトースターもぴかぴかに磨いた。

うっかり黒焦げにしてしまったトーストも

表面を削り落としただけで、万事いつもどおり。

たのしい食事になったね、どうもありがとう。

あなたは、本当にちょうどいい。


静かなリビングに響くゴトゴトは製氷機の第一陣が落ちた音。

いつでも待ってるよ。なんて風に思う。

You are absolutely right.

自分がいなかったら仕事が滞るとかって

残業に明け暮れ、休暇も消化できずにいるあの子も

病気になって強制的に休んだあとで会社に行ったら

なんてことない、自分を外した世界はちゃんと、

いつもと何ひとつ変わらず回っていることに気付く。


薄情じゃなく、ただあっけないんだ。

 

私もそんなに夢ばかり見ていない。

恋人と別れ泣いたとしても、涙が永遠に涸れないはずはなく

座り込んでいたって、いつかは顔を洗うために立ち上がり

ぱんぱんと両手で頬をたたくタイミングがくると知ってる。

世界に、あのひとが、いようが、いまいが。


いっときグレーだった世界が息を吹き返し、もとに戻れば

きまぐれな誰かが私を見つけてくれるかもしれないし

恋をすることだってできる。それは尤も正しい見解。

「ちょっと前は落ち込んでいたけど、もう大丈夫。

 復活したんだ、いい人と出逢ってね、

 もう元気、今、しあわせだもの」


あのひとが言う通り、かなりゲンキンなんだ、女なんて生き物は。

だから私だけは違うなんて野暮なことは言わない。

けれどもそれは諦めじゃなくて、

失ってしまうとき、去っていくものに対して

縋りついて纏わりつくより笑って手を振れるほど、

格好つけな潔さと勇気を持っていたいだけ。


どんなに落ち込んでいたって明日は来る。 

心で泣いても、笑ってバイバイ。

そうしたら再来年ぐらいに、また逢える・・・かもしれないから。

瓜二つ

恋愛小説家


映画を観ながら手をつないでいたら

離すタイミングが分からなくなって

最後までずっとつないでいた


私の方が冷たかったはずの指が

温もり汗ばみ

同じ血が通っている温度になり

ときどきギュッと握ればギュッと返事


いつしか本当につながったようになって

どちらが自分の手なのかも

どうでも良くなって泣き笑い

エンドロールが流れて照明が戻り

立ち上がってからもずっとつないでいた


もともとは一つだったものが

半分になった瓜二つは

いったん出逢うとなかなか離れない

愛は勝つ。

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まるでキューケンホフの公園みたいです。
素晴らしい眺めだから、一眼を持ってきていたら良かった。
日頃からもっとアンテナを張らないと。

スタジアムのチケットも、平日だからと断って後悔しました。
デイゲームも最高の季節。
道路の振動か、応援団の大太鼓か、地震かもわからない。

昼休み、手づくり弁当を食べる、ベンチの男性。
作った人に見せてあげたい、しあわせそうな姿です。

どこかで流れる「愛は勝つ」が
いまさら優しい歌に聞こえる、2011年の春です。

母の母のこと

今朝のことです。

シーツを畳んでいたらふと、母の母のことを思い出しました。

それは私にとって、祖母のこと・・・なのですが、

「母の母のこと」として、思い出しました。


母の母が亡くなったという電話が来たとき、私はまだ小学校の3、4年生で、

姉弟と川の字になった布団のなかで、わーんわーんと泣きました。

動物や大切なたからものではなく

「ひと」が居なくなるということに涙したのは、初めてのことでした。


一緒に暮らしていたころ、ときどき鏡の前に立って

「お母さんに似てきたわぁ」とつぶやいていた母の背中が懐かしい。

大人になった私が見ている、祖母の姿は

いつも和室のお仏壇の上に掲げられていたモノクロ写真と

(部屋のどこにいても目が合う!と、姉と大騒ぎしたのも懐かしい・・・)

「お母さんに似てきた」と話す母越しに見る、面影なのです。


もしかして、もしかして

あと数年もすれば

母は、自分の母の享年を追い越してしまうのでしょうか?

とても若くに癌になった、大船のおばあちゃん。


何故だろう、思い出というものは突然やってきて

ほろほろっと、大事なことを置いていく。


福島にいる母に、とても逢いたくなりました。

今は、どんな気持ちで鏡を見ていますか?

私もたまに思うんですよ、「ああ、お母さんに似てきた」と。

 


随想 110415

恋愛小説家


この頃、自転車で通勤をしています。

たった一週間でも、ファンデーションの色ならば

1段階濃くなっているんじゃないかという、日差し。

せっせせっせとこいで、汗をかいています。


昨日の昼、スタジアムの近くを通ったら

桜の見えるベンチで仰向けに寝ているスーツ姿のお兄さんがいました。

だらしなく伸びきってぶら下がった手足が、なんだか羨ましくて

昼休みが終わったら彼がちゃんと起きられるよう願掛けしておきました。

お弁当を広げる親子、缶コーヒーを片手に語り合うカップル、

駐車場のど真ん中にぽつんと1台のセダン、

牛を小さくしたみたいな模様の犬が、土手の茂みに見え隠れ。

なんだか、「穏やか」という光景を久しぶりに眺めたように思います。


やたら暖かく、窓を全開にした黒塗りの車に追い抜かれたとき

むわりとEGOISTの香りが漂ってきた。色気あるスパイスの微風。

その昔、二十歳そこそこの同級生には、早すぎる気がした香り。

年齢を重ねるまでは着こなせない服のように

あの子はシャネルが似合うようになったでしょうか?

走り幅跳び

恋愛小説家


季節は春。

なのに私は、夏に偶然出会ったときのことを、思い出している。


散歩の帰り、夜の遊歩道にかかる水路を

飛び越えられるかなってふざけたら

「よし、跳ぼう。」と、あなたが言った。


冗談だよ、だって近寄ったらけっこう向こう岸が遠くて

飛べなかったら落ちてしまうし、やめよ?

だけどあなたは大丈夫、とリュックを下ろし

「これもってて」と言うが早いか助走に入った。


向こうから思い切り走って、水路の際で、踏み切る革靴。

スローモーションの一瞬を胸に焼き付けるように、ただ見つめた。

すたん!・・・着地。

その瞬間、夜風が爽快に通り抜け、身震いをした。

そして人目も気にせず、

「すごい!やったー!!」と大はしゃぎしたんだ。


怪訝そうに通り過ぎる人たちは誰も、そんな風に騒いでいないし

ましてや水路で走り幅跳びなんてしている大人など

ただの一人もいなかったけれど

しらふで、抱きあって喜びあえるほど、私はとても嬉しかった。

あの時たとえあなたが片足を水に突っ込んだとしても、

恋をしていたと思うんだ。


コントラスト

恋愛小説家


そういえば

桜が見える、秘密の場所を知っていたんだ。

だけど向こうの空は灰色で

私の背中側から一瞬顔をだした太陽だけが

やけに明るく花を照らしていた。


あなたは私が曇り空の下にいたり

しとしと雨に降られているときでも

照らしてくれるんだろうか。たぶんそうだ。

寒いと言ったら上着を脱いで

いいよいいよって、どんなに抵抗しても

着せてくるようなひとだもの。


なんだかとっぷり

疲れていた気がするんだけど

玄関にスキーの板も出たままで

片付けたいこと、残っているままだけど

小さいことでも、ほんの少しでも

今日出来たことを誉めていいかな。

肩にもたれかかってもいいかな。


私が影になれば、あなたが光になる。

あなたが影になれば、私が光になる。